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 TRANSFORM 1 

いつもの待ち合わせ場所。
いつもの待ち合わせ時間。
いつもの様に早く来て、恋人を待っている彼。
でも今日の彼はいつもの様に頭の中でデートコースをおさらいする事もなく、少し落ち着かなかった。


先週の休み、美術館からの帰りの車の中。
いつものように今度の休みは何処へ行こうか、という話になった時、彼女は少しはにかみながら戸惑って。
何処か行きたい場所があるのだと悟って、微笑ましく言い出すのを待っていた。

「……え、と…来週はわたしに任せてもらえますか?」
「それは…行ってからのお楽しみ、という事かな?」
「そ、そんなすごいプランが立てられるワケじゃないんですけど……あ、あっ!今日のお出掛けが楽しくなかったとか、そういう事じゃないんですよ!?」
「ハハハ、分かっているよ。私が君と居られてこの上なく楽しかったのだから…君も楽しかったはずだよ?」

笑いながら片目を瞑ると、彼女はいつもの様に顔を赤らめた。

「もう!天之橋さん、わざとそういう事言って面白がってるでしょ!?」
「ハハ、すまない…君がいつもとても可愛いものだから、つい」
「もう、また!」
「本当にそう思うから言わずにおれなくてね」
「本心だったって、面と向かって言われたら、恥ずかしいじゃないですか!わたしが、優しくてかっこいい大好きな天之橋さんがデートに誘ってくれたからすごく楽しかったって言ったらどうなんですか?本心です。」
「…………光栄だね」
「嘘だ。赤くなってる。」
「分かった、分かったよ、悪かった。これからはなるべく自制するよ…それで、来週は任せてしまっていいんだね?」
「あ、ええと…もしかしたら楽しくないかも知れないんですけど…そしたら言ってくださいね?」
「分かっているよ、そんな事は無いと思うけれどね」
「じゃあ、一週間の間に、一生懸命作戦を練りますから!それと、車は置いてきて下さいね?」
「うん?」
「それも作戦の内なんです」

少女が少し誇らしげに胸を反らす。
その所作がたまらなく可愛くて。
取りあえず脇に車を止めて、キスをひとつ落とした。

「…な、なんですかっ?」
「これは不可抗力だ…君が可愛いのがいけないんだよ?」

耳元で囁くと、音がするほどの勢いで真っ赤になって、ドンと肩を叩かれた。

「もーう!天之橋さんっっ!!」
「おっと…もうこんな時間だ。早く家に送り届けないと明日の講義に響くね…」
「話を逸らさないで下さい!」
「逸らしておいた方がいいと思うよ?この問題を突き詰めていくと、とても明日までに終わるものじゃないからね」
「……う……」

どうも府に落ちないという様に、膨らませた彼女の頬にもうひとつキスをして、家に送り届けたのだった。

 

◇     ◇     ◇

 

「天之橋さん、こんにちは!」

いつもの様に五分前に、彼女が自分の前に駆けてきた。

「やあ、お姫様、今日はお誘いありがとう」
「え、えと…どういたしまして…じゃあ、あの…行きましょうか?」

駅に向かい、電車に乗って、繁華街に着く。
電車に乗ったのも久しぶりだったが、車を置いて来いというのはこういう事か。
日曜日は歩行者天国になってるんです、という説明を聞きながら駅周辺の人混みを抜けて。
少しだけ先を行く彼女に付いていくと、若者向けの店の前で立ち止まった。

「このお店、服だけじゃなくて、色々あって面白いんです。花椿せんせいのお墨付きなんですよー?」
「そうかね…しかし、この服で入ってもいいものだろうか?」
「えへへ…大丈夫です、任せてください!」

自分はいいが、連れの彼女が恥ずかしい思いをするのでは、と腰が引ける天之橋に、彼女がにっこり笑って店内に進んだ。
大きめの音でロックがかけられている店内では、何組かのカップルが楽しそうに服を選んでいる。
服はサイズ別に分かれており、それぞれのコーナーに試着室がずらりと並ぶ。
彼女が真っ直ぐ向かった先には、段ボールに色彩豊かに描かれた『180〜185』の文字。
掛けられた服を真剣に手早く選り分けていく彼女。

「えー…と…、あ!これイイ!絶対似合いますー!やっぱり黒かなぁ?グレーもいいけど…」
「その…三優?」
「……それと…ジーンズ……Levi's、好きですか?」
「…あ、あぁ…」
「良かった。ずっと思ってたんです、絶対似合うって!じゃあ、これ、着てみて下さいねっ
「やっぱり…私の服、なのかね?」
「そうですよ、ココ、女の子が男の子に服を選ぶ店なんです …ほら、あそこに書いてあるでしょ?」

示されたレジの上に掲げられたボードには、大きな文字で『入店条件…男女ペア(性別ではなく役割)である事!男の子は女の子の選ぶモノに文句をつけない事!女の子は最大の努力を払って男の子を変身させる事!ケンカになったら以後入店禁止!!』とあった。

「…なるほど」
「あの、こういう所…天之橋さんキライですか…?」

選んだ服を抱えて彼女が少し心配そうに自分を見上げる。
若者の街を歩くのに、自分の服装が合わなくて申し訳ないと思わせないようにという彼女の『作戦』なのだろう。
ラフな私服で来いと言われればそうしたけれど、やはり自分のセンスに自信が持てなくて不安になったかも知れない。
彼女が選んだ服なら、確かに一番気兼ねしないだろう…果たして自分に似合うかどうかという不安はあるが。

「面白いと思うよ。…君好みに変身出来るといいのだけれど」

そう言って彼女が抱えた服を取ると、パッと顔を輝かせて嬉しそうに笑う。
彼女のこの顔を見る為なら、自分はもしかしたら花椿の半ズボンでも履くかも知れない、と苦笑して試着室に入った。
彼女が選んだ服は若者向けとはいえ奇抜な物ではなく、少しだけフィット感のある黒の麻のセーターにジーンズ。セーターには小さく開いたV字のネックの両側に、銀のクロスの付いた細いチェーンが目立たない様に付いていて。
ジーンズは使い古された様な洗い加工がされて微妙な色合いを作っていた。
昔好んで着ていた服と大差ないけれど、今の自分に似合うだろうか?
鏡を見ながら少し考え、眼鏡を外し髪を下ろして、着てみる。
サイズはどうか、と外から聞く彼女の声に、少し勇気を出してカーテンを開けた。
今日は彼女に任せたのだから、似合わなければ他の物を着ればいい、と自分に言い聞かせながら。

「…………………あ…」

沈黙の後、固まる彼女。
やはりだめか、と落胆しかけた途端、彼女が目を見開いたままいきなり耳まで赤くなった。

「……あ…あ……天之橋さんっ……カッコイイ、ですっ…」
「…本当に?おかしくないかい?」

ぶんぶん首を振って、籐編みのバッグの取っ手を無意味にいじっている。

「何とか、合格…かな?」
「な、何とかなんてもんじゃないですっ…あの、二階に靴とかアクセサリーとかもあるんですけど…行ってもいいですか…?」
「今日は君に任せたからね、したい様にしていいんだよ。それにケンカしたら入店禁止なんだろう?」

手をつなぐと彼女が少し恥ずかしそうに、とても幸せそうに笑った。
結局、二階で細い革のブレスレットを付けられ、底の厚いスニーカーを履いて一階に戻った。

「天之橋さん、わたしにありがとうって、言ってください」
「……ありがとう?」
「どういたしまして あ、スイマセーン…これ着ていくのでタグ取ってくださーい」

はさみで切り取ったタグを持った女性店員と何か笑顔で話しながらレジに向かう彼女を、天之橋が少し慌てて追いかけたが既に遅く、彼女は自分の財布からカードを取り出し、渡した後だった。

「いけないよ、三優っ…」
「天之橋さん

彼女が笑顔で上を指差す。

『ケンカしたら入店禁止!!』

くすくすと笑う店員に着ていたスーツの入った紙袋を渡され、天之橋は肩を落とし溜息を吐いて諦めた様に言った。

「…分かった……今度私がどんな贈り物をしても、笑顔で受け取って貰うからね?」

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