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 Special to ME 2 

家の近くまで戻ったとき、雪はもうやんでいた。
しかし、夜の冷気で溶けずに残った淡雪が、辺りをうっすらとパステルカラーに染めている。
そういえば、今日はこの冬一番の寒さだと言っていた。先ほど雪を降らせた雲は空を覆うことはなかったので、放射冷却でますます気温が低くなっているのだろう。
私は暖房をつけていなかった。冴え冴えとした冷気の中に、自分を置いてみたかったから。
「やはり、かなり冷え込むな……」
呟きながら、家の前の道へハンドルを切る。
ゲートの前まで進んでいったん車を止め、私はリモコンを操作して門を開いた。

その時。
門柱の陰で、何かが動いた気がした。
自動で開いていく門から何気なく視線を滑らせ

私は驚愕した。

門柱の上から照らすライトの中に浮かんだのは、見間違うはずもない……の姿だったから。
動くことができず、呆然と見つめる私に。
彼女は、普段と同じように笑い、小さく手を振る。
 

平日の真夜中。
今夜はこの冬一番の寒さで。
先ほどまで、雪が降っていて。
車の中にいてさえ、指がかじかむ。
そして彼女の格好は、学校の制服に学校指定の膝丈コート。
もしかしたら、学校が終わってからずっと待っていた?


一瞬で状況を思い出した私は、ドアに身体をぶつけるようにして外に飛び出した。

「何をやっているんだ!」
思わず語気を荒くした私に、近づこうとしたはびくっと足をすくませた。
怒りたいのではない。何か用があったのだろう。私の帰りが遅かったから、ついこんな時間まで居続けてしまったに違いない。
分かっている。そんなことが、分からない私ではないのに。
理性のフィルターを通す前に、憤った言葉が出てしまう。
「こんな夜に、そんな格好で、こんな時間まで……!」
叫びながら立ち止まっている彼女に駆け寄り、私はその体を乱暴に抱き上げた。
「……あ、っ」
触れた手足は、氷のように冷たくて。
間近で見れば、頬も真っ赤にかさついている。
大丈夫ですから、と呟く口も、上手く廻っていない。
私はを抱いたまま強引に運転席に戻ると、彼女が驚きの声をあげるほどのスピードで屋敷に向かってアクセルを踏んだ。

 

◇     ◇     ◇

 

カツカツカツ、と廊下に足音が響いている。
迎えに出た執事を跳ね飛ばすようにして、私は屋敷の中へ進んだ。
半ば走って階段を上がり、廊下を通り、バスルームのひとつ24時間ぬるめの湯が満たされている浴室へ向かう。
はその間ずっと、私の腕の中で縮こまるようにして息を詰めていた。
おそらく、私が余裕のない表情をしてしまっている所為だろう。
こんな姿は、彼女の前では見せたことがなかったから。

バスルームへ着くと、私は足で蹴り上げてドアを開け、そのままゆっくりと彼女を湯船に下ろした。
「きゃ……」
体の表体温との温度差で、ぬるい湯が熱く感じるのだろう、彼女は小さく声を上げて顔をしかめた。
「痛いところはないか?」
脇に膝をつきながら、彼女の肩に湯を掛ける。
もし症状が凍傷にまで進行してしまっているなら、暖めると激痛が走るはずだ。そうなれば、医者を呼ばなくてはならない。
「い…いえ。ちょっと、熱いですけど……」
しかしは、そう答えてほっと息をついた。
「指の感覚は?」
「だいじょうぶ……あの、あの……天之橋さん」
パシャンと水音をさせてこちらへ向き直る彼女の瞳が、恐る恐る私を捉えた。
「ご……ごめん、なさい」
「……………」
その一瞬で、余裕のない感情は形を潜め、私は大きく歎息した。
湯船の縁に手を掛けて下向くと、眼鏡がかつんと音を立てて落ちる。

沈黙が、バスルームを支配した。

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