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  LOVE SONGs 4 

「………もう……ダメかな」

ちいさく呟く。

「こんなので……終わりなのかな」

ひとつ、ふたつ。風で花びらが飛ばされていく。
久々に眠った実家の自室で、は鉢植えの花を相手にぼーっと話し続けていた。

もう三日。あっさり別れたはいいが、青年はあれから姿を見せていない。

『ごめん、。俺、いっつも余計なことばっかやってしもて……でも、俺はアンジェを好きやから、せやからあんなことしてしもたんや。べつにを怒らそうとしたわけやないんやで。ホンマやで!』
そう言って、本当にすまなそうに、まだ怒っているかどうか上目使いで見る。
その仕草につい顔をほころばせて『もう、しょうがないなあ』と微笑むと、とたんに極上の笑顔がストレートに瞳に飛び込んでくる。
は、そんな彼の素直さが好きだった。

そのくせ、反省することなくまた強引に話を進める。まるで全てを分かっているように迷うことなく決断するのに、がすこしでも不審げな様子を見せると即座に気づいてまた謝るのだ。
くるくるおもちゃ箱のような人だった。笑って、はしゃいで、びっくりして、憤慨して、落ち込んで、嬉しくなってまた笑う。
初めて会った時から、彼は忙しく表情を変えながら喜怒哀楽をストレートに表し、少女への想いを少しもはばからなかった。そして、彼女が気持ちを口にしなくてもかならず察して気遣ってくれた。

けれども…今回に限っては、それは当てはまらないようだった。
心のどこかで迎えに来てくれることを期待していた少女は、どうしようもなく時間を過ごすしかない。

もう、終わりなの。

それは今、彼女が他の全てのものに問いかけたい質問だった。
なんでもいい誰でもいい、答えてはくれないだろうか。彼の気持ちがどこにあるのか。もう元には戻れないのか。

「私……もしかして、嫌われたのかな」

惰性で言ったその台詞は、言葉にするやいなや真実のような響きを持って彼女の頭を覆いつくした。
嫌われたのは自分のほうかもしれない。
もうとっくに、見限られているのかもしれない。

「…………なによ。私のことだけ愛してるって、いつも言ってたくせに。
 私のことだけ大事だって……私が倖せならいいって、そんなのばっか……」

つっと雫が頬を伝う。鉢植えをテーブルに戻して、は布団にもぐり込んだ。

「……絶対、後悔させないって……一生かけて倖せにしてやるって……
 うそつき……うそつき……」


甘えていたのだろうか。
彼の優しい態度に。絶え間なく囁かれる愛の言葉に。不安げな視線に。
慣れて、甘えて、それを特別とは感じなくなっていたのかもしれない。
自分は愛されているのだと。彼を好きでいていいのだと、そう信じていた。
そう……信じて。彼の心を確かめようともしなかった。

でも、もう好きじゃなくなったんだとしたら?

気が強いばかりのこんな可愛くない女の子を、もてあましていたとしたら。
彼は二度と、会いにはこないだろう。もっと女の子らしい可愛い恋人を見つけて、自分にしたように優しい言葉をかけるに違いない。

「………平気よ」

枕を涙で浸しながら、少女は息を止めて呟いた。

「誰でもやってることだわ。失恋なんて……」

暇があると抱きついてきて、子供のようにわがままを言って駄々をこねる。
そんな愛しい記憶を全部、他の誰かがなぞるんだろうか。

「悲しいのは今だけ。少ししたら、何もかも忘れるわ」

ちがう!!

がばっと身を起こして、は布団をはねのけた。
違う。そんなの嘘だ、自分はまだ何もしていない。
あきらめの言葉が言えるような努力を、何一つしていないではないか。
ごしごしと目をこすると、強がりだった瞳の色がいつもの気丈なまなざしに変わった。
そのままベッドを降り、は服も着替えないまま部屋の外に飛び出した。


伝えなくては。自分が彼を愛していることを。たとえもう愛されていないとしても、それでも好きだということを。
そして、せめて今まで愛してくれた彼に『ありがとう』と『さよなら』を、自分の意志で言わなくては。


そう言い聞かせながらもどかしく靴をつっかけ、玄関のドアを開けた彼女が見たものは、同じように息を弾ませながら飛び込んでこようとしていた青年の姿だった。

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