ソフィー 見守るってまさか、カラスに化けてるんじゃないわよね。
ハウルならもっと派手なものに化けるわね。……まさかね。
王宮って遠いわねえ……
  
ソフィー ……ハウル?まさかね。
あんたまさかハウルじゃないでしょうね?
ヒン ヒン!
ソフィー もう、よりによって年寄り犬に化けるなんて!
年寄りがどんなに大変だか分かってるの?
  
荒地の魔女 お久しぶり。あの時の帽子屋さんでしょ?
ソフィー 荒地の魔女!
荒地の魔女 ハウルに手紙を届けてくれてありがとう……ハウル元気かしら?
ソフィー 震え上がっていたわ。おかげで私は掃除婦として働いてるけど。
荒地の魔女 おほほほ、そりゃ良かったわねえ。ところであなた、なんで王様の所へ行くのよ?
ソフィー 就職活動!ハウルのところはもううんざり!あんたこそなんなの?
荒地の魔女 私は王様に呼ばれているの。サリマンのバカもいよいよ、あたしの力が必要になったみたいね。
ソフィー そんなことよりあたしに掛けた呪いを解きなさいよ。
荒地の魔女 あらぁ、ダメよ。あたしは呪いは掛けられるけど、解けない魔女なの。お先に失礼〜。
ソフィー ちょっと待ちなさい!待ちなさいってば!
……もう!あんたがいなかったら杖で殴ってやったのに!
  
荒地の魔女 おまえたち、どうしたんだい!
侍従 奥様!これより先は禁じられております!どうかお歩き下さい!
荒地の魔女 サリマンめ、魔法陣など仕掛けてあたしに階段を登らせる気かい!
  
ソフィー 追いついちゃうわ!知らん顔していくのよ。
  
ヒン ヒン!
ソフィー !?…はあ。
よっこいせっ……うっ……なんでこんなに重いのよっ……
荒地の魔女 ふっ……ちょっとっ……待ちなさいよっ……
ソフィー 何よ……呪いの、解き方でも……思い出したの!?
荒地の魔女 だから……それは……知らない、の!
ソフィー じゃあ勉強するのね!
荒地の魔女 はぁ、はぁ……おっかしぃわねぇ……なんであんな、元気なの!?
ソフィー はぁ、ふう……あんたちょっと降りて。
……あんた、今日はやめといたら?無理だよ!
荒地の魔女 あたしはね、ここを追い出されてから、五十年もね、荒地でこの日が来るのを、
ずぅう〜っと、待ってたんだよ!
ソフィー じゃあ頑張りなー!手を貸すほど、あたしは親切じゃないんでね!おいでハウル。
荒地の魔女 もぅ、なによ薄情者!今度こそ、よぼよぼにしてやるから!はぁ、はぁ……
ソフィー 早くおいでー!
侍従 奥様、ご案内します。
ソフィー ふん、それより、あの人を助けてあげなさいよ。
侍従 お手をお貸しすることは、禁じられております。
ソフィー なによ!来いって言ったのは王様じゃない!
ソフィー あんたー、がんばりなー!もうすぐだよー!それでも魔女なのー!
荒地の魔女 うるさいわねー!ふ、は、ふ、は、はぁ……
ソフィー あんた急に老けてない?
  
侍従 ペンドラゴン夫人、荒地の魔女様ー!
荒地の魔女 はぁ、はあ……
ソフィー しっかりしなさいよ!ここにずっと来たかったんでしょ?
荒地の魔女 はぁ、はぁ……
侍従 ペンドラゴン夫人、荒地の魔女様ー!
荒地の魔女 ペンドラゴン……聞いたことある名だね……
ソフィー 当たり前でしょ、私のいた、帽子屋の名だもん。
荒地の魔女 そだっけ?
  
侍従 こちらでお待ち下さい。
荒地の魔女 ああ……椅子……あたしんだよ!……ああ、はあー……
ソフィー ハウル?こっちおいで!
……ん?
小姓 奥様はこちらへ。
荒地の魔女 ……んんんん!?……ひっ、……あああっ……あああ……!
  
(結界に閉じこめられる)
  
サリマン ……ハウルのお母様だそうですね。
ソフィー はい。ペンドラゴンと申します。
サリマン お疲れでしょ。どうぞ、それへ。
ソフィー はい。
サリマン 私は王室付き魔法使いのサリマンです。
ソフィー ……ん?あの、その犬は……
サリマン ヒンのこと?私の使い犬。あなたを案内させました。
ソフィー は?……はぁあ……
サリマン つまり、ハウルは来ないのですね?
ソフィー 母親を身代わりにするような息子です。王様のお役には立てないと思います。
サリマン 困ったことになりました。あの子は私の最後の弟子なのに……
素晴らしい才能の持ち主でした。ようやく跡継ぎに恵まれたと、本当に嬉しかったのです。
ところが、あの子は悪魔に心を奪われ、私の元を去りました。
魔法を自分のためだけに使うようになったのです。
ソフィー ……。
サリマン お母様。
ソフィー はい。
サリマン あの子はとても危険です。心を無くしたのに、力がありすぎるのです。
このままでは、ハウルは荒地の魔女のようになってしまう。……ここへ。
ソフィー ……えぇっ!?あんた、どうしちゃったの!?
サリマン 本当の年に戻してあげただけです。もう魔力はありません。
その人も昔は、とても素晴らしい魔法使いでした。
悪魔と取引をして、長い間に身も心も食い尽くされてしまったのです。
今、王国はいかがわしい魔法使いや魔女を野放しにはできません。
ハウルがここへ来て、王国のために尽くすなら、悪魔と手を切る方法を教えます。
来ないなら力を奪い取ります。……その女のように。
ソフィー お言葉ですが!
ハウルが何故ここへ来たがらないのか、分かりました。
ここは変です。招いておきながら年寄りに階段を登らせたり、変な部屋に連れ込んだり……まるで罠だわ。
ハウルに心が無いですって?確かに、わがままで臆病で、何を考えているか分からないわ。
でもあのひとはまっすぐよ。自由に生きたいだけ。
ハウルは来ません。魔王にもなりません。悪魔とのことは、きっと自分で何とかします。
私はそう信じます!
サリマン ……お母様、ハウルに恋してるのね。
ソフィー はっ!
荒地の魔女 ハウル!ハウルが来るのかい!?欲しいよ、ハウルの心臓が欲しい……!
ソフィー あんたいい加減にしなさい!ハウルは来ないのよ!
サリマン ハウルは来ますよ。ハウルの弱点も見つかったわ。
  
サリマン 王陛下。
国王 いや、そのまま。どうだ、体の具合は?
サリマン 恐れ入ります。
国王 会議はつまらぬ。息抜きにひと飛びしてきたのだ。
サリマン それはそれは……
国王 この者達は?
サリマン 魔法使いハウルの母君です。
国王 おぉ……
せっかくだがな、私は魔法で戦に勝とうとは思わんのだ。
確かに、この王宮にはサリマンの力で敵の爆弾は当たらない。その代わり、周りの街に落ちるのだ。
魔法とはそういうものだ……なあ、サリマン。
サリマン 今日の陛下は能弁ですこと。
二人目の国王 サーリマン!!
ソフィー えっ?ええっ!?
二人目の国王 いよいよ決戦だぞ!今度こそ叩きのめしてやる!……お?
……はっははははは、サリマン、今度の影武者はよくできてるな!良い知らせを待て!
サリマン 恐れ入ります。
二人目の国王 将軍達は集まったか!?
侍従 はい!
  
サリマン ……ハウル。久しぶりね。
ハウル 先生もお元気で何よりです。
サリマン 初めから分かっていましたよ?
ハウル 誓いは守りました。先生と戦いたくはありません。母を連れて行きます。
サリマン 逃がしませんよ?
荒地の魔女 ひぃ、ひいい〜……!
ハウル 下を見ないで。すごい力だ。
サリマン お母様にそなたの正体を見せてあげよう。
荒地の魔女 ひいい……!
  
ハウル うぅう……ううあああああっっ!
ソフィー ハウルだめ!罠よ!!
  
ハウル 掴まって!ソフィー、前へ移れ!あーあ……ソフィーがみんな連れてきちゃったなあ。
荒地の魔女 わんちゃん。
ヒン ヒン!
ソフィー ヒン、あんたはサリマンの回し者でしょ。しょうがないわねぇ、今更おろせないじゃない。
ハウル ソフィー、舵を取れ。
ソフィー えー、できないわよそんなこと!
ハウル 追いかけてきた!
ソフィー えっ?
ハウル 僕が相手をする。ソフィーはこのまま荒地の城まで飛ぶんだ。
ソフィー えー?そんなの無理よ!
ハウル 大丈夫、方向は指輪が教えてくれる。カルシファーを心の中で呼ぶんだ。
ソフィー カルシファーを?
ハウル 光の差す方へ飛べばいいんだ。夜には着く。
ソフィー なによ!ハウルが来るなら私が来ることなかったのよ!
ハウル ソフィーがいると思うから行けたんだ。あんな怖い人のところへ一人で行けるもんか。
おかげで助かった。さっきは本当に危なかったんだ。
ソフィー あぁあああ、離さないで、きゃあー!うわわわわー!
ハウル 上手いじゃないか!
ソフィー どこが!
ハウル ちょっと引き離した。五分間だけ見えなくするから、その間に行きなさい。
ソフィー うーわわわ……!ハウルー!
  
サリマン いえ、要らないわ。
はい、ありがとう。
久しぶりにわくわくしたわ。ハウルは逃げたつもりでしょうけど……
ふふ、ずいぶん若いお母様だったこと。
  
ソフィー ……ん?
もうすぐよ、私の生まれた街だわ!
ヒン ヒン!
ソフィー 馴れ馴れしくしないで。あんたは信用してないからね。
お城だわ。迎えに来てくれた!
マルクル ソーフィー!
ソフィー マルクル大変ー!あたし止め方しらないのー!
わ、わ!
  
マルクル ソフィー!……!?
荒地の魔女 わんちゃん。
ヒン ヒン!
ソフィー マルクル!ただいま!
マルクル ソフィー、怪我はない!?
ソフィー えぇ。
マルクル よかったー!
ソフィー 迎えに来てくれてありがとうね。
  
荒地の魔女 グゴゴゴゴ、グゴゴゴ……
  
カルシファー ……やばいよ、やりすぎだよう……!
  
ソフィー はっ!
ハウルが戻ってきたのかしら?……あっ!?
  
(黒い羽根が散る)
  
ソフィー ハウル?
  
怪鳥 ……うぅあぁあ……あああ……
ソフィー ハウル、ハウルね?苦しいの?怪我をしてるのね?
怪鳥 ……来るな……
ソフィー あたし、あなたを助けたい。あなたにかけられた呪いを解きたいの。
怪鳥 自分の呪いも解けないおまえにか?
ソフィー だってあたし、あなたを愛してるの!
怪鳥 もう遅い……!
ソフィー ああっ!……ハウルー!
  
ソフィー はっ!……はあ……
……ハウル帰ってきたのね?
カルシファー ソフィー、早くおいらとハウルの契約の秘密を暴いてくれ!おいらたち、もう時間がないよ!
ソフィー ハウルが魔王になるってこと?そうなの?
カルシファー そんなこと言えるかよ、おいらは悪魔だぜ?
ソフィー カルシファー、サルマンが言ってたわ。ハウルは大切なものをあなたに渡したって……
なにそれ?どこにあるの?
カルシファー 契約の秘密については、おいらは喋れないよ。
ソフィー あんたに水を掛けて消すって脅したら?
カルシファー あああああーっ!なんてこと言うんだ!そしたらハウルも死ぬぞ!
  
ソフィー おはよう、カブ。……勇気を出さなくちゃね。
  
マルクル ソフィー、いいよー!
ソフィー オーラーイ!カルシファー、もっと口開けて!
いくわよー、それー!
マルクル そーれー!
ソフィー うーごーき、……な、さい、……よっ!!
マルクル あ、ああーっ!わあーっ!
……あ、あはは、あはははは、ははははっ!
ソフィー お城ったって中から見るとがらくたの寄せ集めね!
みんなー、ご飯にするよー!
  
ソフィー はい、おばあちゃん。
カルシファー ソフィー、やだよう。荒地の魔女だぜ!
ソフィー もう大丈夫よ。
カルシファー 俺をじっと見てるよ!
荒地の魔女 きれいな火だねえ。
(タンタンタンタン)
ソフィー ハウル!?
ハウル やあみんな!
ソフィー お帰りなさい。
マルクル ハウルさん、この犬飼っていいでしょう!?
ハウル 魔女のおばあちゃんにサリマン先生の犬とは……カルシファー、よく城の中に入れたね。
カルシファー 冗談じゃないよ、ソフィーが丸ごと飛び込んで来ちゃったんだ!
ハウル はっはっはっはっは!また派手にやったね!
やあ、君がカブだね!ふぅん……君にもややこしい呪いがかかってるね。我が家族はややこしい者ばかりだな。
荒地の魔女 いい男だねえ。
ハウル さて、今日は忙しいよ。引っ越しだ!
ソフィー 引っ越し?
マルクル よかった、お城だけじゃ買い物もできませんからね!
ハウル ここにいたらすぐサリマン先生に見つかっちゃうからね。
……君はここにいてもらわなきゃならないな。魔力が強すぎる。
  
ハウル よーし、できた!カルシファー、いいよー!
  
ハウル よし、上出来だ!しばらくそこにいてね。
カルシファー そっとやってくれー。
ハウル はじめるよ。
  
マルクル ……わあ!
ソフィー わ……
ハウル 引っ越し終わり!もう降りていいよ。
マルクル うわー!すごい、お師匠様、広いですね!
  
ソフィー ああ……っ!ここは……!
ハウル トイレも作ったんだよ、家族が増えたからね。ソフィー、こっちへきて、ソフィー!
部屋もひとつ増やしたんだ。入ってごらん。
ソフィー あ、ぁっ……!
……ここ……何故?
ハウル ソフィーの部屋にどうかなー?って。気に入った?
ソフィー ……そうね。掃除婦にはぴったりの部屋ね。
ハウル 着替えも買っといたから、後で見て。次だ。ソフィー、こっちに来て!早くー!
マルクル 中庭だー!
ハウル お店もあるよ!……ソフィー。ドアの色が変わったからね。新しい出口だ。
ソフィー あぁっ……!
ハウル ソフィーへのプレゼント。どうぞ。
  
ソフィー わああーっ……!
ハウル 僕の秘密の庭さ。
ソフィー 素敵ね……。ここもハウルの魔法なの?
ハウル ちょっぴりね。花を助けるのに。
ソフィー わーっ!
ハウルー、ありがとうー!夢みたい……
  
ハウル ソフィー。
ソフィー 不思議ね。あたし、前にここに来た気がするの。涙が出てきちゃった。
ハウル おいで。
ソフィー うん。
  
ハウル ほら!
ソフィー まあーっ!ちっちゃな家!
ハウル 僕の大事な隠れ家さ。子供の頃の夏に、よくあそこでひとりで過ごしたんだ。
ソフィー ……ひとりで?
ハウル 魔法使いのおじが、僕にこっそり遺してくれた小屋なんだ。ソフィーなら、好きに使っていいよ。
……どうしたの?
ソフィー 怖いの。小屋へ行ったら、ハウルがどこかへ行っちゃうような気がするの。
ハウル、ほんとのこと言って。あたし、ハウルが怪物だって平気よ。
ハウル 僕は、ソフィー達が安心して暮らせるようにしたいんだよ。
ここの花を摘んでさ、花屋さんをあの店でできないかな?ねっ、ソフィーなら上手くやれるよ!
ソフィー そしたらハウルは行っちゃうの?
あたし、ハウルの力になりたいの。あたしきれいでもないし、掃除くらいしかできないから……。
ハウル ソフィー。ソフィーはきれいだよ!
  
(ソフィーの外見が年寄りに戻っていく)
  
ソフィー ……年寄りのいいとこは、失くすものが少ないことね。
ハウル ……。……はっ。
……こんなところを通るなんて……
ソフィー 軍艦?
ハウル 町や人を焼きに行くのさ。
ソフィー 敵?味方?
ハウル どちらでも同じことさ。
……人殺し共め。ごらん、あんなに爆弾をくっつけてる。
  
ソフィー ……止まっちゃった。ハウルがやったの!?
ハウル ちょっといじった。落としゃしないよ。
ソフィー ……はっ!ハウル!
ハウル おっとっと、気付かれたかな?
  
ハウル サリマン先生の下っ端の下っ端さ。戻ろう!
ソフィー うわっ!わ、わ、あっ……!
ハウル 走れ!足を踏ん張れ!
あそこへ走れ!
ソフィー いやー、離さないで!いやーあああ!
  
マルクル ……ソフィー、どうしたの?
ソフィー はぁ、はぁ、……もーこんなうち出てってやる!
  

back  next