「あー、おいしかったー。ごちそうさま」
アタシはめちゃめちゃに満足しながら店を出た。
後ろからぶちぶちと文句が聞こえる。
「コイツ、ほんま遠慮無しに食いよった……オレに今月どう生活せえっちゅーねん。大体、ふつう中華ゆうて円卓の店に入るか?バー○ヤンでええねんバーミ○ンで!味も分からんくせに!!」
「ハイハイ、うるさいよ〜ソコ。男に二言はないって言ったのアンタでしょ」
「そらそうやけど、メニュー見て腰抜けたわ!もう二度と入らんからな!」
「二度目があるとは思ってないから堪能したんじゃん」
ふてくされたまどかは無視しておいて、アタシはふと、鞄からケータイを取り出してみた。
からの着信はない。
「やっぱり効いたかアレ……まあ、丸く収まったんならいいけど……」
「ん?なんの話や?」
「あのバカップル、大分ずれてるよねえってハナシ」
「なんのこっちゃ。……そういえばおまえ、なんで理事長と茶ぁしてたんや?」
少しだけ訝しそうに訊かれた台詞に、アタシはうーんと考え込んで。
なんて表現したら一番正しいだろうと思ったあげくに、ぽんと手を打った。
「ああ、そう。理事長がの機嫌悪くしたからさ、どうしたらいいんだーって相談されてたの」
「……ホンマか?」
「ホンマホンマ。なっさけない顔でさあ、藤井くん、助けてくれ!とか言っちゃって」
「……まあ、あのお人ものことになるとめっちゃ子供っぽいからな……」
大袈裟に言ったそれを、まどかがなんの躊躇いもなく信じているのがおかしい。
でも普段の理事長を見てたら、それも十分ありえるから。
「そうそう。そんでもって奈津実ネェさんが一肌脱いでたわけよ!」
「おまえ、また妙なアドバイスしたんやろ」
「……………。」
肩をすくめながらメットを被り、バイクにキーを差し込むまどかの後ろで。
アタシは周りに誰もいないのを確認すると、試しに彼の耳元で言ってみた。
「まどかー。」
「なんや?」
「アタシ、まどかのこと好きだよ?」
瞬間、一気に頭に血が上るのが分かる。
大声で喚きたい羞恥心を頭を振ることで隠して、アタシは少し掠れた声で続けた。
「い、今のナシ。やっぱりナシ!」
こんなこと、人のいる店の中でよくやるよ!恥知らず!!と、心の中でヒゲオヤジに八つ当たりする。
あのバカップルの真似をしてみようと思ったのが、そもそも間違いかもしれない。
けど。
「な、な、何を言うとるんや!おまえらしゅうもない!!」
叫んだまどかの顔も、メット越しに分かるくらい真っ赤になってるから。
自分の恥ずかしさを克服したら、これは割と有効なのかなぁ……とちょっとだけ思った。
あと、それを言った後のまどかが微妙に優しくて、男って哀しい生き物だなあとしみじみ思った。(笑)
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