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 Love Me Tender 1 

「あっれー? ?」

少しトーンの高い、けれどよく知っている声を聞いて、少女は笑い合っていた顔をそちらに向けた。
振り向く前に、表情が驚きと笑みを含む。

「なつみん?うわー久しぶり!」
「久しぶりってアンタ……先月遊びに行ったばっかじゃん」
「いいの!会いたかったんだから!」
「ハイハイ。でも偶然だねー。今日はデートぉ〜?」

最後の言葉は、わざとらしく彼女の後ろを覗き込みながら言う。
在学中と変わらないその表情に、天之橋は苦笑に近い笑みを浮かべた。

「でっ…デートって……そんなんじゃ!」
「こんにちは、藤井くん。元気そうだね」

頬を染めて抗弁する少女を遮って声を掛けると、奈津実はにまにまと笑いながら中途半端に頭を下げてみせた。

「元気ですよぉ〜。リジチョも相変わらずラブラブで何よりです」
「ありがとう。君も姫条君と良い付き合いをしているらしいね」
「……………まどかが言ったんですか?」
「いや、想像だけれどね。今日もデートなのだろう?」
「え、そうなの?」

彼の言葉に、少女が驚いて奈津実を見る。
奈津実は小さくまーね、と呟き、話を変えるように側の喫茶店を指さした。

「立ち話もなんだから、ちょっとお茶しない?」
「でも……なつみん、まどかくんと待ち合わせしてるんじゃないの?」
「今、来るの待ってんの。もう時間過ぎててさあ。
 アイツ、最近仕事ばっかで出掛けてないし、きっと色んな店に寄ってるんだよ」

カランと音をさせて喫茶店のドアを開けながら、奈津実は屈託なく笑った。

「忙しい間にアイツの好きなCDや雑誌が発売されたから、絶対買いに走ると思ってたんだー。
 多分まだ時間かかるし、ここならすぐ分かるから」

そう言って、手際よくウエイトレスに窓際の席を頼む彼女に、天之橋はくすりと微笑んだ。

「さすがだね」
「そりゃ、高校ん時からの付き合いですからこんくらいはねー」
「いや、それだけではないよ。君は在学していた時から頭の回転が速い子だったから」
「あはは。アタマ悪いですから、要領くらいはよくないと」
「まあ……学校の勉強には身が入らなかったようだけれどね。けれど仕事となれば、知識より要領が必要な場合も多いから」
「……………」
「君ほどの素質があればきっと、今の仕事も上手くやっているのだろう?」
「……………」
「ん?どうしたんだい?」

口を噤んだ奈津実が、瞳だけで天井を見上げて息をつくのと同時に。
彼の隣に座っていた少女が、かたんと席を立った。

「ごめんなさい。ちょっとお化粧室に行ってきますね?」

微笑んで歩いていく彼女を何気なく見送る天之橋に、奈津実はやれやれと肩をすくめてテーブルに肘を突いた。

「あーぁ。理事長、分かってます?」
「うん?」
、あれはかなり傷つきましたよ〜」
え?」

予想もしなかった言葉に、驚いて彼女を見る。

「カノジョの前で、他の女を誉めるもんじゃないですよ」
「ほ、他の……と言っても……」
「ああ、理事長の意図は分かりますよ。でも面白くないもんなんです、女の子って。
 しかも、知識より要領なんて言われたら、そりゃあのコは落ち込みますよねえ」
「………………」
「フォローするの、あのコは難しいですよ。遠慮して隠しちゃいますからねー」

同情と、それ以上に面白がる瞳。
もとよりこんなことで、彼らの仲がどうにかなると思っているわけではなくて。
ただ、親友のことに関してだけは今までの経験も知識も役に立てられないこの年の離れた少年を、からかって遊んでいるだけ。
そんな奈津実の思いを知ってか知らずか、口元に手を当てて考え込んでいた天之橋は、ついとテーブルに身を乗り出した。

「……どうしたら良いと思う?」

判断を任せるのではなく意見を聞くように、至極真剣に問う。
途端に、奈津実の顔から笑みが消えた。
これだからこの人は食えない……と。
逆に、してやられた気分になる。

彼女の機嫌を直すにはどうしたらいい、なんて、普通の男はプライドが邪魔して聞けないはず。
からかった自分にそれを平気で聞いてきて、おそらく意見すれば素直に礼を言うのだろう。
仕掛ける相手を間違えた、とでも言いたそうな目でため息をついて、奈津実は肘で頬を支えたまま声を潜めた。

「……そうですねぇ。まぁあのコなら、“さっきのことだけど”とか蒸し返したら逆効果ですから。
 その他のことで喜ばせた方がいいと思いますけど」
「ふむ。そうだね、私もそう思うよ。では……こういうのはどうだろうか」

ぼそぼそ、と呟かれた台詞に、奈津実は瞳を見開いた。

「………………それは……ちょっと……」
「駄目かい?」
「いや……どうでしょう。には効くかも……でも」

アタシだったら、絶対に、嫌です。とは言えず。
奈津実は少しだけ、顔を引き攣らせた。
そのとき。

「………なんや、楽しそうやないか」

額を突き合わせて相談していた二人の背後から、押し殺したような低い声が聞こえた。

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