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 Home Sweet Home 〜Special eve〜 1 

「…………」

ふう、と何度目かの息をついて、少女は目の前のドアを見上げた。
ここにひとりで来るのは久しぶり。半年くらい前のパーティに出たとき、戻ってこない彼を探して恐る恐る訪れて以来だった。
その後も、彼と一緒なら何度か入ったことがあるのだけれど、やはり主人のいない部屋に一人で入るのは躊躇いがある。
深呼吸を繰り返しながら、少女は気を紛らわせるようにくるりと周りを見渡した。

広い廊下には、人気が全くなかった。それどころか、彼女がこの家を訪れてから会ったのはひとり、通用門の守衛だけ。
それがパーティのためなのか、それとも気を遣われているのか定かではないが、おそらく後者なのだろう。いくら生徒のほとんどが集まるパーティだと言っても、この屋敷の使用人全てがかからなければ処理しきれないとはとても思えない。
守衛にしても、外門から通用門までほんの10分の距離を30分も掛けて行きつ戻りつした彼女を、いつも目にする淡々とした態度ではなく程良い親密さと気配りで迎えてくれた。

緊張をほぐしてくれるそれに感謝しながらも彼が使用人になんと伝えたのかと思うと、恥ずかしくなる。
在学中も卒業後も、この屋敷には数え切れないくらい訪れたけれど、それでも彼が少女のことを恋人だと明言したことはなかったし、彼女もそんなつもりで使用人に接してはいなかった。

けれど。
親密な男性から鍵をもらう、というのは、年頃の女性にしてみたらありすぎるほど意味のあることで。
少女をひとりで部屋まで上がらせるということを、例えどんなふうに話したとしても、その意味を悟られてしまうことは想像に難くない。
今まで普通に話していた人たちと、どんな顔をして会えばいいのか分からない彼女にとって、その気遣いはありがたかった。

「……嬉しいのは、すごく……嬉しいんだけどね」

心を落ち着かせるために口に出して、それから小さく笑う。
昨日、鍵をくれた時の彼の狼狽えぶりを思い出したから。

うん、とひとつ頷いて、少女はゆっくりとノブを廻した。
一応、失礼しますと呟きながらドアを開ける。

「……?」

一瞬、ふわりと暖かい風が漂って。
不思議に思って中を覗き込むと

「え!?」

驚いて、少女は一気にドアを開いた。
いつもはほとんど物がない部屋の中央には大きなツリーがあって、たくさんのオーナメントが飾り付けられている。
それは、学園のパーティ会場で見慣れたツリーより二回りほど小さいけれど、普通の部屋では天井に届くほど大きかった。
その下にはいくつものプレゼントの箱が積み上げてあって、奥の暖炉では火が燃えていて、ふかふかの絨毯を敷き詰められた室内にはクリスマスキャロルが流れていて。
それは、憧れていた外国のクリスマス団欒のイメージにぴったりの空間だった。
けれど、何かどこかに違和感を感じて。少女は部屋の中をよく見渡し、すぐそれに気付いた。

「え、でも、暖炉なんて……」

この前来たときは、なかった。オフシーズンには嵌め込み式の壁になるタイプなのかもしれないけれど、でも、どう見てもそれは新しく作られたような風情で。
もしかしたら、今日のために、この空間のために作ったのだろうか?

「嘘……ほんとに……?」

信じられない気持ちで、とりあえずドアを閉めて近づき、覗き込んでみる。
パチパチと火のはぜる音と、熱の圧力。それが想像では感じられない現実味を帯びていて、胸がいっぱいになった。

「……すごい……」

呟いて、ほうっとため息をついて。
背景に溶け込むようなロッキングチェアに座ってみようとした少女は、ふと、その上に置かれている手紙に気付いた。
宛名は、自分。ということは間違いなく、彼からの手紙。
急いで開けてみると、淡い花の香りとともに、綺麗な装丁のクリスマスカードが出てきた。
  

よく来てくれたね。出来るだけ早く戻ってくるようにするから、
少しだけ待っていてくれ。

多分、君のことだから随分早くから来ているんだろうけれど、
することがなければツリーの飾り付けをお願いしても良いだろうか。

それと、よかったらプレゼントも開けてみると良いよ。
本当は、プレゼントは明日まで開けない決まりなのだけれど、
帰ったときに君の笑顔を見たいからね。

では、また後で。

天之橋  

  
「飾り付け……?」

その言葉にツリーをよく見ると、オーナメントが飾り付けられているのは自分の背より上の部分だけで、それより下は何も飾られていない。
そして、ツリーの足元に、プレゼントに混ざってたくさんの飾りやリースの入った箱。

彼女の瞳が、宝物を見つけたときのように輝いた。

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