あまり、気づきたくはなかった。
自分のためだけに、酒を作る。
その行為が、自分を慰めているようで……情けなくなった。
一週間ほどの、臨時休業。
もともと、CANTALOUPEは商売っ気のある店じゃなかったけれど。
それでも、こんなに長い間休んだのは久しぶりで。
店以外では、休日の過ごし方すらおぼつかない自分に気づいた。
家にいてもすることが無くて、外出して。
自然、自分の店に向かってしまい。
店につながる通りに入ったとき、店の前に見知った姿を見つけて躊躇して。
思わず、避けてしまったり。
全く、俺らしくないと思う。
こんな役を演じるのは、愚か者の部類に入る奴のすることかもしれない。
でも。
親友と、知己の少女のためだったら。
人生で一度くらい、進んで利用されてやってもいいかもしれない。
バン!と。
ベルの音よりも大きな音を立てて、ドアが開かれる。
「よう。早かったな」
俺は、グラスを拭きながら振り返り、笑いかけた。
入ってきた客は、ハァハァと息せき切って、ドアを開けたポーズのまま固まっている。
よっぽど急いで来たのだろう。髪が乱れ、汗の浮く額に張り付いていた。
「ま、マスターさん!」
彼女は俺をそう呼ぶと、歩き方を思い出したかのように走り寄り、カウンターに手を突いて俺を見上げた。
「どうしたんですか!?一週間も、お店を休んで……」
今にも泣き出しそうなそぶりで、言う。
俺は最後のグラスを棚に伏せた。
「別に?どうもしないよ。俺の気まぐれで、こういうことよくあるからさ。
でも、みゆうちゃんには心配かけたかもって思って、電話したんだけど」
本当に?と俺を見るその目が、それが真実でないことを見抜いていたけれど。
俺は、いつものように笑ってみせた。
「そう……、ですか」
それに少し安心した様子で、彼女はほっと息をつく。
俺は布巾を置き、腕時計を見て間合いを計りカウンターを出た。
「みゆうちゃん。まぁ、座りなよ」
そう言って彼女を抱き上げ、スツールのひとつに腰掛けさせる。
背の低い彼女が高いスツールに登ると、立っている俺より少し低い位置に頭がくる。
俺は、彼女の座っているスツールの左右を遮るようにテーブルに手を突き、そのままの格好で尋ねた。
「ねえ、みゆうちゃん。聞きたかったんだけど……」
「えっ?」
「こないだ。零一が来たとき、みゆうちゃん、俺を名前で呼んだよね。どうして?」
「えっ……」
彼女の視線が、俺から外される。
「それは……あの……」
言葉を探す彼女に、俺は、顔を近づけた。
「もしかして。みゆうちゃん、俺のことが好きなの?」
目を丸くして、驚く彼女。
否定する言葉が、出ないうちに。
すばやく、彼女を抱きすくめる。
「あ、あ、あ、あのっ……」
思った通り、こういった経験がほとんどないらしい彼女は、顔を真っ赤にして口ごもった。
その時。
カラン、と小さく聞こえた音を。
俺は、聞き逃さなかった。
「みゆうちゃんが、そういうなら。俺、みゆうちゃんと付き合おうかな」
それだけ言って、唇を合わせると。
彼女は目も閉じず、こぼれそうなほど瞳を見開いて、間近にある俺の瞳を見返した。
すばやく、彼女のYシャツのボタンをはずす。首筋に触れる。
「んっ……」
彼女の髪を留めていた、リボンをほどいたところで。
「義人っっっ!!」
やっと、あいつの待ったが入った。 |