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  MN'sRM > GS別館 > GS1創作 > 天之橋・約束シリーズ1 >

 Girl Made of? 2 

コン、コン。

物思いにふけっていた彼の耳に、ノックの音が聞こえる。
「どうぞ」
奈津実が戻ってきたかと思えるようなタイミングで、しかし、入ってきたのは話していた少女だった。
「天之橋さん?」
ふわりと呼びかけながら入ってくる彼女は、可愛いのだけれどもいつもと雰囲気が違っていて。
でも、そんな表情も同じく彼を魅了する。
「水結」
名前を呼んだだけで、ますます嬉しそうに微笑み、少女はぱたんとドアを閉めた。
「お邪魔します。なつみんと何か話してたんですか?」
「……!」
ストレートに聞かれた質問に、反応しないよう努力する。
「い、や……何、そう、君に何かプレゼントをしようかと思ってね。藤井くんに意見を聞いていたのだよ」
どう考えても、自分と奈津実の話の接点は彼女しかなくて。
咄嗟に、そんな下手な言い訳しか出てこない。
「え、ホントですか?」
しかし、少女は言い繕いに気づいた様子もなく、失礼しますと断って彼の隣に腰掛けた。

「天之橋さんが、私にプレゼントをくれるなんて。嬉しいな〜」
まるで初めて贈り物をされるかのように、はしゃぐ少女。
複雑でないこともなかったが、それには触れず、天之橋はさりげなく少女のスカーフを整えながら微笑んだ。
「では、お嬢さんにはなにかご希望がおありかな?」
少女はとたんにうーんと考え込む。
しばらく逡巡した後、彼女はあっと声を上げて彼を見た。
「そうだ!プレゼントじゃなくって、お願いでも良いですか〜?」
「ああ、なんでも構わないよ。言ってごらん」
「エヘ。私、天之橋さんの………に、触ってみたいですぅ」
少しとろんとした瞳で見上げられて、天之橋は思わず目を見開いた。
何を言われても平然としているつもりだったが、それは……一体??
「だめ?」
「いや……駄目では、ないが。いったい何の意味が……?」
「えぇっ、意味なんてないですよぅ。触ってみたいだけですぅ!一生のお願いですから〜」
「………?」
先ほどからどうも、彼女の語尾がおかしい。
例えて言うなら……少し酔っているような、寝ぼけているような?
彼はふと、奈津実の台詞を思い出した。

『処方された薬も効かなくって、倍々飲みしてるって言ってたから』

「……水結。もしかして今、何か薬を飲んでいるかい?」
「ふぇ?」
気の抜けたような声を出して、少女はこくんと頷く。
「はい。ちょっと体調悪かったんで〜、鎮痛剤を」
「どのくらい?」
「えと……お昼に規定の2錠のんで全然効かなかったんで、もう2錠のんでぇ、1時間後にまた2錠で、さっきまた……」
「…………」
天之橋はあきれ顔で少女を見た。
規定量の4倍?数時間で?
たくさん飲めば効くというわけでもないだろうに、とため息が出てしまう。
「大丈……あ、いや。それで、頭が痛かったり、吐き気がしたりはしないんだね?」
そう、確認すると。
「?はい、もちろん。なんかちょっと眠いですけど〜」
少女は不思議そうに答えた。
中毒になっているわけではなさそうだ、と安堵する天之橋に対して、少女は話を戻す。
「そんなことより、お願いですよ〜!だめなんですかぁ?」
「いや……その」
「……なんでもいいっていったのに……うそつき」
恨みがましい目で見られ、それでも抗弁を試みる。
「いや、構わないことは構わないのだが……その……改めて聞かれると」
そう言うと、少女はぱちんと手を合わせ、前触れなく彼の方へ手を伸ばした。
「じゃあ、改めてじゃなかったらいんですね♪」
すっ、と。
自分の口元を、細い指がなぞる感触。
思わず、天之橋は息を詰めた。

至近距離で。
半分、彼にもたれかかるようにしながら。
興味津々の瞳をして指を動かし、髭の感触を確認する少女。
まじまじと見つめられると、どうしていいのかわからなくなって、天之橋は視線を泳がせた。

「………ふわ〜」
しばらくそうした後、少女は感嘆の声を上げて指を離した。
結局、彼には少女の意図はつかめなかった。否、意図など無いのかもしれない。
『生理中の女の子なんてそんなもん。つか、女の子自体そーいうものだから』
そんな奈津実の声が、聞こえる気がした。

“女の子はなんでできてるの?”……か。
古い詩歌を思い出しながら、天之橋は頬を弛ませた。
おさとうにスパイス。そしてたくさんのすてきなもの。
まさに彼女にぴったりだ。

「満足したかね?」
そう訊くと、少女はもう一度彼を見上げて、首をかしげた。
「う〜ん。もうちょっと、かな?」
「……え?」
「じゃあ、今度は後ろ、向いてください
またなにか、突拍子もないことをされるのではと一瞬尻込みする彼に。
「一生のお願いですから〜」
少女はまた、同じ台詞を言う。
「……一生が何回あるのかな。君には」
笑いながら、天之橋は彼女に背中を向けた。
奈津実の忠告を思い出すまでもなく。少女が望むのであればどんなことでも叶えてやりたい、そう思う気持ちは本当だったから。

しばらく、沈黙が続く。
不思議に思い、彼が振り向こうとしたとき。
背中に、ぱふんと暖かいものが触れた。
「………!」
「ふにゃ〜ん……」
まるで仔猫のような鳴き声をあげて、少女は彼の背中に抱きついている。
硬直した、彼の耳に。
「すごく、落ち着きますぅ〜……やっぱり、あまのはしさんのそばが、いち ば ん…………」
無意識の狭間で言い、すうっと眠りに落ちる彼女の声。
天之橋は苦笑した。

可愛い君、無防備な君。
その何気ない所作がどれだけ男を苦しめるのか、この少女は分かっていない。
やがて、かくりとソファからずり落ちかける少女の身体を抱き留め、膝の上に抱え直して。
彼は、彼女が休みやすいようにソファに深く身を沈めた。

「そんなことを言われると……言われた方は勘違いしてしまうだろう?」
少し乱れた髪を、片手で直してやり。
そのまま、少女の手に掌を重ねる。
「いくら辛くても、他の誰かにそんなことを言ってはいけないよ。
 いつでも私が傍にいて、君のお願いを聞いてあげるから」

小さく呟かれた言葉は、誰にも聞かれることなく空をすり抜けて。
それでも少女は、この上なく倖せそうに彼に抱かれて眠っていた。

FIN.

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