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  LOVE SONGs 6 

「ごめんなさい……痛かった?」

もう二度と離さんとばかりに抱きつく青年の手形のついた頬を、申し訳なさそうな顔で少女が一生けんめい撫でている。

「ああ、全然大丈夫や! 俺がにしたことに比べたらこんなもん」

久々のそんなやりとりに、にまにまと顔を崩しながら言い、

「………けど。そしたらあいつ、何者なんや?」

青年は不思議そうに呟いた。
から気持ちを聞いた以上、そのことはほとんどどうでもよくなっている彼である。
彼女が自分を変わらず好きでいてくれるなら(正確には、自分の傍にいてもいいと思ってくれるなら)、彼との関係など興味はないのだ。
ただ、少女が抱きしめられても(!)抵抗しなかったのを見ると、相当に親しい仲なのだろう。場合によっては失礼を詫びたほうがいいかもしれない。
の立場を考えてあえて訊ねたその問いに、少女は複雑な顔で言いにくそうに答えた。

「あの、あの…ね、……うちの……お父さん……な、の」


固まった彼に、さらに追い打ちをかける。

「何歳に見たのか知らないけど……今年36になるのよ。
 あれでも、王立記念大学の学長やってるの」
「王立記念大学ぅ!? 俺の出たとこやんか!
 せやけど、学長なんかいっぺんも見たことないで?」

思わず叫んで、青年は彼が入っていった玄関のドアを凝視した。
は顔を赤らめてため息をつく。

「パパ、学校に行かないんだもん。『俺は学長になんかなりたくなかったんだ』とか言って、自分の好きな研究ばかりしてるの。
 やることっていったら、いろんな人たちを大学に招くことくらい……でも、それも自分の研究のためにやってるのよね」

そういう手段を選ばないわがままな人は他にもいるけど、とは、彼女は口にしなかった。
青年はしきりに感心している様子である。

「ははあ……どうりでええ人材が揃っとったワケや。
 実は、ウチの技術顧問に引き抜きかけて失敗したことが何回もあるねん。
 よっぽどの親父さんの人柄に惚れとんやなぁ……」

そこまで言ってから、さっきまでの言動の応酬を思い出してサッと青ざめる。

お…俺もしかして、とんでもないことしたんやないやろか……。

がーんがーんとショックを受ける彼を気遣い、は笑顔を浮かべて手を引いた。

「ね。……今日は、これで帰りましょ?
 挨拶とかだったら、今度の方がいいと思うし。ね、そうしましょう」
「……いや! このまま黙って帰るわけにはいかん。お邪魔さしてもらうで!」

気合いを入れてそう言うと、彼はポケットから箱を取り出して少女に握らせ、有無をいわせずに家の中へ連れ込んだ。



「で?いったい何の用だ」

予想通り不機嫌な彼を、真剣なブラウンの瞳が見据える。

「………お嬢さんには、まだなにも話してません。俺の独断でお話に来ました」
「だから、なんなんだ」

要領を得ない顔で訝る父親の前に、いきなりがばっと両手をつき、

お嬢さんと。結婚、さしてくださいッ!!」

唐突に言い切った彼を、ふたりがどんな表情で見つめたのか。
波打った髪を床に投げ出した青年には、それがわからなかった。

FIN.

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