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最初はインスピレーションだと思った。

この娘の服を作りたい。

腐れ縁の親友が主催するクリスマスパーティで見かけた、目立たない少女。
活発そうな友達の、陰に隠れるようにして。
既製品のドレスを着て、クラスメイトらしい男の子とはにかみながら話す。

その娘の瞳が、ゆっくりと自分のいる方向へ向けられ。
一瞬、ふっと、目が合って。
感電したように、動けない。

この娘に似合う服を作りたい。

何故そんな気持ちになるのか、なんて考えなかった。
多分、それさえ自分の才能………そんなおごりがあったのかも知れない。
その時はただ、湧いたイメージだけを大事に持って、挨拶もそこそこに自宅へ飛んで帰ってアトリエに飛びこんだ。

それから二日、一歩も外へ出ず。
一睡もせず。
食事もしないで服を作った。

目立たない少女を彩る、髪の色、瞳の色、肌の色……ひときわ目を引いた薔薇色の口唇。
ルージュでは出せない、自然で健康的な明るい薔薇色。
イメージはどんどん膨らみ、アイデアも湯水の様に湧いて出てくるのに。

何着作っても、気に入らない。

素敵な服、綺麗な服、売れる服。
それだけなら合格点を遥かに超えた服達も。

あの少女に着せる。

その条件だけがどうしても満たせなくて。


「あぁ、もう!アンタ理事長でしょ!どうして分からないのヨ!」
「どうして、と言われても。私も全ての生徒の顔を覚えている訳ではないし…何か特徴があれば分かるかも知れないが。」
「だから!髪がこのくらいで、普通っぽい、目立たない感じの、パーティに来てた女の子よ!白い服着て、ちっちゃいバッグ持って…」

もどかしそうに身振り手振りをしながら、明らかにいらついた口調で話す彼に、天之橋はため息をついた。

「あの日のパーティには全生徒の半分は来ていたよ…それだけで探すのは無理だろうね。せめて学年が分かれば或いは探す手立てがあるかも知れないが……しかし、何故そんなにまでその少女を探したいのか、理由くらい教えてもいいだろう?」

切羽詰まった感じの花椿をなだめるようにそう言って、天之橋は眼鏡を外し、手を顎の前で組んで聞く体勢を取った。
柔らかい冬の日差しの中で、何度かためらうように口唇を噛んで、やがて花椿はドサリとソファに身を投げた。

「……花椿?」

向かいのソファに顔をそむけて倒れこんだまま、沈黙してしまった彼に天之橋が促す。
少しやつれた頬と顔色で、何日か徹夜しているらしい事は分かっている。
しかし今眠っていない事は、だらりとソファから落ち、無意味に絨毯のはじをいじっている指先が証明していた。

「……その娘に服を作ってるのよ。」
「…服?名前もわからないのに、何故?」
「知らないわヨ!作りたいから作ってるの!その娘にサイコーに似合う服が作りたい、けど作っても作っても…気に入らないの。完全にスランプだワ……」

ずるずると起き上がって頭を抱える彼に、天之橋が真顔で少し考え込んで。
それからふわりと微笑った。

「デザイナーの体質というものに詳しくはないが…そのスランプというのは、もしかして居ても立ってもいられないような気分にならないか?」
「なるわよ!決まってんでしょ!!あともう一歩ってトコなのに、落ち着くわけないじゃない!スランプ中に『ハァ〜ビバノンノ』な気分になるヤツがどこの健康ランドにいるってのよ!」
「…それで、息苦しくなったり泣きたくなったり?」
「あたりまえよ!あぁぁ〜〜、アタシの止めどなくあふれ出る才能の泉はもう枯れてしまったんだわ〜…」
「………で、その女性に会いたくて仕方がない、と……」
「そう!もう一度、会えば出来そうな気がするの!もう一回会って服を完成して、あの娘に着せるまで仕事なんか手に付かないわ!!ワケ分かんないことばっかり言ってないで探しなさいよ!親友でショ!?」

睡眠不足ともどかしさで感情の振り幅が大きくなっているのか、語尾が明白な怒気を含む彼に。
余裕のある姿勢と口調を崩さず、天之橋は平然と言った。

「…花椿。世間一般ではその症状を、恋の病というのでは?」
「………恋ぃ?…バ、バッカじゃないのアンタって!!あのねぇ、たった一回会っただけの、しかも目が合っただけの女の子ヨ!?話もしてないのに、なんで恋なんか出来るのヨ!?」
「…俗に言う、『一目惚れ』だね。」
「恋なんてモノは二人いなきゃ出来ないの!向こうはアタシの事なんかきっと全然知らな…い……」
「…『一目惚れ』で『片思い』だね。…自覚したか?そういう事なら私も出来る限り探してみるが…」

急にテンションの落ちた彼を、慰めるように言って。
全校生徒の資料ファイルが置いてある場所に目を遣った。

一学年6クラス、1クラス四十人として半数は男子生徒だから、ざっと計算しても四百人弱。
ファイルには顔写真も付いているし、これなら今夜から始めても、明日までには分かるだろう。

そう告げると、考え込んでいた彼が少し元気を取り戻した。

「そうねっ、そうよね〜!会って、服を作り直して、その娘にあげれば…ただの創作意欲だったって分かるわヨ!一目惚れなんて、まさか、ねぇ!…よく考えれば犯罪じゃないの。労働基準法、じゃなかった児童福祉法違反よ!ちゃんちゃらおかしいワ!」
「…恋をするのに、年齢や性別は大した意味を持たないと思うが。それに大抵の人は思いがけず恋に落ちて、最初は自分の気持ちを否定するものらしいから……」
「そうと決まれば、アタシ寝るわネ!おやすみ〜…」

天之橋の言葉が聞こえないのか、聞かないのか、花椿はソファにごろんと寝転び直した。

「おい、何もこんな所で……」
「なによう、だってアンタはまだ仕事でしょ?それに個人的な事が書いてあるファイルなんだから当然持ちだせないでショ?それなら夜になるまでここで一眠りしとくのが手っ取り早いじゃないの。ツべコべ言わないでよ!眠いんだから!!」

言うなりくるりと背中を向けてたちまち眠りに落ちていった彼に、ため息をついて。
天之橋はソファから執務机へ戻って、書類の束に目を通し出した。

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