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 天使のたまご 1 

「ねーぇ三優?結局クリスマスはどうするの?」

シナモンスティックでティーカップをかき回しながら、肘をついた彼が少女を見上げた。
「えっと、やっぱり、学園のクリスマスパーティに行こうかなと思ってます」
「そう。…あ〜ぁ、せっかくのクリスマスに三優に会えないなんて最悪だワ〜。仕事なんてスッぽかしちゃおうかしら〜……」
白木のテーブルにペタンと頬をつけて、本当に残念そうな声の彼。
それを見た少女が、なぐさめるように頭を撫でた。
「そんなこと言っちゃだめですよ、大事なお仕事なんでしょう?」

豪華なホテルで行われる、大規模なパーティ。
各方面のスポンサー、たくさんのアパレル関係会社役員や社長、有名デザイナー達が一挙に集う。
その予定は秋口から決まっていたもので、少女にも早々に告げられていた。

「イブは無理でも、クリスマスには一緒にお祝いしましょうね?」
努めて明るく、優しく、少女が笑う。
「だって〜……ねぇ、ホントに一緒に来ない?」
もう何度も聞いたその言葉に、彼女の目が少し厳しくなり、気配を察した花椿がピッと姿勢を正した。
「ダメです!お仕事の話をするんですから、私が行ったら邪魔になります。何度もお話したでしょう?……さ、そろそろ時間ですよ、花椿せんせい」

コココン。
白い磨りガラスの向こうで、軽いノックの音が響く。

「ほら、呼んでます。」
「んもう、すぐ時間がたっちゃって!………じゃ、行くワ……」
しょんぼりと肩を落とした彼がガラス戸の向こうに消えると、入れ違いに微笑みを浮かべた天之橋が扉を開けた。
「あれ?天之橋さん。花椿せんせいなら、今、休憩終わってしまって……」
「ああ、その様だね、もう少し早く来るんだった。この後は……」
「夜中まで、だそうです」
「だろうね。またフラれてしまったか……ふぅむ、まぁ、急ぎの用でもないし。では、お嬢さんよろしければご一緒に?」
「えぇ、喜んで」
少しおどけたような口調の天之橋ににっこり笑って、少女が差し出された手に応じる。
季節は真冬だというのに親友は夏物のデザインの大詰め段階に入っており、少なすぎる程の休憩時間をまとめて少女の放課後に合わせて取っていた。
普段は殆ど頼み事などしない彼がさも嫌そうに自分に頼んだのは、この愛らしい少女を無事に家まで送り届ける事。

「まったく、花椿ときたら……」

小学生ではないのだから、そんなに心配しなくても良さそうなものだ。
自分の行動や言動を棚に上げ、天之橋が小さく呟いた時だった。

「ね、天之橋さんもそう思うでしょう?まったく花椿せんせいは甘いんですよね……」
「……は?」

一瞬呆気に取られ、それから慌てて表情を立て直す。
バレてしまったか?いやしかし、そんな筈は……
自分が少女を送る為だけに足を運んでいることが知られてしまったら、少女はここへは来なくなってしまうかも知れない。
親友の怒り狂う顔と、少女の潤んだ目が交互にぐるぐると頭を巡った。

「花椿せんせいの服って着こなしが難しいから、お店に来る人とかも上品で大人の方ばかりでしょう?だから、お仕事関係のパーティに私なんかが付いていくと絶対浮いちゃうと思うんです。それなのに……」
「……パーティなんだから同伴者がいる方が自然だと思うが……それに、君は他の誰よりも素敵だよ?」

内心ホッとしながら少女に笑いかけた天之橋が、ふと真顔になった。
そんな賛辞を、いつもは真っ赤になって否定する少女が、眉を寄せて難しい顔をしていたから。

「……どうかしたかい?」
微笑んで覗き込んでも彼女の表情は変わらない。
少しだけ躊躇するように目を泳がせて、それから小さな声で話し始めた。
「……椿姫って、知ってます?」
「?いや……?」
もちろんその名前のお芝居なら知っているが、あまりにもメジャーで彼女が自分に知っているかと問うとは思えない。
話を聞く体勢を取る為、車を近くにあったコインパーキングに停めてから少女に向き直る。
「花椿せんせいの、ファンクラブなんです。」
「……うん?」
「入るにはすごく厳しい審査があって……もちろん私設ファンクラブなんですけど。どこどこの社長夫人とか、ナントカ流の家元とか……すごいお金持ちの奥様達が作ってるんです。」

彼を追いかけているのは雑誌記者やカメラだけではないことは知っている。
一枚看板で大掛かりなショーが開けるのは、狭くはない業界でも一握りの人間だけだし、そんなものがあってもおかしくはないだろう。
我が友人ながら、彼の仕事が一流だといって反論する者はまずいないと見ていい。
デザイナーとしても、最近の彼の休みを殆ど喰い潰している仕事タレントとしても。

それは少女が悲しそうな、苦しそうな表情をする原因なのだろうか?
忙しくて会う時間が限られてしまっても、この間までの少女は、彼の仕事の成功を自分の事のように嬉しそうに話していた。
今の、俯いた彼女からは不安げな表情しか読みとれない。

「お母さんが、そのファンクラブのサイトをこの間見せてくれて……会員じゃない人は入れないサイトなんですけど、パスワード持ってる人が知り合いにいるからって。そしたら…最近のせんせいの服は、気に入らない……って」

膝に置いたちいさなバッグの取っ手が、張りつめている彼女の気持ちに耐える。

「対象年齢を下げて、値段を落として……今に大量生産になるんじゃないかって……っっ、絶対そんなことないのにっ……!」
握りしめていた手に涙が落ち、それ以上彼も何も言わず、静かに車を発進させた。

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