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 羽根〜プロローグ 2 

「……で、レナっていう娘なの。大人しい娘だし、変な人に付いて行っちゃってたらと思うと……」

心配そうに語尾を弱めながら、目を伏せ爪を噛む。

「わかった、じゃあ一緒に探してあげる。」
「…え、でもっ…」

タイムリーな申し出に、驚いたように見上げての駄目押し。
自分の演技に満足していた三月が、次の言葉で凍りついた。

「いいからいいから。広場の方行ってみた?門からここまではいなかったみたいだし…」

え?なんでそんな事知ってんの?…ヤバい、もしかしたら狙って付けて来られてた!?そういえば荷物まとめろって拉致るのに目立つから!?

「い…いい!やっぱり遠慮しとく!!」
「どうして?さっきよりだいぶ暗くなったし、これから変なのも多くなるワ。早く見つけないと…行きまショ?」

アンタが変だよ!!…ってか、今まで気付かなかったけど喋りも変だーっ!!

そう思いながら先に立った彼との距離を少し置いて、急に振り返ってみた。
慌てて目を逸らしたりする奴がいればこちらに注意を払っているからであって、人気のない所で車に押し込められる確率も上がる。

仲間はいないようだし、まだにぎやかな場所だから大丈夫…よね?

そこまで確認して、三月が声を荒げた。

「なんで人を付けて来たりするのよ!?ちょうどよく大きい空っぽのカバン持ってたりして、あんたストーカー!?」

歩き出しかけていた彼が一瞬まじめに振り返って、それから、ぶはっと吹き出した。

「…さっき……ジュース買わないかって言ったら、荷物見せて困ってたでしょ?アタシそれ持って、店放ったらかして来たんだからね?」

思い出したように袂から缶のミルクティを差し出して、笑う。

「ま、お祭りだからこの程度の服では目立たないかもネ。着ぐるみのヤツとかもいるし…店のテント、屋根が低いからこの頭見えなかったんでしょ?コレ見ると忘れられないってみんな言うからー。」
「そ…それにしたっておかしいじゃない!見ず知らずの人が荷物いっぱいだったからって、追いかけて来ないわよフツーは!あたしがおばぁちゃんにでも見えるっての!?」
「アハハハ、そんなワケないじゃない。知ってるワよ、小澤三月さん?」
「…は……?」

三月に暖かい缶を握らせて不敵に笑うと、彼はそれ以上何も言わず先に立って歩き出した。

なんだか訳わかんないヤツだけど……

生まれた時から住んでいる人とは比べるべくもないけれど、二年余りの留学生活で培われた勘のようなものは、この怪しすぎる男を『大丈夫』だと判断していて。
三月は、取りあえず警戒は怠らないように注意して後を追ってみることにした。

「…っていうかさ〜…あんた平気なの?…」

彼の後ろ姿を見ながら、なんとなく自分のコートや手袋と比べる。

「え〜?何の話ィ?」
「おちょくってんの?…寒くないのかって聞いてんの!そりゃ日本は暖かいですけどね、それでももうすぐサンタとやらがふくろうみたいにホーホー鳴きながら不法家宅侵入を試みようとしてる季節よ!?正気の沙汰じゃないわね!」
「あはははは。三月さん、サイコー。」
「あはははは。じゃないわよ!質問に答えなさい!」
「ん〜平気。冬が好きだから、寒いの好きなんだ。」
「……あっそ!……」

マフラーを外しかけていた手を忌々しそうに止めて、彼女は吐き捨てるように呟いた。

「……と、友達には言ったんだけど……やっぱりネェ。貰った服とか色々作り替えてみたりしてるんだけど、布が足りなくてェ。薄いTシャツとかってリフォームのしようがないじゃない?夏が終わって、すぐに家飛び出したからさー…あ、でも気付いた?この下襦袢に見えるでしょ?襟と袖だけフリースなんだからァ〜。」

得意げに話している男がどうやら同じ道の人間らしい、と悟った途端、三月の眉がキッと上がった。

「…あんた……バカ?バカでしょ?バカに違いないわ!!どうして着流しにするほどのまとまった布を着流しなんかにするのよ!?もっと暖かい空気を逃がさない作りの服に出来るでしょう!?」
「だってそしたら柄と線が生きないじゃない。日本の布は日本の形が一番キレイに見えるから。」
「だったら形を変えなければいいのよ!…取りあえずこれしときなさい!そんなカッコで風に吹かれてるのって、見てるだけで腹立つわ!」

手早くマフラーを外して突き出すと、彼は驚いたようにそれと彼女を交互に見て。
ふわりと笑うと首を振った。

「それ取っちゃったら、三月さんのポイントが無くなっちゃうじゃない。」
「色なんか今はいいのよ!いい?服は暑さ寒さから身を守るものなんだから、機能性があってからのデザインよ。あんたには基本が欠けてる!」

軽い声を立てて笑い受け取ろうとしない彼に、業を煮やした彼女は手にあるミルクティを見て含み笑った。

「コレ、売り物よね?あたしぜんっぜんお金無くて買えないから、代金代わりに、ハイこれ。ジュース一本で前科一犯だなんて冗談じゃないからね。」
「そんなつもりで持ってきたんじゃないわヨ。…なんなら返してもらえば……」
「ダメ!お金は無いけどこれが飲みたいの!」

言うが早いかプルタブを起こし、一息で半分ほど飲み干してから、彼女は勝ち誇ったように笑って彼の手にマフラーを押しつけた。

「…ね?もう飲んじゃったから!…ああ、もう!手に持ってて落としたら汚れちゃうでしょ!?お気に入りなんだからちゃんとしときなさいよ!……あら?和服にマフラーもなかなかいいわね。」

いったん手渡したマフラーを引ったくって彼の首に巻き、2、3歩離れて満足そうに見ている三月に、彼が苦笑気味に口を挟んだ。

「………ソレ、美味しかった?」
「…ん?まァまァじゃない?ホットで飲んでも甘すぎないミルクティって貴重よね。」
「………あったかかったのよネ?」
「は?何言ってんの?この時期に外でアイスはキツイでしょ。ソフトクリームならいいんだけどね。」
「………それ、返してくれてたらカイロ代わりになったんだケド?」
「あ。………い、いいの!あんたにマフラー取られてんだからあたしの方が寒いの!女の子に譲りなさいよ!!」

聞いた途端に背を向けて吹き出す彼のマフラーの端を、腹立ち紛れに三月が思い切り引っ張った。

「……っっ!み…つきさんっ!ゴメン、ゲホっっ…ゴメンナサイ!!」
「…早くレナを探してよ!!もう真っ暗じゃない!……って、あら?」

聞き覚えのあるメロディが流れ、コートのポケットから急いで携帯を取り出す。
画面を見て、やはり彼女からだと分かると一瞬手が止まった。
助けて、なんて言われたらどうしよう…と考えながら、思わず彼を見上げて。
たった今ふざけていた彼の顔つきがガラリと変わって、小さく頷いてくれたのに勇気を得て、意を決して通話ボタンを押した。

「レナ!?大丈夫なのっ!?」

勢い込んで聞いた三月の耳に、のんびりとした声が返る。

『三月ぃ?大丈夫って、何が?…今日はありがとね〜、すっごく楽しかったからまた連れってねぇ?』
「連れてってねって……今どこにいるのよ!?」
『家だよ?』
「…い……家ェ!?どうやって!?だってあんた乗り換えも一人じゃ出来ないでしょ!?」
『あはは、そうなんだけどー。いつのまにか迷子になっちゃっててね?寒いからもう帰りたいなーって思ってたらね、親切な男の人がおうちまで車で送ってくれるって言うから。』
「まさか…それで……」
『うん。門限の過ぎてたから、大門で待ってた爺やにねぇ、茶室に火を入れて、丁重におもてなししなさいって言ったの。そしたら慌てて帰っちゃたのー。お茶くらい飲んでいけばいいのにね?』
「……そう……そうなの……でもねぇ、あたしがいつも言ってるでしょうー?知らない人についてっちゃダメって!!」
『…三月怖い。そんなに怒らないで〜。大丈夫よ、レナは大人だもん!大人は誘拐されないんだよ?』

大人だってされるよってか大人になったらなったで違う危険が生まれてくるんだよ大体大人が知らない男の車にひょいひょい乗らねぇーそれにしてもその男ビビったろうなそれぐらいでビビってくれる男で良かったよまあ心の準備ナシであの門構え見たら大抵ビビるかはっはっは。

「……レナ、取りあえずその事はまた後日…あんたの父様と母様と一緒に話し合いましょうね…。」
『うん、わかったー。あ!夕餉の時間だからー、またね三月ばいばい。』

ぴ、と携帯のボタンを押して一気に脱力した三月を気の毒そうに見て、彼が恐る恐る声を掛けた。

「ま…なんにせよ無事でよかったじゃない?ね?」
「よくないわよ!どーしていつもああなのかしらまったくもう!………ほら、行くわよ!?」
「は?…えっと、何処へ?」
「あんたの家に決まってるでしょ!?…っていうか家出してるんだったらどこに寝泊まりしてんの?一応探してくれる気だったんだから、あんたの服作りに行くんだから。あたし借りは返さないと夜寝れない質だし。…道具はあるんでしょうね?」
「あるけど…テントよ?女の子が夜来る所じゃな…」
「道具と照明さえありゃテントだろうがガード下だろうが構わないわよ。早く案内して、寒い!」
  
マフラーの先を持たれて、散歩中の犬のような格好で引っ張られながら彼が小さく溜息をついた。

アンタもたいがい危ないわヨ…三月さん……

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