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 スイートショコラ 2 

家庭科室へ着くと、入口の引き戸がまるで乱暴に叩きつけられたかのように、薄く開いたままになっているのが見えた。
そこに手を掛けようとしたその時、中から呟くような声が聞こえ、私は思わず手を引いた。

「……どうせ……私の作ったチョコなんて、美味しくないし……」

細く切り取られて見える室内には、机に俯せている彼女の姿。どうやら一人らしい。
しかし、それに安心する間もなく、彼女の言葉に心を奪われる。

「何十回練習しても、上手くなれないから……だから、そんなのよりお店のチョコの方がって思ったのに」
「……!?」
「珪くんの、嘘つきー……一生懸命作ればいいなんて、私が渡す人もそう思ってくれるなんて、嘘ばっかり。
 ……やっぱり、ちゃんとしたのをお店で買ってくれば良かった……」

八つ当たりのように呟いて、彼女はがばっと身を起こした。

「もういい!自分で食べるもんっ。
 せっかく五時起きで作ったんだし、四回も作り直したんだし、食べないと無駄になっちゃうもんねっ」

びりびり、と包み紙を派手に破く音が聞こえ、いくつかを鷲掴みにして口に押し込んで。
ろくに味わいもしないような食べ方をしながら、はあ、と重いため息をつく。

「……明日、商店街にチョコ買いに行こ……そんで、天之橋さんには月曜に渡そう……」
「!!」

混乱して忙しく働いていた思考が、そこで真っ白になった。

彼女が苦労して作ったというチョコレートは、誰のために?
自分に渡されるはずだった、あの箱の中に入っていたものは?

全てのピースが嵌ったわけではなかったが、もう我慢できなくなって、私は家庭科室のドアを開いた。
奥にいた彼女が、びくっと震えてこちらを振り返る。

「!?あ、あま……っ!」
「……自惚れでなければいいのだが……それはもしかして、私に、ではないのかね?」

自分でも半信半疑でそう言うと、彼女は手と首をぶんぶん振りながら立ち上がった。

「あ、あ、あのっ!違うんです、私、あの、今日忘れちゃって!これは違うんです!!」
「………そうか」

その挙動が、どうにも反論できないほど真実を示していて。
口元が弛むのを抑えられず、私は少しだけ笑みを零した。

「もしかして、私のために作ってくれたのなら嬉しいと思ったんだが……どうやら違ったようだね」
「え!?……っと、えっと、あの……っ」

心底驚いたように目を見開き、しどろもどろになる彼女にくすりと笑って、傍に歩み寄る。

「では……良かったら、私にも少し分けてもらえないかな?」
「…………………ど、どうぞ」

複雑な顔で頷かれ、差し出される箱から小さなチョコレートを取り上げる。
元々完成形が歪な種類なのに、綺麗な球にしようと努力した跡が見られるそれが、彼女の思い入れを表しているようで微笑ましい。
心配そうに覗き込む彼女に、告げる言葉など決まっている。それでも、それは決して嘘ではなくて。

「うん。とても美味しいよ」
「本当ですか!?」

ぱっと表情を輝かせて勢い込まれる問いに、私はもちろん、と頷いた。
それから、その頬と指が薄く汚れているのを見て、そっと彼女の手を取った。

「こんなに美味しいのに、乱暴な食べ方をするから……ほら」
「え?」

落ちる視線と一緒に、身を屈めてその指にキスを落とす。
ほのかに甘い風味と、それ以上に甘い感触。
下から見上げると、彼女は薄暗くなり始めた教室でもはっきり分かるほど頬を赤らめていて。
いつものその反応が、いつもよりも愛しくて、私は溢れる感情を抑えながら彼女の頬に口づけた。

「……では、お嬢さん。これのお礼に、お茶でもどうかな?」

今日と明日の彼女の予定を攫うことに、いつになく妙な自信が湧いている自分に、照れた苦笑が漏れた。

FIN.

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