「ほら、こっちに来るでありますよ。おいし〜いお菓子、あるよ?」
「軍曹さん!それ、ボクのですぅ!」
「ええい、うっさい!ちょこっとくらい良いじゃん!」
「ケロロくん、こっちにもお菓子あるから……」
「だめですぅ!ボクのお菓子ですから、ボクがあげるんですぅ!」
「うっわ心せま〜〜い。我輩にも少しくらいやらせてくれたっていいでしょ!」
「だからこっちのお菓子を……」
「じゃあ、二人で一緒にあげるですぅv」
「おおそれ、いい考えであります!ほらほら、おいで〜♪」
「来るですぅ〜♪」
「…………ひどいよ……」
わいわいと繰り広げられる騒ぎをじっと見ていた『それ』は、色とりどりのお菓子を差し出されると目を瞬かせて、ふいと視線を転じた。
離れたところで武器を磨いていた彼が、それを感じて少しだけ身じろぎをする。
そのまま、いつまで経っても外されない視線にため息をついて、ギロロは仕方なくちらりとそちらを見た。
「!」
途端に、『それ』の耳がぴんと立って、しっぽがパタパタと動き出す。嬉しい、という非常に分かりやすい意思表示に、思わずまたため息が漏れた。
「ほら、ギロロー!待ってるじゃん!」
「さっさと応えてあげないと可哀想ですぅ!」
「……なんで、俺が……」
もごもごと言い訳をするギロロに、ケロロとタママの抗議が集中する。
ギロロにしてみれば、俺は関係ないとテントに戻りたいところだが、そうすると『それ』はテントの前に座ってじっと待つのだ。それこそ雨が降っても夜になっても、彼が出てくるまでずっと。
ギロロはもう一度だけため息をつくと、『それ』に向かって頷いてみせた。
もらって食べてもいいぞ、と。
◇ ◇ ◇
「でも本当にカワイイですよねぇ〜この子。ね、軍曹さん?」
「ウン、とてもギロロとクルルの子供とは思えないでありますよ」
「!!!」
「一体、どこらへんを受け継いでるんでありましょうなあ」
ぶば、とギロロが吹き出した飲み物をお盆で器用に避けながら、ケロロはテーブルの上のお菓子をつまんだ。
自分の口に持って行きかけて、ふと隣を見る。
じいっ、と。テーブルに顔半分を出して見上げてくる姿に思わず相好を崩して、お菓子を鼻先に持って行くと、『それ』は嬉しそうに笑ってぺこりと頭を下げた。
「……マジ、カワイイよねぇええ、ミーちゃん」
まっしろで、小さくて、ぴこぴこ動く耳としっぽがついていて、首にはベルベットの赤いリボンが結ばれている。
ミリリと名付けられたその生物は、おおよそ『可愛い』と表現できる外観しか備えていなかった。
両手でお菓子を持ってはぐはぐと食いつく様子も、頬に食べかすをつけたまま小さく首を傾げる様子も、本当に愛らしいとしか言いようがない。
そして、何よりも。
「まま!まま、おかし!」
まだ咳き込んでいるギロロに向けられる瞳は、思慕と尊敬と愛情でもう、キラキラしていて。
ひとりだけ好かれやがってコノヤロウ、と思わせるに十分でありますな〜。
ケロロはそう考えながら、熱いお茶をずずっと啜った。
「……げ、ほ、……っ」
「おろ?ギロロ、まだやってたの?大丈夫?」
「わ、ざとらしいっ……貴様のせいだろう!誰が誰の子供だ!!」
「誰って……あれ、健忘症?やっぱ年でありますなあ」
「俺とおまえは同い年だっっ!!!!」
「だあって、ギロロとクルルの遺伝子で作ったんでしょ、この子。それに」
「まま。たべて!」
「むぐっ」
「……アンタ達のこと、パパママって呼ぶじゃん?どっからどう見ても親子でしょ〜」
「そ、それは、クルルがふざけて教え込んで……うぐっ!おい、人が喋っている時に無理矢理詰め込むな!」
「あい、まま」
「呼ぶなと言っとろうが!貴様が呼ぶから、ケロロが調子に乗って……!」
「ダミダヨ〜無理無理。ミーちゃんはギロロの言うことなんでも聞くけど、それだけは直った試しがないじゃん。
きっとクルルがロック掛けてるんでありますよ」
「く、くそ……あいつ……!」
「あっ、どこ行くでありますか〜?パパのところ〜??」
「やかましい!!来いっ!!」
ミリリの首根っこをひっつかんだギロロが足音高く部屋を出ていくと、ケロロはわざとらしく肩をすくめた。
「あ〜あ、ミーちゃん拉致されちゃったであります。ギロロもいいかげん諦めればいいのにねぇ」
「あんなに懐かれてるのに不満だなんて、素直じゃないですぅ……」
『ボクらには、食べ物をもらうか笑うくらいしかしてくれないのに』と、タママが不機嫌そうに唇を尖らせる。
いつもならケロロに関わる者には容赦ないタママが、ミリリに敵意を向けないのはそういう理由があった勿論、クルルが『人から可愛がられずにはいられない』細工をしている可能性も大いにあるが。
けれど、いくら可愛がっても彼女が慕っていくのはギロロだけ。常に傍にいて、『離れろ』と言われるまではくっついているか登っているし、手に入れたものはすべて分けようとする。クルルには従順な犬のように従うミリリが、ギロロには猫のように懐いていく。
ミーちゃんがああいう風にギロロを好きなのはやっぱり、クルルの遺伝子のせいでありますかな。
隊長として、何とはなしに彼らの関係を知っているケロロには、ギロロのあたふたする姿がとても楽しい。
ま、からかい甲斐があっていいよね〜。当分ネタに事欠かないでありますよ。ゲッゲ〜ロ〜♪
「お茶もう一杯くれる、タママ二等?」
「はいですぅv」
いそいそと急須を持ち上げるタママに湯飲みを差し出しながら、ケロロは心の中でニヤリと笑った。
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