その後、ファーストフードで軽く食事をしたり、路上フリーマーケットを見て廻ったり、大道芸を見たり。
スターバックスで彼女のお薦めを飲んで、他愛ない話。
通りかかったゲームセンターで、彼女が袖を引くのに応じて中に入る。
「天之橋さん、プリクラ撮りませんか!?」
「あぁ、いいよ」
「やった …じゃあ、あそこのカメラ、見てくださいね?三回撮られますから」
「三回?」
「ハイ、色んなポーズで撮る為なんですよー」
話している間にも画面に数字がカウントされ、ゼロになるとフラッシュが光った。
「なるほど……」
納得した様にそう言って、天之橋が彼女を抱き上げた。
「きゃ!あ、天之橋さんっ!?」
ぱしゃ。
「あのっ…!?」
「色んなポーズをする為に三回あるんだろう?」
「それはそうですけどっ…」
前に彼女が楽しそうに、それを見せながら友達を紹介してくれた事がある。
その写っている中に、男が写っていたものもあった。
勿論、二人ではなかったけれど。
自分の知らない所で、おかしな事を言われないように、出来る事はしておいた方がいいだろう。
横抱きに抱いたまま、その染まった頬にキスを落とす。
レンズを睨みながら。
ぱしゃ。
そのまま外に出ると、並んでいたカップルがビックリした様に道を開けた。
「あ…あの、天之橋さん…取り出し口に届かないから…」
「あぁ、そうだね」
彼女を降ろし、しばらく待つとコトンと小さな音を立てて、それが出来上がってきた。
備え付けられたはさみを慎重に入れる。多分、出来るだけ真っ直ぐ切ろうとしているのだろう、真剣な顔。
「はい、どうぞ!」
「ありがと…う…」
切った半分を渡された天之橋は、一瞬、絶句した。
そこに写っていたのは、少女を抱き上げ、挑む様な目付きで睨み付ける自分。
確かにそうしたけれど、こんなあからさまな顔をしただろうか?
彼女の事になると、自分は全く気持ちを偽れないらしい。
彼女は自分の物、誰にも渡さない、と表情が物語っている。
「どうかしました?」
「い…いや…」
「すっっごく、カッコイイですよねー」
「そ、そうかね?」
「ええ!でも、スーツの天之橋さんとも撮りたいです〜!」
大事そうに胸に抱いてから手帳に挟んで鞄にしまう彼女を見ながら、ふと湧いた疑問を口に出してみる。
「前に持っていたあの手帳に貼らないのかい?」
「…貼りません。だって、貼ったら色あせちゃうんです…隣のページにこすれちゃって」
「…そうなのかい?」
「はい。だから帰ってファイルしておくんです。他の写真も……あ…」
失言だったのだろう、しまった、という表情で俯く彼女。
なるほど、今までのデートで何度か取った写真達も、彼女の手によって大切にファイルされているらしい。
それを見る男に威嚇した意味は無くなってしまったが、それでも他の人と撮ったものとは違う、と暗に示されて彼は安堵の微笑みを浮かべた。
「では、私も取っておこう…そうだ、一枚だけ貼ってもいいかい?」
革の手帳を取り出すと、彼女が驚いた様に顔を上げた。
「それ、いつも持ってるお仕事の手帳じゃないですか!」
「そうだよ?ここに君が居てくれると、難しい仕事もきっと上手くいく気がするからね」
「そ、そ、そうなればいいですけど…わたしおっちょこちょいだから…」
「ハハハ、大丈夫だよ。でも、もしかすると仕事の度に会いたくなって連絡するかも知れない…いいかな?」
そう言って瞳を覗くと、真っ赤になった彼女が小さな声で、いつでも電話してください、と呟いた。
次のデートは海を見に行く、と沖縄まで一泊二日。
華で飾られたスウィートルームにシェフが運んでくるフレンチディナー。
空港から家に帰り着くと、自分宛の荷物が届いていて。
開けると、プラチナで縁取られた厚いアルバム。
一ページ目には昨日一緒に撮った写真が貼ってあり、カードが添えられていた。
この間はありがとう。これが一杯になる位、共に過ごせる事を願っている。
P,S これは第一巻だからね?
中身を見て、跳ねるように携帯に飛びつくと、即座に押し慣れた番号を押した。
御礼は言ってもいいはずだから。すごく嬉しいという事も。
自分も、ずっと一緒にいたいと思っている事も上手く伝えて。
……それで、どこに行っても好きな人と一緒ならきっと楽しい、とサラリと言ってやるんだ。
そう思いながら、くすくす笑って呼出音を聞いていた。
FIN. |