突然響いてきた、激しいノックの音。
インターフォンがあるのにそんなことをする人間は、一人しか知らない。
「……!」
クルルはリモコンにすばやく手を伸ばしかけて、一度引っ込めて。
しばらくそのノックの音を聞いてから、恐る恐る解除キーを押した。
パシュ、と軽い音を立てて開いたドアからラボ内に一筋の光が入り、足元まで到達する。
見ないでも分かるそれを感じながら、クルルは足を踏み入れようとする彼を牽制するように呟いた。
「センパイ。それ以上入んなよ」
「クルル……?」
不審そうな声が、耳を叩く。2週間ぶりの、あれ以来の、声。
クルルは振り向かないまま足を組み直した。
「そっから入るなら、覚悟して来い。入りゃ、俺様の命令に絶対服従だぜぇ……?」
「……………」
しばらく、沈黙が続く。
来るな、さっさと出てけよ、とクルルは心の中で繰り返した。
入ってきた彼を、めちゃくちゃに犯してやりたい欲望はもちろんある。逆恨みなのは分かっているが、ここまで見事に騙されたのだから、薬漬けにして突っ込んで揺さぶって壊してからボロ布のように捨ててやりたい。
しかしそれ以上に、ギロロから何も聞きたくないと思った。
あの記憶を認めるようなことは聞きたくない。たとえそれが一本の藁でも、あれは聞き違いだと泡沫の望みを持つ呆れた自分が、間違いなく存在するから。
そんな彼の思いも知らず、ギロロはきゅっと高い足音を立てて、ラボの中に踏み込んだ。
一歩一歩、ゆっくりと近づいてくる気配に、鼓動がうるさくなる。
やがて自分のすぐ後ろまで来ると、彼は静かに話しかけた。
「……この2週間。どうしていた……?」
その言葉は、誰が聞いても分かるほど強張っていて。
あれは夢じゃなかったんだと、クルルに思わせるのに十分なものだった。
「別、に」
声が掠れるのを抑えて、なんとか答える。
「……クルル……おまえは、もしかして……知っているのかもしれないが」
「……………」
「俺は……俺、は、」
「センパイ」
何かを言おうとしている彼を遮って、クルルが少し体を傾けると、指揮シートが小さな音を立ててくるりと半転した。
「……!な、なんっ……!」
「絶対服従、って言ったよなァ…?」
濡れて勃ったままのそれに赤面しかけたギロロが、クルルの表情を見てすうっと青ざめる。
自分がどんな顔をしているのか分からないまま、クルルは顎を上げて、命じた。
「銜えろよ」
「ン、むっ」
それを口に含むと、ギロロは苦しそうな呻きを漏らした。
慣れていない行為は、噎せながらただ前後に揺するだけのものだったけれど、したことのない屈辱に耐えながら奉仕する姿は理性を飛ばすのに十分で。
クルルはすぐに達してしまいそうな自分を戒めながら、愉しげに嗤った。
「クク…、従順なモンだなぁ。それも、任務の内かよ?」
「……ウ、んんっ」
物言いたげなギロロの瞳を、頭を掴んで見えなくする。
ぐぼ、と思いきり突っ込むと、噎せて収縮する咽頭がぬるりと先端を扱き上げて、堪らず奥に白濁を吐いた。
「ぐ…!ん、ンっ!」
「っ、駄目、だ」
反射的に退こうとする頭を、また押さえつける。
苦悶の表情を浮かべた彼に、ゆっくりと視線で強いると、ギロロはぶるぶる震えながらコクリと喉を鳴らした。
一度、二度、嚥下して。浅く息をするようになった頃、ようやく手を離す。
その途端、げほげほと大きく咳き込んで、ギロロは床にうずくまった。
「おい、オッサン。まだ終わってねえよ」
「……っふ、う、っ……くる、る……」
「来い」
その命令に導かれるように、ギロロはふらふらと立ち上がる。
まだ整わない息を、必死で抑えつけて。
高いシートに、よろけながら這い上がって。
促されるまま彼の膝に跨ると、すでに露わになって濡れているそれを見て、クルルがふんと鼻を鳴らす。
「もう、こんなかよ?俺のを銜えて興奮したのか?」
「……や、ち…違…っ」
「違わねえだろ。アンタは淫乱なんだよ。こうして後ろに突っ込まれねえと、満足できねぇんだろ?」
「あ、んんっ!ひ、ぁあっ!」
ぐ、と無遠慮に貫くと、ギロロの喉から悲鳴があがった。
同時に、握られたそこから、クルルの腹に体液が放たれる。
「あ、……あ、……ぁ……」
両手を突っ張らせて、仰け反って。
びくびく、と余韻に震えるその姿は、繋がっているはずなのにとても遠い。
どうして。
どうして、手に入らないんだろう。
こんなに綺麗なのに。こんなに愛しいのに。こんなに欲しいのに。
それ以前に、どうして。
自分はこの赤い身体が欲しいのか?
「センパイ……もっと欲しいって、言えよ……」
壊してしまいたいのに、どうして声が優しく響くのか。
わからない。
「ほら」
自分の腹に散ったものを指で掬い、まだ震えている口元に持っていく。
涙を零しながら、ギロロはそれを見返して。
小さく息を呑むと、意を決したように口を開けて、ちゅっとそれに吸い付いた。
「ん……ふっ……」
丁寧に指を滑っていく舌が、ぴちゃぴちゃと音を立てて自らの体液を舐め取る。
無くなれば、口を離すから。また掬って、運ぶ。
そうしてあらかた舐めさせた頃にはもう、クルルは堪えきれなくなっていた。
「……あ、あっ!」
挿入したまま、その身体を床に引き倒す。
両足を抱えると、ギロロは片手を顔に当てて隠し、陰から覗くようにクルルを見上げた。
「センパイ。……俺が欲しいって、言って?」
今だけで、いいから。
生理的欲求でいいから、同じことを、望んで?
「……ぁ…くる、るっ……ほ、しっ……クルル、はやくっ……!」
きゅうっと、自分を求めて引き絞られたそこに。
クルルは我を忘れて、奥深くまで一気に突き上げた。
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