「………?」 
 
俺が荷物を抱えて通用口から戻ると、座っていた彼は不思議そうにこちらを見た。 
彼の聞きたいことは、すぐに分かる。 
「ああ。みゆうちゃん、貧血だって。ちょっと休めば大丈夫みたいだけど」 
「………」 
心配そうな目は、今にも様子を見に行きたいという感じだったけど。 
さすがにそれを言い出すことは憚られるようで、黙り込む。 
「オーダー、コーヒーだったよね?俺が淹れてもいいかな?」 
笑ってそう言うと、彼は無言で眉をひそめた。 
 
「……あいつの……」 
そうして、口を開いた彼の台詞は。 
全く別の話だった。 
「あいつの。……恋人、なんですか」 
「え?」 
カップを用意していた手が止まる。 
じっと見る、というよりもむしろ睨み付ける彼に、俺は苦笑した。 
 そんなことを面と向かって聞けるなんて。やっぱり、若い証拠だよね。 
「……さぁ、ね。そういえば、好きだと言われたことはないな」 
あっさりと言うと、彼は何か言いたげに口を開きかけ、また黙った。 
敵意をむきだしにしているライバルに、何故そんな弱音を吐くのかといぶかる視線。 
それがおかしくて、俺はくすくすと笑ってしまう。 
「……じゃ。……恋人ってわけじゃ、ないんですね」 
笑ったのが気に入らない様子で、憮然とした彼に。 
俺はすまして肩をすくめた。 
「そうだね、どうなんだろうなぁ。『あなたを誰にも渡したくない』とは言われたことあるけど」 
「………」 
「呼び捨てにして、とも言われたし。仕方ないから二人っきりの時は名前で呼び合ってるけど」 
「…………」 
「俺の店に入り浸ってることも、よく俺の家に泊まることも、もう親公認みたいだしなぁ」 
「……………!」 
「どうなんだろうね?」 
にっこりと笑顔を向けると、彼は整った顔を引きつらせて絶句した。 
 
 
「 ごめんなさい!マスターさん」 
ぱたぱたと足音を響かせながら、彼女が戻ってくる。 
「みゆうちゃん、もう大丈夫?」 
「はい」 
俺が声をかけると、彼女は少し照れくさそうにしながら微笑んだ。 
「そう。じゃ、友達のコーヒー淹れてあげて?彼、待ってたみたいだよ」 
「え?」 
振り向いて、硬直してる彼を不思議そうに見る。 
「あ、ゴメン。じゃ、すぐ用意するね?」 
笑いかけながら、彼女は彼の前に置いたままだったメニューを手に取った。 
そのままカウンターに入って、サイフォンに挽いた豆と水をセットし、バーナーに火を付けかけた時。 
彼女はふと、手を止めた。 
 
「……マスターさん……」 
困ったように、俺を呼ぶ。 
「ん?」 
「……溢れて……」 
「あれ?もしかしてサイフォン、壊れちゃった?」 
あわてて傍に寄り、サーバーをチェックする。 
サイフォンは圧力がかかるから、ボールにヒビでも入っていようものならすぐに割れてしまう。 
でも、見たところ特に異常はなさそうだ。 
 うん。壊れてはなさそうだけど……? 
不思議に思い、彼女をのぞき込むと。 
彼女は、頬を染めてぎゅっと目を閉じ、かすかに震えている。 
俺はピンと来た。 
 
「おかしいな……」 
足下の棚を探るフリをしながら、彼女の傍にしゃがみ込む。 
至近距離で見た、彼女の内ももに。 
見覚えのある、粘り気のある液体が、とろとろと伝っているのが見えた。 
 
立て続けに2回も、ブチ込んでやったから。 
おそらく、彼女のナカは俺の体液であふれているのだろう。 
ククッ、と喉の奥で笑うと、彼女はそれに反応してますます顔を赤らめた。 
 
「そっか」 
そう言って、俺は立ち上がった。 
「ごめんね。服、汚しちゃった?着替える?」 
「い……いえ。いいです」 
「そう?」 
くすくすと笑いながら、俺は、彼女の服を払う動作をした。 
「 そのまま。拭かずにいるんだ、いいな?」 
小さく囁くと。 
目を閉じたまま、彼女はかすかに頷く。 
「いい子だ」 
 
客が帰ったら、どうしてやろうか。 
まず、自分で一枚一枚、服を脱がさせて  
どこにどんなふうに溢れているのか、いちいち言葉で確認させて  
外に流れ出た体液を全部、指ですくい取って、舐めさせてやろう。 
 
そんなことを思いながら見つめると、おぼつかない手つきでコーヒーを用意していた彼女は、視線の意味を悟って身をすくませた。 
「……みゆうちゃん?」 
「は、ハイ!」 
「お客さんが待ってるよ。早くね?」 
 
早く帰ってもらわないと、我慢できなくなるのはお前だろ? 
 
心の声を感じ取ったかのように、彼女はコクンと頷き、友達の元へコーヒーを運んでいった。 
FIN.  |