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 Love is blind 2 

彼女は今日も、いつもと変わらず登校してくる。

理事長室から昇降口を見下ろしながら、私はため息をついた。
眼下には、少女の姿。探さなくても、目が勝手に見つけてしまう。
彼女は今日も、いつものように授業を受けて。いつものようにクラブに出て。
そして、いつものようにここへ来て話をするのだろう。
もう習慣になっているそれが、今の私にはつらい。

自分はもう……昨日までの自分ではいられないかもしれない。
そんな目で彼女を見てしまうことも嫌だったし、
それが彼女にばれて軽蔑されてしまうことも怖かった。


「失礼します。こんにちは!」
今日は早く帰ってしまおうか、それとも理由をつけて断ってしまおうか。
一日中そんなことを考えあぐねていた私の元に、少女は明るくやってくる。
「や、やぁ。来たね」
しかし、考えていた台詞を告げる前に、私の口からはいつもと変わらない言葉が出てしまっていた。
「最近、涼しくなってきましたね〜」
そんなことを言いながら、持ってきたポットをテーブルに置く。
「お茶、淹れますね。ミルクティ用の葉っぱ、飲んだことないの見つけたんです」
それを試せるのが嬉しいのだろう、うきうきとした様子でカップに紅茶を注ぎ始める。
私は仕方なく、執務机を離れて彼女のいるソファの方へ移動した。
「はい、どうぞ。美味しいかどうかわかりませんけど」
目の前に置かれたカップに礼を言い、口元に近づける。
ミルクティ用というだけあって、それはすっきりとした上品な風味を伴って私の鼻孔をくすぐった。
張りつめていた気持ちが、和む。
「うん。美味しい」
そう言うと、彼女は嬉しそうな笑顔を私に向けた。
「よかった!これ、昨日見つけたばかりなんですよ。商店街の雑貨屋さんで」
「………」
すっ、と。
彼女の言葉に、体温が下がる。
「……ほう。昨日は、買い物で外出していたのかね?」
何気なさを装ってそう言うと、彼女は少し照れたような表情をした……ように見えた。
「え?いえ。お買い物はついで、だったんですけど」
「ついで?」
「ええ……」
なんとなく、話を終わらせたがっているような感じはしたが、私は訊かずにおれなかった。
無言の視線に、彼女は自分のカップに目を落とす。
「えっと……子供っぽい、って言われちゃうかもしれないんですけど。
 昨日、私が大好きなゲームがゲームセンターに入荷されたんです。で、どうしても行きたくて」
「……ゲームセンター?ひとりで?」
まるで追求するような口調で、言葉が勝手に出た。
彼女は少しだけいぶかしげな顔をしながら、それでもなんでもないように言う。
「いえ。そのゲームってレアで、普通のゲームセンターには入らないっていわれたから。
 同級生の男のコに、道案内頼んで」
その子、毎日行ってるみたいなんですよ、と続ける言葉はもう耳に入らず。
黒い気持ちが、胸の奥から湧き上がってくる。

彼女を。
自分だけのものに、する。

どくん、と心臓が跳ねた。
「……なるほど。それで、私の誘いは断られてしまったんだね」
少しおどけて、でも残念そうに告げる口調は、演技以外の何者でもなくて。
「あっ……ご、ごめんなさい。せっかく誘って頂いたのに」
彼女はいとも簡単に掛かり、首を振る。
「いや、いいんだよ。でも……そうだね、代わりに今度、付き合ってくれるかな?」
優しく微笑む表情も、裏に気持ちを隠しているのに。
「はい、もちろんです!どこへでもお供します」
それを知らずに、危うい台詞を口にする。
「どこでも、……か……」
自分で仕掛けているくせに。
まったく疑いもしない彼女の純粋さに、苛立ちを覚える。
「天之橋さん?」
無邪気に自分の名を呼ぶ声に。
演技力が、暴走した。
「そうは言っても、私では力不足の所もあるだろうからね。
 例えば、ゲームセンターなんて場所に同行するのは……私では駄目なんだろう?」
思わず、そんな言葉が口をついた。
普段の口調を装ってはいても、内容の嫌味さは隠せなかった。
いつもの私でも、彼女を陥れるために罠を張った私でもない。
ただ、駄々をこねているだけの……子供っぽい姿。

言ってしまってから、私は内心で赤面し舌打ちした。様子がおかしいことに、気づかれてしまったろうか?
少女は驚いた顔をして、まじまじと私を見上げている。
私は目を逸らした。

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