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 たたかいのはじまり 2 

素足で絨毯を歩く、重さを感じさせないかすかな音が足下で響いている。
立夏は家の中では素足を好んでいた。他の人間が外靴で通るそこを素足で歩くことを、清潔だとは思わないけれど。
掃除が行き届いている所為で妙なものを踏んで怪我をする事はないし、毛足の長い絨毯の感触を足の裏で感じるのも悪くない。

そう思いながら廊下を進み、あまり近づいた事がない部屋に辿りつく。
白木で作られた、少し小さめのドア。玄関からここに行くには、使用人や警備員の部屋の前を通らなくてはいけなくて、それ自体が守られている感じがする。
立夏はらしくなく息をついた。

中に彼女がいるのは分かっている。
昼間の爆弾発言が頭の中で廻って離れず、部屋で悶々としていたのだけれど、このままではいつか夜這いに行ってしまいそうな自分に気づいて部屋を出た。
自分が襲いそうだから鍵を掛けろ、と言うわけにもいかず。
それなら一度、鍵を閉めなかったせいで嫌な事があれば、それからは気をつけるだろうという考えを持って。
ノックもせずに部屋に入るつもりで少女の部屋の前まで来た。

時刻は8時。そろそろ風呂の時間かもしれない。
少しだけ、着替えの最中であることを期待する気持ちに気づかないふりで、ドアを開ける。

。昼間の服、着てみた」
か?と言いかけて。
立夏はがくりと頭を垂れた。
「こ、こいつは、本当に……年頃の男がいるって分かってんのかよ!?」
部屋の中は、明かりがついたままで。
はっきりと見える、着替えもせずに奥のベッドで眠り込んでいる彼女の姿。
立夏は苛立ちながらベッドの側まで行き、彼女を見下ろした。

「…………ぅみゅー……」

寝言を言いながら少女はすやすやと眠っていて、うっかり笑顔を誘われる。
中途半端に抱かれている犬の抱き枕を、試しに引っ張ったら。
途端に眉を寄せ、目を閉じたままでそれを探す手に、吹き出すのを堪えた。
「おまえの方がガキじゃねーか……まったく」
ぎし、とベッドをきしませて座り、犬を床に投げ出す立夏の手を、ふと少女がとらえた。
「ぅわ、っ?」
思いがけない力で引かれ、ベッドに倒れ込む立夏に。
少女はむにゃむにゃ言いながら抱きつき、唇を寄せた。

「ん……天之橋、さん……」
!」
されていることと、呟かれている名前と、両方に衝撃を受けた。

それが自分のことではないことは知っている。
しかし反射的に深く口づけたキスに、少女が辿々しく応えたとき、立夏の理性の糸がぷつりと切れた。
「ん……っ」
薄いブラウスの上から胸を探ると、少女は切なそうに呻いて身を捩った。
すぐに固くなる場所を、集中して責める。
「ふぁ……あ、んっ……」
唇を離すと、少女は誘うような色香をまき散らしながら、仰け反った。
それに惹かれるように、首筋に口づけながら、上着の裾から手を入れる。
「ひんっ……!」
直接胸を嬲られただけで、少女の体が激しく跳ねた。
敏感なんだな、と思わず考えて、自分の父親にそう調教されたのだということを思い出し、眉をひそめる。
腹立たしさを紛らわすように、立夏は少女の短いスカートに手を入れた。
「んっ…!……ぁ、あまのは…し…さ…っ」
「……
呼ばれる名前を無視して、囁く。知らずのうちに声音を変えてしまっているかも知れない、と、心の隅で思った。
彼女の誤解が、少しでも長く続くように。

下着の脇から指を潜ませ、突起を擦り上げると、少女はいくらもしないうちに体を震わせ始めた。
「ヤ、ダメっ……あ、ぁ、……もぅ、ゆるしっ……!」
切なく吐き出される、哀願の台詞。

「ひぁっ、あ、あ……あぁあっっ!!」
びくり、と。跳ねるように体を大きく震わせて、少女は限界に達した。
指が、溢れた体液にまみれているのが分かる。それをぺろりと舐めて、彼女の服を脱がそうとしたとき。

そこまでだ」

はっとして振り向くと、部屋のドアの横で、天之橋が壁にもたれているのが見えた。
「私の留守中に随分面白いことをやっているようだが……寝込みを襲うのは感心しない」
「………!」
言外に、意識があれば少女はそれを看過しないという意味を含ませて、壁から身を起こす。
思わずベッドから降りた立夏には構わず、天之橋は荒い息をついている少女に唇を寄せた。

?……いけないよ、きちんと着替えて眠らなければ」
「ん……天之橋さん……」
悩ましく呟いて、彼の首に手を回す。
「ヤ……、寝ないっ……」
その台詞に、少し笑って。
首筋に残る、つけられたばかりの真新しい痕を、さりげなく上書きする。
「……私が着替えさせようか?」
首筋を吸われるだけで喘ぐ少女にそう言うと。
「ん……ぅん……脱がせて……」
似ているようで違う返事を返され、苦笑する。
天之橋は、中途半端にはだけられた服を丁寧に脱がし、露わになる彼女の肌に口づけを落としながら呟いた。

「見ていたければ……それでも構わないが?」
「……ぇ?」
まだ微睡みの中にいる少女が不思議そうに声を上げるのと、立夏がすっと音を立てずに部屋を出て行くのが同時だった。
ククッと笑って、天之橋は少女に答えた。
「なんでもないよ。…けれど、そうだね。この部屋にはオートロックをつけることにしよう」
「……?」
「君と私がこうしているのを、他の誰かに見られたくはないだろう?」
韜晦して、優しく口づけて。

「私は、構わないがね……誰に見られても」
「あぁっ!……ふぁ……」

囁かれる言葉の意味を、深く考える事ができないまま。
少女は、降り注ぐ快楽に溺れていった。

 

◇     ◇     ◇

 

後日談。


少女の部屋に新しくつけられた、オートロック。
ドアを閉めると鍵も閉まり、中から開けるか合鍵で開けるかしない限り入ることはできない。
それに満足していた天之橋が、ある日仕事から帰ってくると、迎えたのは

「だから、無駄だって。コイツ、人を招き入れといて平気で寝るからさ」
「…………………」

ソファにふんぞり返って、自分そっくりの顔でククッと笑う息子と。
その脇で、彼に抱きついてぐっすり眠る少女の姿であった。

終わる。

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