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 Lady Generation 4 

買い物を終え、車に向かう途中で見つけたサーカスのポスターは、会場の広場が歩いて行ける距離でその日が最終日であることを告げていて。
少し立ち止まってそれを見た彼は、車に荷物を積み込むついでに運転席に置きっぱなしの携帯を取り上げボタンを押した。
不思議そうに見ている少女にウインクして、電話に出たらしい相手と二言三言喋る。
閉じた携帯をもう一度車に投げ込んで車をロックした花椿は、少女に”まわれ右!”と号令を掛けた。

結局、ジムの館に帰り着いた時には、午後八時を回っていた。
両手一杯に荷物を抱えインターホンを押すと、間髪入れずにドアが開く。

「……おかえり三優。」
「あ…ただいま帰りました…。」

真剣な眼差しの天之橋が少女を迎えて、手の荷物を取り上げた。
なんだか…怖い。
ひるんだ少女が少し後ずさりすると、その背中を支えるように立つ花椿。

「……花椿。」

彼を見た天之橋の眉が微かに寄せられる。

「ナニよぉ〜、ちょっと退いてくれる?アタシも三優もクタクタなんだから。」

少女が自分を振り返らないように肩を持って、感付かれないように。
眼光をまともに受けて立ったまま、花椿が明るい声を出した。
自分の空気にやっと気付いた天之橋も、穏やかな微笑みを少女に落とす。

「あぁ、すまない、三優。…サーカスは楽しかったかい?」
「…あ…はい……」
「まったく、ピカデリーサーカスにかかるサーカスなんてオヤジギャグじゃないんだからー…とは思ったけど結構スゴかったわヨ?ソレとコレ、アタシの部屋に運んどいてね。…ジムー?ジームーゥー?」

足元に荷物を置き、何か言いたげな彼を無視して花椿と少女は共に室内に消えた。

冗談じゃない。
夕食の後、少女がバスルームに入ったのを確認して、天之橋は花椿の寝室に向かった。
大理石の廊下に足音が高く響く。
ノックももどかしくドアを開けると、待ち構えていたように正面のソファに深く沈んだ親友の姿。
扉が閉まったことを確認して、彼が低い声で詰め寄った。

「……どういうつもりだ?」
「…何が?」

挑むような目の天之橋を見て、花椿がせせら笑う。

「とぼけるな!三優は旅行に連れてきたんだ。お前の仕事を手伝わせる為じゃない!勝手に連れ出して、荷物持ちだと?いい加減にしろよ、花椿!」

怒りを顕わにして襟元を掴む天之橋の手を払い、親友は惑いもなく彼を殴りつけた。
頬に衝撃をまともに受け、かろうじて踏みとどまった彼の耳に、落ち着いた静かな声が響く。

「いい加減にするのはアンタでしょ?今日三優がいなくて、ちょっとくらい気が付いたかと思ったのに全然ダメね…。もはや何処からツッこんでいいのか見当もつかないワ。」

渾身の力を込めた拳と、冷静な口調。
花椿が本気で怒っている時は、思い切り冷たい。
そのことを知っている彼の苛立ちと怒りが、頬の熱さに吸い取られるように消える。

悪ふざけではない、何か、よほどの事。
そういえばこの男が彼女の望まない事をするはずは、ない。

「アンタ、ここに来てから三優とまともに喋った?ちゃんとそばに居たことがあった?…誰も知り合いのいない外国に連れてきて、その上日本語の喋れないヤツばっかりのパーティで放ったらかし、そばに行こうにもアンタには知らない女がベッタリ…あの娘にどうしろって言うの?」

彼が冷静になったのを見取って、花椿が言葉を連ねた。

「しかし…しかしお前も知っているだろう!?マリィは家族同然だし、まだ子供……」
「バカじゃないの?」

困惑する彼を睨みつけて、反論を遮る。

「マリィをいくつだと思ってるの?出会った時の三優がいくつだったか言ってみなさいよ。…自分と三つしか違わない女を“子供だと思ってる”なんて理屈が、女の子に通ると思ってるの?しかもその通らない理屈すら、ちゃんと説明してないじゃない。…今日の朝“馬に乗りに行こう”って、あの娘を見て言ったの?行きたくない、って顔に書いてあったケド?勿論マリィは馬に乗れて三優は乗れないことを、分かってて誘ったのよねェ?6歳のマリィにしたように、自分の馬に乗せてゆーっくりお散歩するつもりだったんでしょう?……あの娘の気持ちは無視して、ね。」
「…………………。」
「笑っちゃうわよねェ、旅行に連れてきた、ですって?仕事に連れ出すな、ですって?こちらに来てから、食事が喉に通ってないのにも気付かないで?……こっちが聞きたいわよ、一体何の為にあの娘を連れて来たのよ!?」
「………………………。」
「これ以上、三優を苦しめるなら…アタシも黙ってないからね。ソレ、覚えといてくれる?」

一言も言い返せず、親友が言葉を並べる度に血の気が引いていくのが聞こえるくらい。
どうやって自室に帰ったのかも分からない。

自分が懐かしさに浮かれて、ほぼ無意識にしていた行動。
動揺している頭を無理に回転させて、ひとつずつ思い出して。
蒼白に、拍車がかかる。

自分を慕って甘えてくる、娘のようなあの子への言葉も。
こちらでは挨拶代わりのキスも、抱擁も。
恋人の瞳には、どのように映っていたのだろう。
小さい子供に見えていたが故に、全てを許し優先していたのは…もう婚姻できる資格を持った女性。

三優に…謝らなければ。

怒ってくれていれば、いい。
どんなに責められようと構わない。
許しを乞えるチャンスを、与えてくれているのだから。

そこまで考えて立ち上がった時、部屋にノックの音が響いた。

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