ふっと気を失って、気が付くと。
見たことのない部屋の中だった。
「アレ……?」
ぼんやりした頭で、状況を把握する。
広くはない、あまり使われていそうにない部屋。天井に近いところにある天窓から見える空は、すでに藍色から漆黒に変わろうとしていた。
「私……そうだ。お酒を飲んで……」
いつものように、マスターさんのお店に来て。
カクテルの話になって。
最後に出されたカクテルに、お酒が入っていた。
それは、甘い口当たりのココナッツミルクと、爽やかなパイナップル味に隠れて、味の主張はほとんどしなかったけれど。
飲んだ瞬間、体に血が巡るような感覚があったから、すぐわかった。
「ほんとに寝ちゃうつもりじゃなかったんだけどなぁ……」
そう。
私は、知っていて彼にお代わりを要求した。
知っていて、タンブラーに三杯もそれを飲んだ。
なぜって。
オトナの彼が、コドモの私に手を出してくれるとしたら。
お酒でも飲んで、勢いをつけないとムリだと思ったから。
いつでも、『みゆうちゃん』としか呼んでくれないあのひと。
いつも、『マスターさん』としか呼べないわたし。
ほんとは、水結って呼び捨てにしてほしい。
ほんとうは、義人さんって、名前で呼びたい。
でも。
私はコドモで、あのひとはオトナだから。
私がオトナにならないと、あのひとには近づけない。
「ここ…お店の中、なのかな?そうしたら義人さん、あとで来てくれる……はずよね?」
そんな独り言を言いながら。
私は、服を脱ぎだした。
こんなことして、余計コドモだって思われちゃうかもしれないけど。
色仕掛けなんて、私なんかにできることじゃないと思うけど。
コドモでも本気だって事を、あのひとに伝えたい。
その上で、まだエッチなんかできないよって言われるなら、それでもいい。
私は。
がんばって、大人になるから。
「……ふぁ」
まだお酒が残っているのかもしれない。急に、眠気が襲ってきた。
スカートを脱いで、キャミソール一枚になったところで、思わず体が倒れた。
だんだん、意識が薄れていくのが分かる。
義人さんが来てくれるまで、起きていようと思ったのに。
やっぱり、私って子供みたい。
コドモの私も、嫌いじゃないけれど。
ムリして背伸びは、したくないけれど。
早く大人になりたいの。
あのひとと、つりあうためじゃなくて。
あのひとに、愛してもらうために。
あなたのために、大人になりたい。
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