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  MN'sRM > GS別館 > GS1夢 > 天之橋・約束シリーズ1 >

 過去の約束 3 

「イヤ……!!」

叫んで、目を開けると。
目の前に白い天井があった。
「……っ…」
浅く息をし、汗びっしょりになりながら、状況を把握する。
「あ……、そうか。保健室……」
数瞬後、夢と現実の区別が付き、少女はようやく安堵の息をついた。
その時。


「………!!」
すぐ傍から聞こえた声に、ビクッと身をすくませて。
彼女はゆっくりそちらを向いた。

「あ……、あ、天之橋さん!」
「大丈夫かね?」
そこには、心配そうな顔をした彼がいた。
一瞬、夢の続きかと思い身構えたが、葉月はどこにもいない。
ふ、と。我に返って、奈津実のヤツ〜!!と頭に血を上らせかけた少女は、ハッと状況に気づいた。
「あ、えっと。私、どのくらい寝てました!?」
「ん?そうだね、…1時間くらいかな」
「そうですか……」
ほっと息をつく。1時間なら、まだ大丈夫のはずだ。
だがどうやって、トイレに行けばいいんだろう?

はやくしないと、とあせる彼女とは裏腹に、天之橋はほっとしたように微笑んだ。
「どうやら、大丈夫のようだね。……びっくりしたよ。
 廊下を歩いていたら、君が倒れているのが見えて」
え?と首をかしげて、彼を見返す。
「あわてて駆け寄ったら、藤井くんが戻ってきて。
 ……貧血だって?いけないね、体調には気を付けなくては」
優しく頬を撫でられながら、なつみんが呼んできた訳じゃないんだ……、と申し訳ない気持ちになったとき、養護教諭が顔を出した。
「理事長。彼女の汗を拭かせますので、外に出ていただけますか?」
「あ、ああ。……では、後で迎えに来るから、くん」
他人がいたことに今更気づいて照れながら、天之橋はふと気づいて包みを取り上げた。
「それから、これは藤井くんにアドバイスしてもらったものだ。良かったら使うといい」
その包みを渡すと、天之橋は少女の手に口づけてから、保健室を出て行った。

「まぁ……聞きしに勝る溺愛ぶりねえ」
養護教諭は半ばあきれたように言い、顔を赤らめる少女ににっこり笑った。
「大丈夫よ。理事長はただの貧血だと思っているし、藤井さんにも事情を聞いたから。
 とりあえず、トイレに行ってきなさい?そっちのドアから行けるから」
下手したら保健室の前で待たれていそうだしね、と笑う彼女の言葉に甘えて、少女はもう一つのドアから職員用のトイレに急いだ。

 

◇     ◇     ◇

 

少女がトイレから戻ると、養護教諭が鎮痛剤を処方してくれていた。
「完全に痛みが無くなる訳じゃないけど、気休めにでも飲んでおいた方がいいわ」
「はい、ありがとうございます。あの……なつ、じゃない、藤井さんはなんて?」
「ん?……あぁ」
水の入ったコップを渡しながら、彼女はくすくす笑った。
「生理痛がひどいんだけど、それをカレには知られたくないみたいだから、なんとか隠してくれって」
「か、か、カレなんて、そんなんじゃないです!」
どもる少女に、更に笑う。
「恥ずかしがるような事じゃない、って言ったら、私もそう思うけどあのコは恥ずかしいから、協力してあげて欲しいって……いい友達だわね」
「なつみんが……」
「それと、その包み。冬用の学校指定コートよ。
 それなら、黒だし厚手だし、万が一服を汚してもわからないでしょ?」

それも、奈津実が天之橋に用意させたものだった。
貧血は身体を冷やしちゃいけないから、コートを用意してあげて欲しい、でも間違っても自分のブランドコートなんか貸しちゃいけない。学校指定のコートを用意してあげて、と、奈津実は細かく天之橋に指示したという。

「ホント、端で見ていて笑いを堪えるのに必死だったわ〜。
 あなたが倒れたっていうんで理事長はおたおたしてるし、藤井さんはそんな理事長にほぼ命令形で話してるし。
 また、理事長が素直に従ってる姿が……」
くくくっ、と目に涙を浮かべて、彼女は思い出し笑いをする。
少女は二人の愛情のこもった包みを抱きしめた。
なつみん。天之橋さん。……ありがとう。
身体の辛さが、少しだけ和らいだ気がした。


少女が礼を言って保健室を出ると、少し離れたところで天之橋が油を売っているのが見えた。
養護教諭の言葉を思い出して、思わずくすくす笑う。
「天之橋さん」
呼びかけると、彼はパッと表情を輝かせてこちらを見た。
くん!大丈夫なのかい?」
「はい、休んだらだいぶ良くなりました」
「そうか……。でも、大事を取って今日は早退しなさい。家まで送るよ」
「ありがとうございます、でも、早退届を提出しないといけないから……」
少しだけ待っててもらえますか?と少女が言うと、天之橋は我が意を得たりとばかりに紙片を差し出した。
「そう言うと思って、届け出ておいたよ。氷室先生はいい顔をしなかったけれどね」
これくらいの職権乱用は構わないだろう?と囁きながら、微笑みを返す。
「天之橋さん。ありがとう……ございます」
背中に当たった手が、いつもより暖かかった。

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