「失礼します」
一応そう、挨拶をして。
アタシは重い扉をばたんと閉めた。
全く。話って言うからてっきり、みゆうが好きとか告白してくれるのかと思ったら。
理事長の話は、ホント、アタシから見れば「ハイハイごちそーさま」って感じで。
みゆうを大切にしてるのは分かるんだけど、どこか、やっぱり抜けてると思う。
そういう所、ハッキリと抜けてるみゆうとお似合いかも……。
アタシは思わず、顔をゆるませた。
「なつみん」
「ぅわっ!」
突然、後ろから声がして。
アタシはびっくりして身をすくませる。
「み……みゆう?」
そこには、今の今まで話題だったみゆうがいて。
どうやら、理事長室から出てきた所を見られてしまったらしい。
「な・に・よ〜。なんで、なつみんだけ天之橋さんとこ行ってんの?」
少しふてくされた様子で、みゆうはアタシを問いつめる。
「べ、べつに。なんでもないよ」
まずい。
みゆうの生理中に、理事長と密室(なんかやだけど)で話をしてたとしたら。
隠し事、つまり体調不良の原因が生理だとバラしちゃってることが、バレてしまうかもしれない。
そんなふうに思って口ごもったアタシに、みゆうはむーっと頬を膨らませた。
「まさか……なつみん」
「え、え?」
「天之橋さんのこと、好きになってないでしょおね?」
「………は??」
予想していたのとは全く別の言葉が返ってきて。
アタシは呆気にとられ、そのあと、ため息をつく。
まったく……このコは……
「ないない。あるわけないっしょ」
「ほんとお〜?」
「第一、アタシ、他の女ばっか気にしてる男なんかに興味ないの」
その前に、アタシの守備範囲からは完全に外れてるよ。ってことは心の中で呟いておく。
「他の……?」
不思議そうに見上げる目は、本当に分かっていない目。
みゆうと理事長が、お互いに好きあっていることを本当に知っているのはたぶん、アタシだけだと思う。
みゆうはもちろん、アタシの親友で。彼への想いもよく聞かされる。
そして、アタシがみゆうに一番近い存在であることを知っている理事長は。
ちょっとした機会によく、みゆうの気持ちが知りたいと顔に書いてあるような態度で、アタシになんやかや質問する。
普段、余裕の態度を崩さない理事長が、その時だけは周りの男子よりも不安そうな瞳をするから。
アタシはどうしても、彼の気持ちに気づいてしまう。
アタシとしては、可愛いみゆうにはもーちょっと普通のレンアイをして欲しかったんだけど。
悪い人ではないし、みゆうがいいならまぁ良いかと思う。
でも。
問題は、二人とも相手に好かれていることを確信できてないこと。
みゆうは、自分だけがあんなにべたべたに甘やかされて、毎週デートして、家にも呼ばれて、どう考えてもトクベツ扱いなのに。
それは、彼と一緒にいたいと思ってしまう自分に、気を遣ってくれているだけだという。
理事長も、ヒムロッチや葉月や……数えられないくらいの男の誘いを断りまくって、みゆうがなんで一緒にいるのか、その意味を考えようとはしないみたい。
どう考えても、奴らの方が条件いいと思うのに。
それでもみゆうが目移りしないのは、尊敬とか憧れとかそんな軽いもんじゃないっしょ?
二人とも、冷静に考えたら、すぐ分かりそうなもんなのに。
全然気づけないところが、抜けてる……と思う。
「理事長。アンタのことしか話してなかったよ?」
「!」
そう言うと、みゆうは驚いたように目を見開いた。
「アンタに優しくしたいんだってさ。なんかおねだりしてみたら?じゃっね〜」
それだけ言って、顔を赤くするみゆうを置いて廊下を歩いていく。
もし、こんな状態のまま、どちらからも告白できずに卒業しちゃったら。
アタシがどうにかして、まとめてやらなきゃなーって、思ってる。
ホント。
ニブイ親友を持つと、いろいろ苦労があるんだよ?
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