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 届かない言葉を君に 3 



名前を呼ぶ声がする。
甘くて優しくて耳に心地良い、一番安心できる声。
誰よりも何よりも大切な、宝物のような存在。

傍にいられるだけで、倖せで。
いられなくなったらなんて、考えたこともなかった。

こんなに好きになるなんて思ってもみなかった。



っ!!」
「ねえちゃん!!」

うっすらと瞳を開くと、霞がかっていた声が次第にはっきりし始めた。
「ぁ……、れ……?」
声を出そうとしても、上手く口が廻らない。
でも、見えている顔はわかる。大好きな母親と、可愛い弟。
自分にとって一番大切な、家族。

あれ……?

少しだけ、違和感。
傍にいられなくなるなんて……好きになると思ってなかったなんて、なんで?
ずっと、一緒にいるし。
ずっと、当たり前に好きなはずなのに。


「ねえちゃん、大丈夫か!?」
「もう、ばかっ!痛い所は?!」
泣きそうな二人に思考を中断して、ぎこちなく笑ってみせる。
「……体中……いたいってば」
口に出すと急に意識がはっきりして、少女は瞳を動かした。
真っ白な天井、真っ白な壁の部屋。母親の隣にいる白衣の男性を見て、やっと病院だと見当がついた。
彼女が意識をしっかりさせたのを見取って、男性が声を掛ける。
「少しだけ質問するよ。分からないことは分からないで良いからね?」
「あ……、はい」
「まず、君の名前は?」
です」
隣におかぁさんがいるのに、なんで私に聞くの?と不思議そうな顔をしながら、答える。
「学校は?年はいくつ?」
「はばたき学園の……三年生で。17歳です」
「じゃあ……」
そのとき、もう我慢できないという様子で、水月が言葉を割り込ませた。
「一番好きな食べ物は!?」
「はあ?何言ってんの?」
「いいから答えて!」
「……パンプキンプリン、だよ。いっつもおかぁさんが買ってくるんじゃない」
「オレのことはわかる!?オレの好きな食べ物は!??」
「あんたまでバカにしてんの、尽?カレーでしょ」
「よかった、!」
「………???」
訳の分からない質問にそれでも律儀に答え、挙げ句に抱きつかれて目を白黒させている彼女に、医者は笑いながら説明した。
「君は階段から落ちたんだよ。覚えてないかい?頭から落ちたからね、今夜は一晩泊まって念のため検査を受けてね」
「階段……?落ちた?……覚えてない」
そうは言うものの、後頭部には確かに痛み。体もあちこちズキズキする。
その言葉に、水月はまた心配そうな顔になって、医者を振り返った。
「あぁ、大丈夫。事故の瞬間を覚えてないのはよくある事ですよ。ま、彼氏の事を忘れたりしたら大変だけどね」
ハハハと笑いながら部屋を出て行く医者と頭を下げる母親を見ながら、ふと、窓際に置かれた花瓶の薔薇に目が留まる。

何故か。
チクリ、と胸が痛んだ。

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