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 届かない言葉を君に 7 

「……っかしいなあ。待っててって言ったのに……」

沈む気持ちを奮い立たせるように、奈津実は殊更に口に出しながら歩く。
どうしても暗くなってしまう態度を、親友に悟らせるわけにはいかない。
教室で待っているはずだった彼女を捜して、あちこち覗いているうちに。
彼女に付き合って、数度入ったことのある場所に行き着く。

「まさか、ここにはいない……よねぇ」
あんなに彼に接することを嫌がっている彼女が、その思い出に直結するここにいるとは思えない。
けれど。
半分ほど開いた扉の中に目的の姿を見つけて、奈津実は思わず立ち竦んだ。

「……………。」

職員用の給仕室。
狭いキッチンと戸棚くらいしかないそこで、少女はじっと手元を見つめている。
なにかに取り憑かれたような瞳の色に、冷水を浴びせられたような寒気が走った。
目の前には、お湯の沸きかけているやかん。
ポットとカップはすでに準備されていて。
時刻は午後、五時。

、……?」
「…………え」
ようやく声を掛けると、彼女は我に返ったようにこちらを向いて、いつものように笑った。
「なつみん。あっ!ゴメン、探させちゃった?」
「う、うん……それはいいけど。何……やってんの?」
「え?……っと。お茶、淹れようと思って………あれ?」
自分の行動の不可解さに気づいたのだろう。少女は不思議そうに首を傾げ、ガスを止めた。
「なんでだろ。もう帰ろうって言ってるのに……私、寝ぼけてるのかな?」
照れ笑いをしながら、手元はお茶の準備をし続ける。
紅茶の葉をティースプーンで入れる量も、カップの数も、彼女の記憶には無いはずのもので。
奈津実はとっさに給仕室に踏み込むと、なるべく自然な笑顔を作った。

「なぁによ、お茶くらいで奈津実サンのご機嫌を取ろうってわけ?さては、帰りにケーキでもおごらそうとしてるな!?」
「そんなんじゃないってばー。でも……そうだね、そうかも。なつみん、飲む?」
「ゴチするかどうかは別だよ?」
軽口を叩きながら、奈津実は差し出されるトレイから用心深くカップを取り上げた。
少しでもおかしな挙動があれば、すぐに対応できるように。
けれど、それを取り上げても口を付けても、少女はにこにこと笑っているだけだった。

  

◇     ◇     ◇

  

「先生、お世話になりました。二年間、とっても楽しかったです」

ぺこりと頭を下げる少女に、氷室はいつになく優しい瞳で頷いた。
「私もだ。君はとても優秀だった。そして大変、興味深い生徒だった。
 向こうに行っても頑張りなさい」
「はい。帰国したら御挨拶に来ますね」
転校手続きをすませた少女が、担任教師に笑いかけて職員室から出てくる。
それを待っていた親友は、できるだけ明るい声で話しかけた。
、終わったー?」
「うん。……理事長にも挨拶、したかったんだけど。お休みしてるんだって……」
「……そか。別に、いいじゃん?会いたくないんでしょ」
「そう…なん、だけど。……何か…なんとなく……」
言い淀む言葉。瞳は確かに誰かを探していて。
その人が誰かを、奈津実は知っている。
毎日、彼女が『落ち着くおまじない』と笑う、それが誰の為なのかも。

この一週間、ずっと湧き上がり続けた衝動がまた、襲うけれど。
奈津実はそれをねじ伏せて、少女の肩を叩いた。
「まぁ、いざ日本を離れるとなったらそりゃ、そわそわもするよ。
 とりあえず向こうに着いたら、連絡してね。フランスってどんな感じか教えてよ」
「うん……。わかった。なつみん」
「ん?」
「ほんとに、ありがとね。私、なつみんが友達ですっごく倖せだと思う」
「………!」
「しばらく会えなくなるけど、離れててもずっと友達でいてくれる?」
不安そうな瞳。そんなことを確認せずにいられないのは、もう一つの倖せが抜け落ちている所為なのだろうか?
そう考えながら、奈津実はようやく当たり前でしょ、と呟いた。
「つまんないこと言わないでよ。たかがフランスじゃない、今日思い立ったら明日会える距離だよ?
 アタシも遊びに行くから、その時は通訳頼むね!……さ、もうすぐ出発の時間でしょ。帰らなきゃ」
「……うん。」
それでもまだ、歩き出すのを拒むように、少女は辺りを見回している。
奈津実は、ひとつ、ため息をついて。
今の今まで迷っていたことに、踏ん切りをつけた。

。……理事長に、挨拶したい?」
「え?」
突然言われたことに、驚いて親友を見つめる。
「先生方で挨拶してないの、理事長だけだもんね。アンタ変なとこで律儀だから、気になってんでしょ?」
「う、うん。そうなのかな?」
「……もし、もしも、どうしてもっていうなら……アタシ、呼んでくるよ?飛行機、六時半だよね」
え……」
ぴくりと、体を揺らして。
少女は呆けたように声を漏らした。
「もし、アンタが気になるなら、だけど」
「…………。」
その言葉に、眉根を寄せて、躊躇って。
何かを迷い続けながら、思いきれない気持ち。
それを見透かして。
「気になってるんなら、今しかないよ?まあ、ただの挨拶だから、しなくてもいいだろうけどね」
どちらの選択肢に対しても、選ぶ理由を提供したつもりだった、奈津実の言葉に。

彼女が出した答えは

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