「みゆう!?」
彼の姿を見た途端。
みゆうは、他の何も目に入らない様子で、教室を飛び出していった。
改めて、窓から校門を見る。
やっぱり。あの茶店のマスターだ。
ちょっと前に、みゆうに連れられて会って。
こっちがうんざりするくらいに、みゆうを大事にしてたヒト。
上手く冗談に紛らせてはいたけれど、みゆうからけして目を離さなかったヒト。
それは、みゆうも同様で。
ふたりは、アタシですら妬けるくらいに二人だけの世界を作っていた。
(それでも、アタシのケータイ聞いてきたってのはたぶん、彼の性格だろう)
彼と恋人同士でないと知って、かなり驚いたアタシだけれど。
鈍い親友のことだから、自分の気持ちに気づいてないだけだと思った。
その彼が。バラの花束なんか持って、卒業式に現れるということは、どう考えてもハッピーエンドで。
アタシは、少し嬉しくなった。
そんなことを考えている内に、一階の昇降口から、みゆうがすごい勢いで走り出てきた。
と、同時に、クラスメイトたちが次々に窓のそばに集まり、我先にとその光景を見つめる。
「なんだ!?なん……」
生徒たちの反応に、パニックを起こしかけていたヒムロッチが、窓の外を見て絶句した。
やっぱり……品行方正なセンセに、あの光景は毒だなぁ……。
だって。
みゆうに向かって、彼は花束を差し出しながら何か告げていて。
遠目にも、誰が見ても、それは告白としか思えないから。
でも。
集まったクラスメイトの中で、ギリ、と甲高く歯ぎしりした男子がいることも、アタシは気づいた。しかも複数。
みゆうは、人気あったから。
卒業式のあと、コクろうと思ってたヤツも、きっといたんだろう。
ヤバイ、血を見るかも……とヒヤッとしたアタシに、お構いなしに。
みゆうが、彼に抱きついていって。
彼が。
みゆうの身体を、大事そうに抱き上げた。
「………!」
おおおおお、という感嘆と、冷やかしのうねり。
その中に確かに、激烈な怒りの波動を感じる。
それが行動となって表れる前に、アタシは慌てて窓の外に向かってがなり立てた。
ちょっとハズいけど、修羅場よりはマシだ。
「こらー!あんまり見せつけるんじゃないよ!
みゆうを倖せにしなかったら、承知しないからねー!!」
その言葉に、ハッと行動を飲み込む男子、数名。
教壇の方からも、そんな雰囲気が流れてきた気もするけど…??
これは気のせいだろう。
アタシは彼の合図を確認しながら、小さく息をついた。
「ホント。倖せにならなかったら許さないよ?」
アンタはアタシの、一番の親友なんだから。ね。
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