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 One spoon Spice 3 

「おーい、ちょっと」

顔だけ出して呼ぶと、はーい、と可愛らしく返事をする彼女。
もう帰ってこないその紙袋を握って、休憩室前の通路にもたれて待つ。

「なんですか?」
「コレ。ごちそうさまでした〜」
「あ、はい…………今回はどうでした…?」

紙袋を受け取って、顔を赤らめた彼女が上目遣いで聞いてくる。
こんなに可愛いのに、料理まで上手くならなくてもいいのに、と心の中でため息をついた。

「今は言わない〜。……ちゃんと入れてあっからそっち見ろ」
「………はぁい」
「あ!帰ってから、見ろな?」
「?…はい」
「うん、ヨシ。………じゃ」

いつもの軽い口数も少なく離れていく彼。
今度のお弁当に何か問題があったのか、彼女は不安な気持ちでその背中を見送った。

 

◇     ◇     ◇

 

ガソゴソと紙袋から包みを取り出す。
何だかいやな予感がしてしばらく見つめて。
やがて意を決して結び目を解いた。

「……………あ」

”二重マルで100点だ!合格おめでとう!今までご馳走様でした、うまかった。by真咲元春”

「……やったー…100点だー………」

抑揚無くそう言って唇を噛む。

何故気づかなかったんだろう。
100点を取ってしまったら、もう彼に作ってあげられない。
火曜日に渡して木曜日に返ってくる恋人同士のようなやりとりに自分で終止符を打った。
もっと早く気づいて、少しだけ手を抜けばきっともっと続けることが出来たのに。
でも、もう終わってしまった。

「…………うぅ〜…っっ……」

景色が、彼の文字が歪む。

先輩の理想に少しでも近づきたくて。
背は全然伸びないけど、何とかなることは全部したくて。
服装も、バイトも、お料理も、ホラー映画だって何本か借りた。
でも一番に直さないといけなかったのは意地っ張りと負けず嫌い。

「………あっ!」

メモ用紙に涙が落ちて、慌ててティッシュで押さえた。
先輩が書いてくれた大切な宝物。
文字が滲んでしまわなかっただろうかと心配しながら、水を吸い取ったティッシュをそっと持ち上げる。
薄い上、水分が染み込んで半分透き通ってしまったそれは、裏面の微かな線を写し出した。
これ以上被害が広がらないように袖でゴシゴシと涙を拭いて、何気なく裏返す。

”弁当のお礼と言っちゃなんだけど今度の日曜買い物に付き合わないか?am11:00公園入口”

書いてあることが理解できなくて三回文字を追う。

「……………デート?……デートだ!デートだぁぁ〜!!」

嬉しさの余り、紙切れを持ったままベッドに飛び上がってぴょんぴょん跳ねて。
何度読み返しても同じ事が書いてあるのが幸せを倍増させてくれる。
ほっぺたをつねったり、足をバタバタさせたり、果ては顔を洗ってから読んでも、そこには同じ筆跡で同じ文。

「…………あれ?でも…買い物って……」

不穏な空気を一瞬でまとって、彼女はその場に座り込んだ。

想像上は、公園通りで手をつないで、似合う服を選んでもらったり彼に選んであげたりする買い物。
でもスーパーの安売りを狙ってかごに詰め込むのも買い物。
そして自分はタイムセールが似合ってしまうのだ。

「でもでも、お礼って書いてあるし!公園通りはおしゃれスポットだし……」

どんどん胸の内の雲行きが怪しくなるのを振り払うように、頭をぶんぶんと振った。

「待ち合わせして二人で出掛ければデート!誰がなんと言おうとデートなの!」

大きな声で自分に言い聞かせるようにそう言ってから、額の所で手を組んで祈った。

でも神様、どうかスーパーじゃないですように……!!

 

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