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 未来予想図 3 

「………え?」

咄嗟に意味がつかめない彼に、少女は唇を咬んで俯く。

やくそくはできない、って。そういういみ?」
?」

戸惑った声をかけると、少女はますますふてくされた表情をした。

「わたし、きいたんだから。あまのはしさん、おかあさんに、“わたすきはなかった”っていってたでしょ」
「!」

ぎくりとして、天之橋は目を見張った。
確かに、その言葉には覚えがある。
あの日の帰り。彼女の母親に、『そんなものを準備してるなんて』とからかい半分で言われ、苦笑しながら『渡すつもりで準備していたわけではないけれど』と返した。

それは嘘ではなくて。
彼女が告白に応じてくれたら渡そうと、そんな楽観的なことを考えていたわけではなくて。
想いを告げることさえ逃げてしまいそうな自分を叱咤するために、何かの形が欲しかっただけ。
そんな幼稚な目的で購入したそれを、何ヶ月も前からずっと持ち回っていたとはまさか、言えるはずもなく。
慌てふためく天之橋を尻目に、少女はぷいとそっぽを向いた。

「わたしが……わたしがわがままをいったから、しかたなくくれたんでしょ」
「ち、違う、っ」
「ずっとつけてなくても、なんにもいわないし」
「いや……それは……」
「つけてほしいなんて、ぜんぜん、おもわな……っ」

自分で言っていて哀しくなったのか、ぽろ、と少女の瞳から涙がこぼれた。
それを隠すように首を振って、少女はごしごしと目許を拭うと、言葉が出ない彼に向かってしかめ面をして見せた。

「これ。かえすっ」
!?」
「もうねる!」

ばし、と小さな袋を彼に押しつけて、覚束ない足取りでベッドルームに向かう彼女を。
天之橋は立ちつくしたまま、呆然と見送る。
思いがけず戻ってきたそれを見下ろし、その意味が理解できた瞬間、ため息が漏れた。

分かっては、いる。
彼女が欲しいものは、永遠に変わらない約束などではないこと。
ただ、今この時に、永遠に変わらないと言えるほど強い想いであってほしいと願っているだけ。
そしてそれが分かっていて尚、約束だと言ってしまうことに抵抗を感じる自分。

彼の恋人は、あまりにも年若いから。
本当であれば、これから社会に出て仕事をして、様々な経験の中から人間的な成長をしていくような歳だから。
そんな普通の人生に、自分が何らかの影響を与えてしまうことが、いいことなのか悪いことなのか。
それを考えるとどうしても、躊躇せずにはいられない。

「自分でも情けないとは思うけれどね……」

そんな無用かもしれない気遣いが、今の彼女を傷つけてしまうのも、理解できないことではない。
小さく息をつきながら、天之橋はゆっくりとベッドルームに足を踏み入れた。

「………?」

広いベッドの上で、少女は小さく縮こまるようにシーツにくるまっている。

。あれは……その、そういう意味ではないんだよ」

ベッドの端に座って話しかけても、彼女はぴくりとも動かない。
天之橋は手の中にある小さな包みを握り直し、言葉を継いだ。

「これも……君がしていないのに気づいていなかった訳でもないし、気にならない訳でもないのだが」
「……………」
「しかし、その、私が言うのも少し……おかしい気がして」
「……………」
「でも、君がこれをつけてくれるなら

言いかけて。
ふと何かに気づき、天之橋はそっと手を伸ばした。
するりと外れたシーツの下にはすっかり眠り込んでいる、少女の姿。

一瞬呆気にとられた後、彼は耐えかねたようにくくっと肩を揺らして。
すーすーとかすかな寝息を立てている彼女に、悪戯っぽい瞳を向ける。

「……全く、君って子は……起きていても寝ていても、私を困らせるんだね」

そうして彼は、無邪気に眠るその頬に、ゆっくりと口づけを落とした。

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