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 天使のたまご 2 

その日、たくさんの贈り物と言葉に迎えられて笑いながらも、少女はどこか寂しげに隅の方に座って動こうとしなかった。
ダンスを誘いに行っては引き返して、心配そうに遠巻きに見る男子生徒たち。
多分、今日花椿が来ていないと知って喜んでいたであろう彼らには気の毒だが、彼女の欲しい声は唯一つだけ。

「ねぇ、理事長?あの子どう思う?」
後ろから無造作に掛けられる声に少し笑って脇を空けると、彼女の親友がつかつかと歩み寄って厳しい瞳で彼女を見つめた。
「元気、には見えないね。やはり、あの事かな?」
「あ、聞いた?気になるんだったらそんな事言ってるオバさん連中ぶっとばしに行こうっつったんだけどさー。」
苛立たしげに言う奈津実に、グラスを渡しながら天之橋がクスリと笑う。
「暴力では解決しないが……めずらしく意見が合うね。」
そう言った彼に奈津実が目を輝かせた時、静かに近づいてきた執事が天之橋に耳打ちした。
「あぁ、わかった。もうすぐ終わるから少しだけ待っていてくれと伝えてくれ。」
執事を見送ってから、注がれる眼差しにウインクで答える。

「協力、してくれるかな?」

 

◇     ◇     ◇

 

入り口が見通せる隅のベンチに座ったままもう、二時間になる。
学園のパーティも終わりに近づいて、コートを着ている生徒もちらほら。
なんとなく、いたたまれなくなってすぐ横のテラスに出てクリスマスツリーを見上げても、気分はとても重くて。
今頃何か言われているかも知れないと、一人別の場所にいる彼を想って、何度も携帯を確認しては、閉じる。
イルミネーションはすごくキレイ、なのに………

「はぁー……帰ろう、かなぁ……」
「メリークリスマス、お嬢様。」

真後ろで掛けられた言葉にびっくりして振り向くと、ピンク色の薔薇を抱えたこの家の主が静かに微笑んでいた。
「もうお帰りかな?」
渡された花束を受け取って、少女がすこしはにかんだ笑みを見せた。
「あ、ありがとうございます。」
「実は頼みがあるんだが聞いてもらえないかな。」

天之橋さんが、私に?

彼ほどの人にされる頼み事なんて、と不思議そうな顔で首を傾げる少女に、天之橋が話し始める。
「……大した事じゃないんだが……この後仕事で他のパーティに行かなくてはならないが、あまり乗り気じゃなくてね。出来れば一緒に来てくれると顔だけ出してすぐ帰れて助かるんだ……あぁ、もちろん二人きりなんて事はないよ。藤井くんにも頼んだら、君と一緒ならと言ってくれているし。」
「え、でも……私達が行ってもいいんですか?」
「あぁ、それは問題ないよ。……どうかな?」
覗き込む天之橋に、少しだけためらうような仕草をして、それから微笑みが返される。
「それなら、私でよければ……」
「そうか、よかった。そんなに時間はかからないと思うけれど念のため、家に連絡しておきなさい。藤井くんはもう別室で支度しているよ。」


パーティ会場のホールから階段を上って廊下を進み、右側のドアの前で彼が止まった。
「私は車を廻してくるから、支度が出来たらホールに降りてきてくれるかい?急がなくてもいいからね。」
優しく微笑む天之橋が、階段を降りていくまで見送って。
少女はおそるおそる、扉をノックした。

『はぁーい、三優?』
大きなドアの内側から聞こえる親友の声にすこし安心して、そっとノブを廻した。

「な…つみん?なにそれどうしちゃったのっ!?」

広い部屋の中ではクローゼットが開け放され、物色されたらしい色とりどりのドレスが山になっていて。
その真ん中に、深紅のイブニングを纏った親友の姿。
なめらかなビロードのドレスはぴったりとして、その上裾に大きくスリットが入っていて、そこから覗く奈津実の綺麗な足がとても印象的。

「え…へへ、変かな?」
めずらしく照れたように手袋をいじる奈津実に、少女はふるふると首を振った。
「……ううん、すごくきれい……かっこいい!」
「そ、そうかな?……さぁ、もうあたしの事はいいから!あんたも着替えて、髪もお化粧も!時間ないんだから!」
奈津実に急かされて着ていたパーティドレスのファスナーを下ろしかけた少女の手が、ふと止まる。
「ねぇ……どうして天之橋さんの家にこんなにドレスがあるのかな……」
「さぁ?色々あるんじゃない、たとえば……パーティに来た女の子がドレスにジュースこぼしちゃった、とか?そういうトコ抜け目ないからね、理事長サマは……」
「へぇー、なつみんよく分かるねぇ……でもさ、わざわざ着替えなきゃいけないくらい、すごいパーティなのかな?一応これもパーティドレスだし、ちょっと顔出すだけだって言ってたし……」
「あぁ、それはあたし達のためでしょ。だって会場行ってさ、着てる物が他の人より愕然と違ったら恥ずかしいよー?」
慎重にアクセサリーを選んでいる奈津実に、少女はもう一度尊敬の眼差しを向けて。
それから奈津実が選んでおいてくれたらしい、何着かのドレスが掛かっているクローゼットに向かった。

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