はじめに降ってきたのは、息もつけないようなキスだった。
「んんっ……んむっ」
いつもの、唇を合わせるだけのそれではなく。
唇を割られ、舌を吸い上げられ、歯茎をなぞられる。
少女の体はそれだけで力が入らなくなった。
「んーっ、ん……は、……むっ」
息苦しさに顔を背けると、両手で顔を挟み込んで引き戻され、さらに深く口内を貪られる。
舌の裏や上顎を、時間をかけて舌先で丹念にねぶられて。
「ん…ん、んっ、……んぅっ……!」
あっ、と思ったときには。
びくん、と。身体が痙攣していた。
「ん……ふ……っ」
潮が引くように、ゆるゆると感覚が薄れていく。
そのまま意識を失いかけた少女は。
しかし、首筋にくちづけられ、目を覚まさせられた。
「あ…っ……あぁっ」
片手で少女の髪をかき上げながら、もう片手でドレスのスカートは捲り上げられ。
シルクの下着の、横結びがほどかれる。
抵抗のない膝を割って、キスだけで潤んだそこで指を濡らしてから、上の突起を探る。
「ヤ……、ぁああっ!」
探られた場所を、ぬめる指の腹で押され、ひときわ高い嬌声を挙げると。
それに呼応するかのように、少し武骨な指が入ってくる。
一度、深く、突かれる感覚。
少女の背中が反った。
入れた指をゆるゆると抜かれると、今度は入り口近くの天井を擦り上げられる。
ゾクゾクッ、と。今まで感じたことのない神経の昂ぶりが、少女の背筋を駆けのぼった。
「………っ………っ!!」
声も上げられず、少女は身を震わせ、二回目の高みに押し上げられていった。
息が、上がる。
体がいうことを聞いてくれない。
あまりにも自分の許容量を超えた感覚に、思わず抗いかけるたびに。
彼が、自分の名前を呼ぶので。
抵抗する気が無くなってしまう。
強い口調で拒否すれば、彼が覚醒することはわかっているけれど。
「っ…やぁ、こんな…格好……っ」
体を裏返され、見えない所に舌を這わせられる。
彼は意識がないのだから、恥ずかしがることはないのだけれど、それでもやっぱり恥ずかしい。
ひじで体を浮かせることも出来ず、シーツに顔を埋めながら喘ぐ少女に、愛撫は容赦なく続けられる。
初めての時は、あれでも優しくしてもらっていたのだと。
実感した。
「んっ、……あ!」
一本のピアノ線を弾くような感覚が、突然拡大し、存在感のあるものに侵入される圧迫感に取って代わられる。
「ひ……っ…ぁ、あ、……ああっ!」
揺さぶられる違和感。しかしすぐ、それは体を弄られる愉悦に混じってしまう。
大きな手が、自分の腰に当てられていることが、何故かとても官能的で。
そこに彼がいることを、視覚ではなく触覚で教えられていることに、感じている自分がいる。
「あ…ああっ……ん、あ、ま、の…は…っ……」
波が寄せてくる感じがまた、少女を襲う。
「お…ねがっ……も、ゆるしっ………」
「」
「やぁっ……」
うわずった声で、名前を呼ばれると。
それに引きずり上げられるように、波にのまれる。
「あっ……ぁ、あ、も、うっ……駄…目……!!」
今度こそ。
少女は、意識を手放すことが出来た。
◇ ◇ ◇
「う……んん……?」
ふと目を覚ますと、目の前に彼の顔があった。
「っ!」
一瞬、頭が混乱するが、周りを見渡して思い出す。
「あ……あーあー……??」
声が。
自分の声とは思えないくらい、おかしい。
「もうっ……」
けほけほと咳をしながら、少女は落としたままだったバッグに手を伸ばした。
ごそごそ、と中を探っていると、後ろから伸びてきた腕にぐいっと引かれる。
「きゃっ……あ、ちょっと、まって」
彼はまだ、夢の中らしい。それでも、彼女が離れたことに気づくのはさすがと言えるのだろうか?
かろうじて目的のケータイを指先に捕らえながら、ベッドに引き戻される。
「……もぅ。天之橋さんったら」
また、同じように腕の中に抱え込まれて。
少女は少し窮屈そうにしながら、ケータイを開く。
本当は、電話した方がいいんだけれど。
こんな声では、心配されるのがオチだ。
しかも、あの勘の鋭い尽なんかが出たら、妙なことを勘ぐられかねない。
実際は。妙なこと、ではなかったけれど。
「っと……遅くなったので……泊めてもらいます。っと」
尽のアドレスを指定して、メールを送信する。
とりあえず目的を果たして、少女はほっと息をついた。
上を向き、ケータイをパタッとシーツの上に落とす。
「とりあえず……何か、服、着なきゃ……」
ドレスはすっかり脱がされて、ベッドの周りに落ちている。
からみつく腕をどけて、そこまでは……行けそうにない。
仕方なく、少女は傍にあった彼のYシャツを手に取り、苦労して身につけた。
その時。
パーティからマナーモードに設定したままのケータイが、ブブブッと着信を知らせた。
「あっ。尽?」
ケータイを開けてみると。
そこには。
了〜解!
だけど、いつもは電話してくるのに、あやしいなぁ。
さては、電話できないような状況か!?(^▽^)b
かーちゃんたちには電話来たって言っといてやるよ。
尽 |
「あっ……アイツ〜!」
まったく、弟の勘の良さはハンパではない。
そして、悪態を付きながらも機転が利くところも。
帰ったらどんなにからかわれるだろう、と思いながら、少女は目を閉じた。
相変わらず、彼の匂いに包まれながら。
次の朝。
「…………………………。。。」
目の前の状況に硬直する彼に、
「おはようございます!天之橋さん」
彼女は、わざと平然と言う。
「…………おはよう。そ、の………昨夜、は………」
「えっ?なんですか?」
「いや、その……なにか、……………なかったかね?」
「いーえ?何にもっ」
「…………そ、そうか…ね…………」
それ以上、彼が口にできる言葉はなかった。
それからしばらく、少女が妙に強気で。
彼が、いつもにまして言いなりだったことは言うまでもない。
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