「!」
少女の名を呼んで、駆け寄ろうとした天之橋は。
部屋に入ったところで足を止め、目をしばたかせて彼女を見た。
ブランドものの、膝上のスーツ。それを少女は、きっちりと着こなしていて。
あまり見慣れない、ストッキングをはいた足には、7cmはありそうなヒール。
耳にはいつもの小さなピアスではなく、大きな宝石のイヤリング。髪は後ろでアップにされて。
化粧もそこらのモデルに負けないくらい、バッチリと決まっている。
それは。天之橋が見ても、見惚れてしまうような姿だった。
しかし。
「天之橋……さん」
呟く声は、いつもの彼女で。
気丈に作っていた表情が、ゆっくりと崩れていく。
「天之橋さん!」
呼ばれて、今度は躊躇せずに彼女の体を抱きしめると、少女は外見にそぐわない顔でぽろぽろと涙をこぼした。
「……」
現実に、彼女をこの手で抱いていることに。
知らずのうちに、吐息が漏れた。
それをため息と勘違いした少女は、びくりと彼の首に回した手を震わせた。
小さな嗚咽と共に、紡がれる謝罪の言葉。
「ご…めんなさい……私、……待ってるって……言ったのに」
「……いや」
「こんな時間に……お仕事のお邪魔……しちゃって……」
「いいんだ」
「……ご……めんな…さ……」
「いいんだよ。私も、君のことが気になって……眠れなかった所だから」
次々と涙を溢れさせて謝る少女の頬に、天之橋は優しく唇を寄せた。
かすかに香る、オードトワレ。
いつもと違う、蠱惑的な香り。
それにクラリとする感情に気づかないようにして、瞳を合わせると。
まだ泣きやまない彼女の方から、口づけてきた。
「……ん…ふっ……」
小さく呻かれる色気に、思わず舌を絡ませる。
訪ねてきたことに負い目を感じている彼女を抱くことは、悪辣だと分かっているのに。
少しずつ激しくなるキスに、だんだんと理性が飛んでいくのが分かる。
そして、苦しそうに息を継いだ彼女がコクンと音を立てて唾液を飲み下した瞬間、衝動が彼を襲った。
「あ、っ」
どさっ、と音を立ててそばのベッドに少女を押し倒し、首筋に口を付けて。
するりと上着の裾から手を忍び込ませる。
「……っあ、や……」
ぴくんと体を揺らして、少女はその手を止めた。
その、涙に濡れた瞳をしばらく見つめて。
それだけで暴走しそうな本能を抑えるために、拳を握りしめて息をつき、天之橋は身を起こそうとした。
刹那。
少女の小さな手が彼の頭を引き寄せ、か細い声で、しかしはっきりと囁いた。
「あの……あの、この服……母のなんです。……汚したら、怒られちゃうから」
脱がせてください。
最後の台詞はほとんど、吐息でしかなかった。
天之橋が驚いて見ると、彼女は真っ赤な顔をして目を閉じ顔を背けている。
「………」
愛しげに呟いて、天之橋は少女の額に口づけた。
あちこちにキスを落としながら、丁寧に服を脱がせ、椅子の背に掛けていく。
彼女は恥ずかしげに身を捩ったが、抵抗はしなかった。
スカートをずらし、ガーターの留め具を外してストッキングを剥ぐと、後に残るのはレースの下着と弛んだガーターベルトだけ。
「…………ぁ…」
口元に手を当て、怯えたうさぎのように身を縮こまらせて見上げる初々しい所作に、その格好は似合ってなくて。
それ故に余計、扇情的に見えてしまう。
知らずのうちに口が渇き、何度も唾液を飲み込んでしまっている自分に気づかないまま、天之橋はベッドを軋ませて少女の髪に触れた。
髪留めを外される感触に、びくっと少女の体が震え。
しかし恐怖してはいない証拠に、その瞳は熱く潤んで彼を見つめている。
今まで見たことのないそんな様子に、強い眩暈が天之橋を苛み、冷や汗が背中を伝った。
「……あっ!」
彼女の胸に顔を伏せ、下着のフロントホックにガリッと歯を立てると。
直接触れられてもいないのに、振動と吐息だけで少女は叫びを上げる。
下着越しに触れても、はっきりと分かるくらい突起した胸を掌で押しながら、天之橋はふるふると震える内股を片手で撫でた。
「……ぅ…あっ……ふぁっ!……んんっ……」
つっと指先で下着のラインをなぞり、また、膝の方へ戻っていく。
そのもどかしさに、肌が泡立つような疼きを感じる。
下肢に気が行っている間に、小さな音を立ててフロントホックが外され、露わになった胸にも愛撫が降り注ぐ。
「あっ……あ、ぁ、ヤ……いやっ……ひっ!」
いきなり、すでに潤っている箇所が強く押された。
しかしそこは何の抵抗も返さず、濡れそぼった音を立てて彼の指を飲み込んだ。
「あぁっ……あ、ああっ!」
前から後ろへ。うってかわって直接撫で嬲られ、次いで下着が後ろから捲られる。
濡れた部分が外気に触れ、ヒヤリとした感触に、少女は一瞬だけ我に返った。
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