MANA's ROOM〜トップへ戻る
Total    Today    Yesterday   拍手メールサイトマップ
更新記録リンク掲示板日記
ときメモGS別館 アンジェ・遙時別館 ジブリ別館 ごちゃまぜ別館
 
 

  MN'sRM > GS別館 > GS1創作 > 妹創作 >

 冬の贈り物 3 

理事長室に向かう為、一階に降りて溜め息をつく。

いつも一緒に帰る親友は今頃、人気がありすぎな彼とチョコレートの数を競いながらデートの最中だろう。
それを告げられた今朝はこんなことになるなんて思いもせず、身から出た錆とはいえ一人で帰るのは正直つらい。
せめて…そうだ、せめて彼が自分のために作ってくれた雪ウサギを持って、一緒に帰ろう。
悲しいことばかりだった今日、それが唯一、一番嬉しい出来事だったから。

急いで下駄箱に行き、靴を履き替えて中庭に出る。
さくさくと芝生に積もった雪を踏んで、あの木の下に行ってみると。
……ない少女は息を飲んで呆然と立ち尽くした。
彼と一緒に並べたはずの自分の雪だるま。
一生懸命、何度も何度も作り直したチョコレートと共に、壊された様子もないのに跡形も無く失くなっていた。

「……う…ぇっ………」

感情が一気に押し寄せて、立ち尽くしたまま制服の裾を握りしめて雪に涙を落とす。
自分が台無しにしてしまった昨日の自分が贈り物に込めた想い…彼への恋心。
絶望感に後から後から涙は溢れる、けれどせめてもの救いは彼が作ってくれた雪ウサギは無事だったこと。
雪に膝を付いて、そっと、周りの雪ごとそっと持ち上げた時だった。

「あっっ!!」

柔らかい粉雪で出来たそれは、少しの振動でいとも簡単に崩れ。
目を見開いた少女が、立ち直れない程のショックを受ける前に瞳に映ったのはピンクの薔薇。
雪の中に座り込み、冷たい雪ウサギを膝に置いてそれを取り出してみる。
薔薇はリボンで一枚のカードに結びつけられていた。

『雪の妖精に願う。どうか私の代わりに、お姫様の日曜の予定を全てさらって来てはくれないか? 
 取りあえず今週の日曜は、食事にエスコートできると光栄だが。  A 

内容の理解が出来なくて、彼の文字を一つずつ何度も何度も読み返し。
少女は弾かれたように立ち上がると、全速力で駆け出した。


上履きに履き替えるのももどかしく彼の部屋の前まで来ると、薔薇を胸に抱き目を閉じて祈りながらノックする。

…やっぱり、嘘はつきたくない。神様ごめんなさい、どうか許してくれますように…

しばらくの沈黙の後、いつものように笑顔と共に扉がいっぱいに開かれた。

「やぁ、来たねお姫様。」
「あ……あ、のっ……ごめんなさい!わたし、わたし今日天之橋さんに、贈り物を…で、もっ…失くしちゃって…ごめん…なさ…っ……」

俯いて、最後は泣き声になってしまった少女の頭に、おおきな手をふわりと置いて。
彼は微笑んで穏やかに言った。

「三優…あぁ、泣かないで。それなら……ほら、もうすぐ食べられるよ?」
「……え……えっ……?」

まだ瞳にいっぱい涙を溜めたまま不思議そうに彼を見上げて視線をたどると、彼の執務机の上には。
半分溶け掛かり、リボンと箱の一部が見えている彼女の雪だるまがトレイに乗せられていた。

「なっっ……な、なっ……???」
「溶けてしまうことは分かっていたんだが、君に似た雪だるまを寒い所に放っておくのはどうしても忍びなくてね。…そうしたらちゃんと届けてくれたよ…おや、私が妖精に頼んだカードも君に届いたようだ。」

彼女が大事に胸に抱く薔薇を目を細めて眺め、頬の雫に口づけてから。

「それではお姫様、お手をどうぞ。」

彼は流れるように礼をして手を取り、まだ何か言いたげな少女をソファに座らせた。
執務机からトレイごと雪だるまをテーブルに移し、向かいに座って促すように微笑む。

「あのっ…それ、濡れちゃってるし…あんまり上手に出来てないんです……だから、明日もう一度差し上げますから…」
「どうして?私の為に君が作ってくれたのなら、それが一番嬉しいよ?」
「でもっ…でもまどかくんのが……あっ…」

口を滑らせた風の少女を見つめて、彼が微笑んだまま沈黙する。
やがて諦めたように少女がぽつりぽつりと話し出した。

友達の貰ったチョコレートが自分よりすごく上手だったこと。
もう渡せないと思って、捨てるつもりで雪だるまに埋めたこと。
明日、お店で買って渡そうと思っていたこと。

涙声を優しく頷きながら聞き終えて、彼は嬉しそうに笑った。

「それは…良かったとしか言いようがないね。」
「よ…かった…?」

びっくりして聞き返す少女に、有無を言わせぬ嬉しそうな表情を浮かべて。
彼が少女の膝の手を引き寄せた。

「君が私の為にそこまで心を砕いてくれるなんて…とても嬉しいよ。しかし私は、贈り物はその物の質や価値ではなく、どれだけ相手のことを想って贈ったかだと思うんだ。だから他のものと比べる事も君が泣く必要もない。…これが私の元に届いて本当に良かった。」
「あま…っ…はしさ……」

しゃくりあげる少女の隣に座って、髪にキスをして。
彼はもうほとんど溶けてしまった雪だるまに目を移して心から安堵した。

他の男の口に入らなくて、本当に良かった………。

大人げなくそう思いながら、彼は少女が喜びそうな日曜の予定を組立て始めた。

FIN.

前へ     あとがき