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 Home Sweet Home 〜Special eve〜 3 

「…………あ」

我に返った瞳が困惑して自分を見上げてくるから、微笑んで。
いいから出なさいと囁くと、しばらくそのまま迷って、少女は仕方なさそうにケータイを取り出した。

「……はい。……おかぁさん?うん、そうだけど」

電話に出た彼女の声は目に見えて不機嫌そうで、それが可笑しくて笑いが零れた。
けれど。

「え?うん……え!?で、でも……」
「……?」

少女は会話をしながら眉根を寄せて、ちらりと天之橋に視線を走らせると、電話に向かって怒ったように叫んだ。

「そ、そんなこと、無理だってば!もう、無茶言わないで!切るからね!」

がちゃ、と乱暴にケータイを閉じて、彼女はふうと息をついて。
訝しげな彼と目が合うと、急いでぷるぷると首を振った。

「あ、あ、あの……」
「どうかしたかね?なにか問題でも?」
「い、いえ!なんでもないです!」

しかし彼女の様子は、どう見ても何でもない風ではない。
おかあさん、と言っていたが、母親に何か言われたのだろうか?
彼女と自分のことを、あの水月が反対するとは思えないけれども、もしかしたら家族でパーティをする予定でもあったのかもしれない。

「もしかして、何か予定が……おっと」

重ねて尋ねようとした彼の、胸ポケットで鳴り響く携帯。
電源を切っておかなかったことに内心で舌打ちをしながら、見覚えのない番号を確認して。
天之橋は少女にすまない、と告げると、携帯を耳に当てた。

「はい」
『ハーイ。お・げ・ん・き?』
「!??」

聞こえてきた声に、絶句。

、そこにいるワね?アンタ、どうでもいいけどいい加減にしなさいよ!』
「な、な!?」
『19にもなって、しかもクリスマスなのに家に帰される女の子の身にもなってみなさい!
 全く、遠慮とか奥手とかそういう以前に配慮が足りないワ!』

アンタは昔からそうなのよ、と半ば本気でこき下ろしながら、電話の主は苛立たしげに言い含めた。

『とにかく、今日はをそっちに泊めなさい。っていうか明日が本番だから明日もね。
 もしアンタが帰しても家には入れないから、そのつもりでね。You understand?』
「……分かった、分かったから……」

肩を落としてため息をついて、天之橋は眉間を押さえた。

「花椿の真似なんか止めてください。……水月さん」
『似てたでしょ?』

疲れ切った彼の台詞に、水月は悪戯っぽく嘯いてみせた。


携帯を切って、ついでに電源を落とす。
『恋人とクリスマスを過ごしているのに、携帯の電源なんか入れておくものじゃない』と、掛けてきた本人に怒られたのに苦笑を浮かべて。

「………も、もしかして……天之橋さん」

少女は泣き出しそうな表情で、天之橋の方をじっと見ている。きっと、水月は彼女にも同じことを言ったのだろう。
それならば隠しても仕方がないから、必要以上に彼女が困らないよう、いっそ笑顔で。


「今日と、明日と。クリスマスを楽しむ時間が増えたね」


暖かいクリスマスの夜は、ここから始まる。

FIN.

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