(コンコン)
マルクル ソフィー、お休み。
ソフィー お休み。
マルクル ……ソフィー、ハウルさんなら心配いらないよ。前も何日もいなかったことあるから。
ソフィー ありがとうマルクル。
  
ソフィー トイレは?
荒地の魔女 平気だよ。
ソフィー お休みなさい。
荒地の魔女 ……恋だね。
ソフィー ……!
荒地の魔女 あんたさっきからため息ばっかりついてるよ。
ソフィー ……はぁ……
荒地の魔女 図星だね。
ソフィー おばあちゃん、恋をしたことあるの?
荒地の魔女 そりゃしたね。今もしてるよ?
ソフィー えー?
荒地の魔女 男なんか仕方のないものだけどね。若い心臓は良いよ。
ソフィー あっきれた。
荒地の魔女 それにかわいいからね。
  
ソフィー なにかしら?
荒地の魔女 空襲警報だよ。
ソフィー 空襲?
荒地の魔女 この街じゃないよ。でも今夜は外に出ない方がいいね。
そこら中でサリマンの手先がこの家を探し回っているよ。
いい火だねえ……よくこのうちを隠してる。
  
マルクル ソフィー、変な人が入って来ちゃった!
ソフィー ん?……お母さん!
ソフィーの母 ソフィー!!!あなたどこ行ってたの、さんざん探したのよ!
まあこんなおばあちゃんになっちゃって……!
みんな私が悪いの……ごめんねソフィー……ごめんね……!
ソフィー お母さん……。
  
ソフィーの母 すっかり模様替えしたのねー。……あの方はどなた?ああ、家主さんね。
そうだ、ソフィー、私再婚したの!
ソフィー ええ!?
ソフィーの母 とってもいい人、それにお金持ちなの!またみんなで暮らせるわ!
ねっ、掃除婦なんてしなくていいのよ!
ソフィー でもあたし、今の暮らしが気に入ってるから……
ソフィーの母 そぅお?……あ、いけない、車を待たせてあるの。行かなきゃ。
  
荒地の魔女 覗き虫かい。サリマンも古い手を使うね。カルちゃん燃して!
カルシファー むぐっ……あ、ああああー!
  
ソフィー お母さん、幸せになってね。
ソフィーの母 ありがとう。ソフィーもね。
  
ソフィーの母 ……言われた通りにしたわ。夫の元へ返して。
小姓 はい。サリマン先生もさぞお喜びでしょう。
ソフィーの母 ……ごめんね、ソフィー……
  
ソフィー すごい人ね。みんな逃げ出して、町中空っぽになっちゃうわね。
マルクル ソフィーも行きたいんか?
ソフィー えっ?
マルクル さっきの人がそう言っておったぞ。
ソフィー そうね。仲直りできて良かった。
マルクル ソフィー、行かないで!僕、ソフィーが好きだ!ここにいて!
ソフィー あたしもよマルクル。大丈夫、行かない。
マルクル 本当!?
ソフィー うん。
マルクル ぼくら、家族?
ソフィー そう。家族よ。
マルクル ……よかった!
  
荒地の魔女 サリマンなんかにハウルは渡さないよ!
  
マルクル ……でも、勝ったって書いてあるよ?
荒地の魔女 若者だけさ、信じるのは。
マルクル ふーん……
ソフィー おかしいわね、カルシファーがちっとも燃えないの。
おばあちゃんそれやめてくれない?ひどい匂いよ。
荒地の魔女 年寄りの楽しみを取るもんじゃないよ。
ソフィー 窓開けて、マルクル。
マルクル うん。
荒地の魔女 窓は開けない方が良いと思うよ……カルちゃんの力が弱くなってるからね。奴らが入ってくるよ。
ソフィー ……マルクル!
きゃあっ!わ、わっ……!早く閉めて!
おばあちゃんをお願い。お店見てくる!
マルクル うん!
  
ソフィー こんな時に何よ!そんなヒマがあったら、火事を消しなさい!
  
荒地の魔女 派手ねえ……。
  
ソフィー は、ハウル!
ハウル すまない……今夜は相手が多すぎた。
ソフィー ハウル、ああ、ハウル!
  
マルクル ハウルさん!ソフィー!
ハウル カルシファー、しっかりしろ!
……マダム、それはサリマン先生のプレゼントですね?
カルシファー そのばあちゃんがおいらに、変なものを食わせたんだ!
荒地の魔女 あら、ハウルじゃない。あなたとはゆっくり話をしたいわねえ。
ハウル 私もです、マダム。でも今は時間がありません。
荒地の魔女 あら〜、珍しいわねえあなたが逃げないなんて。
ハウル では、また。
ソフィーはここにいろ。カルシファーが守ってくれる。外は僕が守る。
ソフィー 待って!ハウル、行ってはだめ!ここにいて!
ハウル 次の空襲が来る。カルシファーも、爆弾は防げない。
ソフィー 逃げましょう。戦ってはだめ!
ハウル 何故?僕はもう十分逃げた。
ようやく守らなければならないものができたんだ。……君だ。
ソフィー ハウル!
ああっ……!
  
ソフィー あたしたちのいる街だ!
あそこにハウルがいる……!
あっ!ハウル!
マルクル ソフィー!……カブ!
ソフィー マルクル、こっちへこよう!
マルクル えっ!?
  
カルシファー 引っ越し!?無茶だよ、あっちは空っぽだよ!
ソフィー だめ!あたしたちがここにいるかぎり、ハウルは戦うわ。あのひとは弱虫がいいの。
おばあちゃん、さあ!
荒地の魔女 散歩かい?
カルシファー だって、サリマンにすぐ見つかっちゃうよ!
ソフィー もう見つかってる!こんなことしてたら、あのひと戻れなくなっちゃう!
マルクル ソフィー!お城ぼろぼろだよ!
ソフィー いいの!マルクル、おばあちゃんお願い!
マルクル うん!
ソフィー あなたも行くの!乗って!
カルシファー えぇえ、無理だよ。おいらは契約で暖炉から出られないんだ!
ソフィー あなたたちにできないなら、あたしがやってあげる!
カルシファー あぁああ、あぶない!やめろ!やめろってば、やめてー!
おいらが出たらこの家も崩れちゃうぞ!
ソフィー いい!
マルクル 出たよ!
ソフィー 離れて!
カルシファー お、おいらを最後にした方がいいぜ!何が起こるか、おいらにももう分からないんだ!
  
(城が崩れる)
  
カルシファー だから言ったろ、崩れるって!……雨だ!
  
(軍艦が飛んでいく)
  
マルクル 街に行くのかな?
ソフィー マルクル、おばあちゃんお願いね!カブ、中に入れる所を探して!
マルクル おばあちゃん、大丈夫だよ。僕がついてる。
ソフィー マルクル、ここから入れる!
  
カルシファー あああ雨漏りしてる!おいら消えちゃうよ!
ソフィー ここで待ってて!
カルシファー ここ濡れてるよー!これ湿ってるー!
ソフィー マルクル、おばあちゃんをここへ!
マルクル お城空っぽだね。
カルシファー だから、あっちにいればおいらとハウルで守れたんだよ!
ソフィー カルシファーお願い。あなたにしかできないの。ハウルの所に行きたいの、お城を動かして!
カルシファー えぇーっ!
ソフィー あなたならできるわ、すごい力を持ってるもの!
カルシファー でもさあ、ここには煙突もないしぃ、湿ってるしぃ〜……。
ソフィー だって昔から言うじゃない。一流は場所を選ばないって。
カルシファー そりゃそうだけどさー。そうかなあ?
荒地の魔女 カルちゃんきれいだねー。
マルクル おばあちゃん、ここ!
カルシファー じゃあさ、ソフィーの何かをくれるかい?
ソフィー あたしの?
カルシファー おいらだけじゃだめなんだ、目とか……
ソフィー 目?これは?
  
ソフィー すごいわカルシファー!あなたは一流よ!
カルシファー 目か心臓をくれれば、もっとすごいぞ!
荒地の魔女 心臓!?心臓があるのかい!?あらーっ!
  
ソフィー あそこにハウルがいる。囲まれてるわ。
あっ!カルシファー早く……あっ!
カルシファー やめー!
ソフィー おばあちゃん!やめて!
荒地の魔女 ハウルの心臓だよ!
カルシファー やめろー!
ソフィー おばあちゃん!
荒地の魔女 熱い、熱い!!
ソフィー 放して、死んじゃう、おばあちゃん!
荒地の魔女 嫌だ、あたしんだよ!熱い、熱いよ!
カルシファー あーーー!
マルクル ソフィー!ソフィー!!
  
ヒン ……ヒンッ、ヒン!ヒン!
ソフィー ……ヒン大変なことしちゃった……カルシファーに水を掛けちゃった……
ハウルが死んだらどうしよう……!うわあああーん、あああーん……!
ヒン ヒン!ヒン、ヒン、ヒン!
ソフィー ……動いてる!ハウルは生きてるの!?ハウルの居場所を教えて!
はっ!
お城のドア!
  
(扉の中へ)
  
ソフィー はっ。……ヒン。
  
ソフィー ああっ!……ハウル!
あたし今、ハウルの子供時代にいるんだ!
  
ソフィー あっ、あああ!
ハウルー、カルシファー!あたしはソフィー!
待ってて、あたしきっと行くから!未来で待ってて!
  
ヒン ヒン、ヒン!
ソフィー ……うん、歩くよ。ヒン、歩くから。涙が止まらないの。
  
ソフィー ハウル……。ごめんね、あたしぐずだから。ハウルはずっと待っててくれたのに……。
(キス)
あたしをカルシファーの所へ連れてって。
  
マルクル 死んじゃった?
ソフィー ううん、大丈夫。……おばあちゃん。
荒地の魔女 あたしゃ知らないよ、何にも持ってないよ。
ソフィー お願い。おばあちゃん。
荒地の魔女 ……そんなに欲しいのかい?
ソフィー うん。
荒地の魔女 仕方ないね。大事にするんだよ。
ソフィー うん。
荒地の魔女 ほら。
ソフィー ありがとう、おばあちゃん。
(ちゅっ)
  
ソフィー カルシファー。
カルシファー ソフィー、くたくただよ……
ソフィー 心臓をハウルに返したら、あなたは死んじゃうの?
カルシファー ソフィーなら平気だよ、たぶん……おいらに水を掛けても、おいらもハウルも死ななかったから……
ソフィー やってみるね。
暖かくて、小鳥みたいに動いてる。
カルシファー 子供の時のまんまだからさ。
ソフィー どうか、カルシファーが千年も生き、ハウルが心を取り戻しますように……。
  
カルシファー ……生きてる!おいら、自由だー!
ハウル んん……う……
マルクル 動いた!生きてる!……わっ!?
カルシファーの魔法が解けたんだ!
ソフィー カブ!
  
ソフィー カブ、大丈夫!?
すぐ新しい棒を見つけてあげるね!
カブ、ありがとう!
(ちゅっ)
……ああっ!?
カブ王子 ありがとう、ソフィー。
私は隣の国の王子です。呪いで、カブ頭にされていたのです。
荒地の魔女 愛する者にキスされないと解けない呪いね。
カブ王子 その通り。ソフィーが助けてくれなければ、私は死んでいたでしょう。
荒地の魔女 いい男だねえ。
ハウル ……うるさいな、なんの騒ぎ?……うっ!こりゃひどい、体が石みたいだ。
ソフィー そうなの!心って重いの。
ハウル あっ、ソフィーの髪の毛、星の光に染まってるね!きれいだよ。
ソフィー ハウル、大好き。よかったー!
ハウル いたっ!
  
荒地の魔女 ソフィーの気持ちは分かったでしょ。あなたは国へ帰って、戦争でも止めさせなさいな。
カブ王子 そうさせていただきます。戦争が終わりましたら、また伺いましょう。
心変わりは、人の世の常と申しますから。
荒地の魔女 あら良いこと言うわねえ。じゃあ、あたしが待っててあげるわ。
  
ヒン ヒン、ヒン!
サリマン ……なんです?今頃連絡してきて。あなた何をやってたの?
ハッピーエンドってわけね。この浮気者。
ヒン ヒン!
サリマン しょうがないわね……。
総理大臣と、参謀長を呼びなさい。この馬鹿げた戦争を、終わらせましょう。
小姓 はい!
  
マルクル カルシファーが!
ハウル 戻ってこなくても良かったのに。
カルシファー おいら、みんなといたいんだ。雨も降りそうだしさ。
ソフィー ありがとう、カルシファー。
(ちゅっ)
カルシファー うふ、うふっ。
  
おしまい
   
   
世界の約束
  
涙の奥にゆらぐほほえみは
時の始めからの世界の約束
  
いまは一人でも二人の昨日から
今日は生まれきらめく
初めて会った日のように
  
思い出のうちにあなたはいない
そよかぜとなって頬に触れてくる
  
木漏れ日の午後の別れのあとも
決して終わらない世界の約束
  
いまは一人でも明日は限りない
あなたが教えてくれた
夜にひそむやさしさ
  
思い出のうちにあなたはいない
せせらぎの歌にこの空の色に
  花の香りにいつまでも生きて

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