それは。
どれだけ、悪くとっても。
どんなに、ひねくれて見ても。
俺への、ラブレターにしか見えなかった。
「馬鹿は。おまえだろう?」
最後のページで目がとまったままの俺に。
零一が、少しだけからかうような声音で言った。
「自分が好かれていることにも気づかず、無理に私と小沢を相愛にしようと下手な芝居を打つ。
これほど滑稽なことはないぞ?義人」
呆然として、俺はなにも言い返すことができなかった。
だけど。
おそらく彼女に向けて言っているのだろうその言葉や、教師モードのままの人称代名詞によって。
零一が無理をしているのが、俺だけには分かった。
彼女が、これ以上傷つかないように。
苦しみを乗り越えて歩き出している彼女の足を、引き戻さないように。
すべては、彼女のために。
彼女が好きで、だからこそそうしているのだろう……、と。
分かったところで。
俺には、どうすることもできなかったけれど。
「小沢。君が選んだのがこいつだということは、あまり良い選択とは言えない。
何しろ、実直な人間だとは言い難いからな。……しかし」
泣いている彼女の傍に、歩み寄る零一。
「少なくとも、弱みにつけ込んで女性をどうこうするような人間では、決してない。
ああ言えば、私が君を大事にするだろうと……そう考えたのだろう。
頭の悪い考えだが、君を思ってのことだ。それだけは分かってやってくれ」
ここからは見えないが、零一の瞳はおそらく、優しい光をたたえているのだろう。
まだ涙を残す彼女が、ゆっくりと……微笑みを浮かべたから。
「はい。わかってます、先生」
「よろしい。……それと」
「?」
「気のない人間のために面倒なことをするほど、勤勉な人間でもない。
面倒なことを君のために行ったというのであれば、君の考えは自惚れではない可能性が高い。
……少なくとも、私は。こいつが女性のためにそんな気遣いをするところを、見たことがないからな」
「あ……」
かぁっと、頬を染める彼女を。
かわいいと思っている、自分に。
愛しいと思ってしまっている、自分に。
そして、それが今初めての思いではない、自分に。
はじめて、気づいた。
◇ ◇ ◇
「さて。では私は、帰らせてもらう。もう用事は終わっただろう?」
零一はそういうと、踵を返して俺の横をすり抜けた。
「れ、零一!」
ようやくよろよろと立ち上がり、俺はあいつを呼び止めた。
何を言うべきなのか。何を言いたいのか、わからなかったけれど。
どうしようもなくて、名前を呼ぶことしかできなかったけれど。
「…………」
入り口まで行ってから、零一は半分振り返り。
逆光でわからない表情を、俺にいや、彼女に向けた。
「………、義人。」
「あ、ああ?」
「今日は、彼女を送って行け。いや今日だけじゃない。
たとえ店を放ってでも、這ってでも。必ず、彼女を送っていくと誓え」
これからも、ずっと
「………ああ」
俺が短く答えると、零一はフッと微笑ってドアを押した。
カラカラン、とベルが鳴る。
出て行き様、零一の手によってプレートが裏返されたことに。
俺と彼女が気づいたのは、ずいぶん経ってからだった。
FIN. |