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 memory 1 

「アタシ達別れましょ?」

夏物のファッションショーの準備が大詰めで、当分逢えないと思っていた矢先の、突然の呼び出し。

少しでも一緒に居られる時間を増やすため彼の仕事場に直接行って仕事が終わるのを待つのが彼女の常だったが、その日は家のそばの公園にすぐ来るように言われて。

夜の公園というシチュエーションと電話口の何時にない真剣な声に、高鳴る胸を深呼吸で抑えつつ、待ち合わせの噴水前に佇む遠目でも暗くても間違える訳は無い大好きな彼の元へ走り寄った、のに。

「え……?」

逢えた嬉しさで浮かんだ笑顔をそこに凍り付かせたまま、問い返す。

「…なに…?良く聞こえなかっ…」
「だーかーらー、別れるって言ってんの。ニブい子ねェ…アンタには悪いけど、アタシ見つけちゃったのよねー最っっ高の美少女!もうインスピレーションの嵐よ!ほんとはここでこうしてる時間も惜しいんだけど、ケジメだから、ね…後々面倒になるのも困るじゃない」

少しでも時間が惜しいという様に、彼女の言葉が終わるのも待たずまくし立てる彼。
その言葉の意味を彼女が理解するよりも早く、斬りつけるられるような次の一言が投げつけられた。

「面倒って、分かるわよネ?アタシ名前が売れてるからそーゆーのとっても困っちゃうの。今までの女達は大人だから心配無かったケド、アンタには言っとかなきゃって思って」
「あ……の…、はい…」

廻らない頭でとりあえずした返事に、にっこり笑って。

「そう、良かった。じゃあね」

そう言い残して何の惑いも無く踵を返した彼を、はっきりと拒絶の二文字の浮かぶ背中を見ているしかなかった。

 

◇     ◇     ◇

 

『別れたから、学校に来るかどうかチェックしてて。来ないなら毎日電話して確認しなさい。あ、別にアタシに報告しなくていいから』

事務的にそう言われ、どんな返事をしたものか一瞬迷った。
聞きたいことは山程ある、しかし

『……確認、とはどういう事だ?花椿』
『アンタが考えてるソレでいいわ。アデュー』

そこで電話は途切れ、その後は繋がらず。
次の日彼女の母親から欠席の電話があった事を聞いてすぐ、片っ端から電話を掛けたり出向いたりしたが親友は捕まらなかった。
それどころか、店は閉まっていて、自宅は強盗が入ったかのように荒れてパスポートだけが消えていた。

きっちり一週間の欠席の後、ようやく学校に来た彼女は、少しやつれ顔色も悪いものの、校門に立つ彼に笑顔で挨拶をし毎日届いた見舞いの花の礼を言った。

「もう大丈夫なのかね?風邪をこじらせたそうだが…」
「はい。みんなに感染しちゃ悪いから多めに休んで…もう、平気です」
「そうか。暖かくしていなさい…少しでも辛かったら保健室に行くようにね?」
「ありがとうございます。でもこれ以上氷室先生の授業すっぽかしたら自己管理が出来ていない!って怒られちゃいます」
「彼も君がいない間何だか元気が無いようだったよ?早く顔を見せてあげなさい」
「はい。行ってきます」

明るく笑う彼女に少しは安堵しながらも、笑顔も奥に隠された虚ろな瞳に心が痛んだ。



その日の午後。
遠慮する彼女に食い下がって車で送ると、家の前には彼女の母愛用のバイクが停めてられていた。

「おや?こんな時間に珍しいね。せっかくだから挨拶していこうかな…お邪魔してもいいかい?」
「えぇ、連れてこい連れてこいってうるさいんです。母が喜びます」

彼女に聞くには酷すぎる話の一端でも聞き出せれば、と通されたリビングダイニングのソファに腰を落ち着けるとすぐ、彼女の母が所々破れたジーンズにTシャツという完全休日モードで現れた。

「いらっしゃーい 久しぶりね、天之橋くん」
「こんにちは。三月さんもお変わりなく」
「あら?それっていつと比較してるの?」
「勿論18年前とです」
「そう?嬉しいわ」

いつもの挨拶を交わし、彼女がお茶の用意にキッチンに立つのを見計らって、天之橋が質問しようと小さく息を飲みこんだ時、いきなり爆弾が落とされた。

「そういえば三優ー?手紙が来てたわよ。花椿くん、今カナダにいるのねぇ」

ガッシャン、という陶器の割れる音と、天之橋が咳き込んだのはほぼ同時だった。

だだだだだっ、ぱしっ!

駆け込んできて母から奪い取ったエアメイルの封を開け、食い入るように見つめる彼女。

「なによう、慌てちゃって。そのホテル、いい所よ?湖の湖畔でねぇすっごくキレイなの」
「……………………」
「朝、外でコーヒー飲んでたら白鳥が飛んできてね、そしたらボーイが白鳥用のパンを入れたバスケットをテーブルに置いてくれるの。真っ白なハダの美少年だったわ〜
「……行ってくる」
「みっ……三優?行くってまさか…」
「あら行くの?じゃあカード貸したげる。使った分はちゃんとバイトしなさいよ」

ばたばたばたっっ!

「パスポート、忘れないようにねっ」

自室に走った彼女に向けて、三月が声を張り上げた。

「三月さん!!一人でなんてっ……」
「いいのよ。振られた相手を追いかけていくのに、母親が付いていくなんてバカな話あるわけないでしょ?…もちろん、他の男が一緒に行くなんてもってのほかよ、天之橋くん?」
「しかしっ……」
「大丈夫、恋する乙女は強いのよ。むしろ脆いのは男の方……相当ヤバくなきゃ仕事放って付いていかないでしょ、手紙くれたマネージャーさんも」

だだだだだんっ!!
派手な音を立てて転がるように階段を駆け下りてきた彼女が母親に手を合わせる。

「おかぁさん、お願い!空港まで!!」
「この三月さんをアシに使うのは高くつくわよぉ?天之橋くん、悪いけど留守番お願いね

玄関で半ば呆然と見送る天之橋に。

「天之橋さん、ごめんなさい…行ってきます!」

いっそ天晴れな程、笑顔で。
小さな鞄一つを肩に掛け、母親のバイクの後ろに跨った彼女の瞳は強く強く輝いていた。

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