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 上を向いて歩いてゆこう! 3 



「…………」

ぜいぜいと荒い息をつきながら、少女は彼から数歩のところで立ち止まる。
彼は何も言わず、穏やかに微笑んでいて。
その様子からは、確かなことは何も読み取れない。

だけど。
もう一度会えただけでも、嬉しい。

「…………あの」
息を整えて、少女は口を開いた。
話しかけてから、何を言ったらいいのか悩んでしまう。
「し、私服。初めて見ました!」
逡巡したあげく、出たのはそんな言葉だった。
彼は初めて表情を動かし、苦笑して言った。
「ああ。いつも店でしか会ったことないから……カッコいいでしょ?」
「はいっっ!!」
思わず気負って答えてしまい、その意味に気づいて慌てる。
義人は苦笑したまま、少女の後ろに目をやった。
「……それより、いいの?なんか目立ってるけど」
「え?」
振り向くと、彼女のクラスも含めて、校門側の教室すべてから無数の視線が自分たちに集まっている。
「あ……」
その時初めて、少女は自分たちの状態に気づいた。
「や、やだ……恥ずかしい」
「ね。みゆうちゃんのクラスも、あの中にあるの?」
「は……は、い」
赤面する少女をよそに、義人は学校に目をやると、一瞬だけ目を閉じて息をついた。
まるで、心を決めるかのように。

「じゃ、行こうか」
当たり前のようにそう言われて戸惑い、少女は初めて彼に尋ねた。
「……あの?行くって、どこへ?
 それに、今日は……あの……どうして、ここへ?」
その問いに、彼はもう一度苦笑した。
「どうしてって……迎えに来たんだよ」
「え……?」
あっけにとられ、意味が理解できない少女。
「……君をね?」
その様子に、念を押すように義人は言い、彼女のすぐ目の前まで歩み寄った。

「気持ちの整理がついたから。君は本日をもって、俺の彼女になる。……OK?」
ばさり、と。
持っていた大きすぎる花束を、差し出す。
「ちなみに、返品はきかないよ。君が嫌だって言っても貰ってもらうから」
その赤いバラの花束を、受け取ることなく。
少女は身体ごと、彼の胸に飛び込んだ。

「マスターさん……!」

この期に及んで、そんな呼び名で自分を呼ぶ彼女に。
義人は笑って、その顔を上向かせた。
「できたら今は、名前で呼んでほしいな。せっかく格好つけてるんだから」
ぐすぐすと涙声になりかけている少女が、一生懸命にうなずく。
「は、はい。はい。……義人さ……」
ぐい、と引かれて、声がとぎれる。

そのまま。
校門のど真ん中で。
学校中が、見ている前で。

「…………!!」

少女は、彼に抱き上げられていた。

「どう?お姫様気分?」
尋ねる彼の呟きに、クラスからのどよめきが重なる。
これ以上ないくらい顔を赤く染める少女の耳に、義人は甘くささやいた。
「このまま時間を止めてしまおうか?」
そう言って、寄せかけた唇が。
張り上げられた声に、止まる。

「こらー!あんまり見せつけるんじゃないよ!
 みゆうを倖せにしなかったら、承知しないからねー!!」

彼女の親友の命令に。
義人は極上の笑顔で、小さく手を振って見せた。

FIN.

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