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    Holy Link 1    

 


ねぇ、俺がどんなにアンタのこと好きか、分かる?

ねぇ、どれだけ愛してるか、 教えてあげようか?

 

 

 

「何か飲むかい、先輩。立ちっぱなしで疲れたろ?」
「あぁ……いや、それほどでもない」

連れて来られたクルル専用テントは、簡易とはいえ歩兵用の一般的な物とは比べるべくもない程ゆったりと広かった。
その中央のベッドに腰掛けた自分は、彼に顔を見せないように俯いて、何とか普段通り振る舞おうと努力していた。
労いの言葉を掛けられても上の空で、意識はずるずると今日起こった出来事に引きずられてしまいそうになる。
それを察したのか、クルルにしては珍しく言葉を選んでいる様な沈黙。



今回彼等が召還されたのは、ある宗教の教祖が政権を握っている惑星での、その教祖の逮捕。
彼の教えに陶酔した君主が政事の全てを彼に任せると、彼は宇宙連邦から脱退、民に重い税金を課して非道の限りを尽くし、君主をも殺害。その他大量殺戮行為と大規模なテロ行為の首謀者として逮捕状が出た。
宇宙警察は連邦政府を通じ、教祖の逮捕と国民救出を目的としてケロン軍に協力を打診し、クルルは作戦本部のブレインとして、自分は護衛として、機動隊と共にこの作戦に参加したのだった。

武装解除して投降するよう呼びかけたが教祖は籠城。
その上、老若男女問わず徴兵し命の盾と貧弱な武器で対抗させていて、本人は居城で高見の見物を決め込んでいる。
教祖の命令で幾万の罪の無い国民が、銃の前に命を差しだしていた。
国民救出も大きな目的、なのにその救出すべき対象は兵士となり教祖が乗っ取った城を幾重にも取り巻いている。
まともに戦えば多大な犠牲が出てしまう、かと言って引く訳にもいかず、協力を呼びかけるビラを撒いたりゴム弾で気絶させたりミッションは遅々として進まない。
そんな苛立ちが志気を下げる中、作戦本部を守っている機動隊員達に衝撃が走った。

『プリンセス・ドールだ!』
『プリンセス・ドールが来たぞ!!…くそっっ!!』

インカムから機動隊員達の絶望の声が聞こえる。
五日前と三日前、二つの臨時基地に出没したその『兵器』はおよそ五〜八歳と思われる少女であった。
圧政の中では見たこともなかっただろう、綺麗なドレス。
スクリーンに映される顔には嬉しそうな微笑み。
人生で初めて触れるのか、可愛いぬいぐるみをちいさな両手で大切そうに抱きしめて……それが爆弾だとは知らずに。

その『兵器』が初めて現れた時は保護しようとして爆発、宇宙警察臨時基地は壊滅的な痛手を受けた。
次は最初の情報もあり、ぬいぐるみを地面に置かせる事には成功したが直後に爆発、こちら側に巧妙に潜り込んだスパイがリモコン操作している可能性が浮上。
結局、見つけたら影響が無い距離で狙撃、爆破しか方法が無かったが、家庭を持つ者も少なからず居る中、そうなれば精神的な打撃は計り知れなかった。
それが現れた……自分の目の前に。
彼の居る作戦本部を目指して。

一瞬誰もがためらい、その無垢な笑顔を凝視した時。

タァー…ン

乾いたライフル音が響きわたった。
直後、大地を震わせるような大音響で爆発が起こり、土埃が舞い上がる。
皆が思わず伏せる中、自分だけが大地を踏みしめていた薄く煙るライフルを構えたまま。

「…………戦場の…赤い悪魔…」

誰かが小さな声で呟いた。
揶揄したのではなく本当にそう見えたのであろう。
その時の俺は無機質な金属の銃と同じ温度でスコープを覗いていた。

 

◇     ◇     ◇

 

夕食時にクルルに呼び出され、殆ど会話する事もなくここに居る。
サイドテーブルには見慣れた彼特製の栄養補助薬と水が置かれていた。
補助と名が付くのがおかしい程、それは完璧な栄養を含み空腹も無くなる。
満腹にならないのもまた、完璧である証。

食事をしなくて済むのは有り難かった。
明日の任務の為、一粒の錠剤くらいなら何とか飲み下せる。
もはや空気の様な存在の彼の所に居られるのも有り難かった。
皆の緊張が弛む食事時、もしその事に触れられると頭がおかしくなりそうだったから。

のろのろと錠剤を口に運ぶ。
彼は作業の手を休めず、コンピューターの画面に視線をやったまま。
こちらを見ないようにしてくれているのが分かった。

「先輩、そこに体温計あるから計っとけ。調子悪いトコはねェか?」

ゆるりとした口調で振り返らずに、クルルが言った。

「…大丈夫だ。……ただ」
「ただ?」
「少し吐き気がする……」
「オイオイ、それを早く言えっての……ったく何の為に俺がいんだよ」

ごそごそと医療バッグを漁るクルルの後ろ姿。
他とは違う、大切な人。
あの瞬間、俺は本部の事などどうでも良かった。
お前を守る為なら地獄に堕ちてもいいと思った。
この胸の苦しさも甘んじて受けねばならない。

薬を探しているクルルの側に行ってその手を止める。
彼は訝しげにこちらを見た。

「クルル……薬はいらない」
「ナンでだよ?だって…」
「いいんだ……少し背中を貸してくれないか?」
「……………あんま広くねェけど。報酬は一緒に休暇、一週間で我慢してやるかなァ?クックック」

クルルが音楽プレイヤーの電源を入れて、後ろを向いた。
ヘッドホンから漏れてくる音の大きさからして、かなりの音量で聞いているのだろう。
膝をついて彼の白衣に頭を預けると、薬品と煙草の匂いがして。
それに安心してしまう自分がいて。
白衣の裾を掴むと、もう、涙が堪えられなかった。

 

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