マルクル |
ハウルさん、お帰りなさい! |
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王様から手紙が来てますよ、ジェンキンスにも、ペンドラゴンにも! |
ハウル |
……カルシファー、よく言うことを聞いているね。 |
カルシファー |
おいらを苛めたんだ! |
ハウル |
誰にでも出来ることじゃないな。あんた、誰? |
ソフィー |
あ、あたしはソフィーばあさんだよ。ほら、この城の新しい掃除婦さ。 |
ハウル |
貸しなさい。 |
ソフィー |
ええっ…… |
ハウル |
あとベーコン二きれに、卵を六個ちょうだい。 |
ソフィー |
あ、えっ……。 |
カルシファー |
うまい、あむっ、うまっ…… |
ハウル |
掃除婦って、誰が決めたの? |
ソフィー |
そりゃあーあたしさ。こんな汚いうちはどこにもないからね。 |
ハウル |
ふーん。……マルクル、皿! |
カルシファー |
うー、皆でおいらを苛めるんだ! |
マルクル |
ソフィーさんもどうぞ。こっちに座って。 |
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選んで!汚れてないのこれしかないんだ。 |
ソフィー |
……仕事はたくさんありそうね。 |
ハウル |
マルクル。 |
マルクル |
はい。 |
ハウル |
ソフィーさん。 |
ソフィー |
あ、ありがとう。 |
ハウル |
諸君、いただこう。うまし糧を。 |
マルクル |
うまし糧!久しぶりですね、ちゃんとした朝ごはんなんて! |
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はぐ、むっ……むぐ…… |
ソフィー |
……教えることもたくさんありそうね。 |
ハウル |
で。あなたのポケットの中のものは何? |
ソフィー |
へ?……何かしら。 |
ハウル |
貸して。 |
マルクル |
ああっ!焼き付いた、ハウルさん、これ……! |
ハウル |
とても古い魔法だよ。しかも強力だ。 |
マルクル |
荒地の魔女ですか!? |
ハウル |
『汝、流れ星を捕らえし者 心なき男 お前の心臓は私のものだ』…… |
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……テーブルが台無しだね。 |
ソフィー |
ああっ! |
マルクル |
すごい、消えた! |
ハウル |
焼け焦げは消えても、呪いは消えないんだ。 |
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諸君、食事を続けてくれたまえ。カルシファー、城を100キロほど動かしてくれ。 |
カルシファー |
むっ、むぐ、うまっ…… |
ハウル |
それに風呂に熱いお湯を送ってくれ。 |
カルシファー |
えーっ、それもかよう! |
マルクル |
……ソフィーさんて荒地の魔女の手下なの? |
ソフィー |
バカを言うんじゃないよ!あたしこそ荒地の魔女に……むぐぐ…… |
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ほんとはあたしは……わ、ん、わ、ん…… |
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……荒地の魔女め!今度会ったらただじゃおかないからね!! |
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さっさと食べちゃおう! |
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ソフィー |
虫どもー、さっさと出ないと掃き出しちゃうよー!どいつもこいつも人をバカにして! |
老人 |
呪い(まじない)を頼みたいんじゃが…… |
マルクル |
後にして!中で魔女が暴れておるんじゃ。 |
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カルシファー |
ソフィー!消えちゃうよ!薪をくれなきゃ死んじゃうよー! |
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わ、何するんだ、あー!落ちる、落ちる!危なーい! |
ソフィー |
灰を掻くのよ。すぐだからね。 |
カルシファー |
やばいよ、あ、危なーい!あぶなっ、う、落ちる、う、あ、やばい…… |
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あ、お、落ち……あー! |
ハウル |
ふうーっ…… |
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ソフィー |
……? |
ハウル |
友人をあまり苛めないでくれないか。 |
マルクル |
ハウルさん、お出掛けですか? |
ハウル |
マルクル、掃除も大概にするように、掃除婦さんに言っといて。 |
マルクル |
……ソフィー、何かやったの? |
ソフィー |
ん? |
カルシファー |
おいらを苛めたんだ!おいらが死んだら、ハウルだって死ぬんだぞ!ううう |
ソフィー |
あたしは掃除婦なの!掃除をするのが仕事なの! |
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マルクル |
あ、だ、だだ、だめっ!二階はだめ!! |
ソフィー |
あたしなら大事なものを急いでしまっとくけど? |
マルクル |
あっ!……僕んとこ後回しにして! |
ソフィー |
ふふふ。腹を立てたら元気が出たみたいね。 |
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変なうちねぇ……。 |
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……ん?うわっ……わあーっ……! |
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すごーい!カルシファー、カルシファー!この城あんたが動かしてるの!? |
カルシファー |
うるさいなあ、当たり前じゃないか。 |
ソフィー |
すごいよカルシファー、あんたの魔法は一流だね、見直したわ! |
カルシファー |
そうかなあ?……そおぉうかなあぁあ!? |
マルクル |
あー!ま、まだ駄目だよ! |
ソフィー |
ふわわ……わあー! |
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ソフィー |
きれいだねえ。 |
マルクル |
星の湖(うみ)って言うんだよ。 |
ソフィー |
ん?……なにか穴に挟まってる。何かしら。マルクル、手を貸して。 |
マルクル |
うん。 |
二人 |
んー、うーん…… |
マルクル |
かかしだ! |
ソフィー |
カブ頭のカブって言うの。あんた、逆さになるのが好きだねえ。 |
マルクル |
あっ! |
ソフィー |
妙なものになつかれちゃったねえ。あたしについてきたんだよ。 |
マルクル |
……ソフィーってほんとに魔女じゃないの? |
ソフィー |
そうさ、この国一番のきれい好きな魔女さ。 |
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マルクル |
カブー、引っ張りすぎだよー! |
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マルクル |
洗濯物が気に入ったみたいだね。 |
ソフィー |
おかげで早く乾くでしょう。 |
マルクル |
カブって悪魔の一族じゃないかな。カルシファーが怒らないもの。 |
ソフィー |
そうね。死神かもしれないわね。でも……こんなところに来られたんだから…… |
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マルクル |
ソフィー。洗濯物、しまったよ。 |
ソフィー |
あぁ、ありがと。もう戻らなきゃね。 |
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不思議ね、こんな穏やかな気持ちになれたの初めて…… |
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(ハウルが敵を蹴散らし、戻ってくる) |
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ハウル |
はあ…… |
カルシファー |
くさい。生き物と……鉄が焼ける匂いだ。 |
ハウル |
はあ、はあ……うっ!……は、はあっ…… |
カルシファー |
あんまり飛ぶと、戻れなくなるぜ。……すごいだろ、ソフィーが置いてくれたんだ。 |
ハウル |
ひどい戦争だ。南の海から北の国境まで、火の海だった…… |
カルシファー |
おいら火薬の火は嫌いだよ。奴らには礼儀ってものがないからね。 |
ハウル |
同業者に襲われたよ。 |
カルシファー |
荒地の魔女か? |
ハウル |
いや。三下だが、怪物に変身していた。 |
カルシファー |
そいつら、後で泣くことになるな。まず人間には戻れないよ。 |
ハウル |
平気だろ。泣くことも忘れるさ。 |
カルシファー |
ハウルも国王に呼び出されてるんだろ? |
ハウル |
まあね。……風呂にお湯を送ってくれ。 |
カルシファー |
えっ……またかよ。 |
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(カーテンの隙間から、寝ているソフィーを見る) |
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ソフィー |
んっ!?ああっ!?……ハウル? |
カルシファー |
そ。お湯の使いすぎだよ。 |
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マルクル |
ハウルさん、絶対食べないと思うよ。 |
ソフィー |
いいの! |
街人 |
おはよう。 |
ソフィー |
おはよう。……朝の市場なんて素敵じゃない。あたし海初めてなの。 |
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きれいね、きらきらしてて。 |
マルクル |
いつもと同じじゃ。 |
マルクル |
わしは芋は嫌いじゃ。 |
ソフィー |
払って。ありがとさん。 |
野菜売り |
まいど! |
魚売り |
どれもさっき揚がった魚だよ。うめえぞ。 |
マルクル |
わしは魚嫌いじゃ。 |
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街人 |
艦隊が帰ってきたぞ! |
マルクル |
ん? |
街人 |
ひといくさあったらしいんだ。 |
魚売り |
ほんとかよ!奥さん、後にして! |
街人 |
がんばれ、がんばれー! |
マルクル |
ソフィー、もっと近くに行ってみようよ! |
ソフィー |
いや、あたしこういうのだめ!戻ろう! |
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……マルクル、ゴム人間よ! |
マルクル |
え? |
ソフィー |
動かないで!荒地の魔女の手下よ! |
ソフィー |
……行ったわ。あんなお化け、他の人には見えないのかしら。 |
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街人 |
……あそこだ! |
街人 |
あいつだ、あいつが落としたんだ! |
マルクル |
ソフィー、あれ敵の飛行軍艦だよ!ソフィー、ビラだよ!ソフィー! |
軍人 |
拾うな!そのビラを拾うな! |
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マルクル |
はぁ、はぁ…… |
マルクル |
ソフィー、大丈夫? |
ソフィー |
はぁ……はぁ……お水を一杯お願い。 |
マルクル |
うん。 |
ソフィー |
はぁ……はー……。 |
ハウル |
わあぁああああーーっ!! |
二人 |
わっ!? |
ハウル |
ああああ、あー、あぁあー! |
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……ソフィー、風呂場の棚いじった!?見て!こんな変な色になっちゃったじゃないか!! |
ソフィー |
き、きれいな髪ね。 |
ハウル |
よく見て!! |
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ソフィーが棚をいじくって、呪い(まじない)をめちゃくちゃにしちゃったんだ! |
ソフィー |
何もいじってないわ、きれいにしただけよ。 |
ハウル |
掃除、掃除!だから掃除も大概にしろって言ったのに!! |
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絶望だ……何という屈辱……うっ、うっ……うううっ…… |
ソフィー |
そんなにひどくないわよ。 |
ハウル |
ううっ……うっ…… |
ソフィー |
あ、あたしはそれはそれできれいだと思うけど? |
ハウル |
もう終わりだ……美しくなかったら生きていたって仕方がない……うっ…ううう…… |
ソフィー |
……ええっ!? |
カルシファー |
やめろー!ハウル、やめてくれ! |
マルクル |
闇の精霊を呼び出してる!前にも女の子にふられて、出したことがあるんです! |
ソフィー |
えぇ!? |
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……さあハウル、もうやめなさい。髪なら染め直せばいいじゃない。 |
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え?ひっ!? |
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……もう!ハウルなんか好きにすればいい! |
|
あたしなんか美しかったことなんて一度もないわ!!こんなとこ、もういやっ! |
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ソフィー |
ひっ、っ…… |
|
うわーあああん、あーああーん、あー……うわーん…… |
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(カブが傘を差し掛けてくれる) |
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|
ソフィー |
……ありがとう、カブ。あなたは優しいかかしね。 |
マルクル |
ソフィー!お願い、戻って来て!ハウルさんが大変なんだ!! |
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カルシファー |
ハウル、やめろー!消えちゃうよう!あー、うー!ソフィー!早くしてー! |
ソフィー |
派手ねえ……。 |
マルクル |
死んじゃったかなあ? |
ソフィー |
大丈夫よ。癇癪で死んだ人はいないわ。マルクル、手伝って。 |
マルクル |
うん。 |
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二人 |
うん、うーん! |
ソフィー |
マルクル、お湯をたっぷりね! |
マルクル |
うん! |
ソフィー |
ほら、自分で歩くのよ! |
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(タオルが落ちる)(尻) |
ソフィー |
マルクル、あとお願いね! |
マルクル |
うん! |
ソフィー |
……またお掃除しなきゃ。 |
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(トントン) |
ソフィー |
入りますよ。 |
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温かいミルクよ。飲みなさい。 |
ハウル |
(首を横に振る) |
ソフィー |
ここに置いておくから。冷めないうちに飲みなさいね。 |
ハウル |
……行かないで、ソフィー。 |
ソフィー |
……。ミルク飲む? |
ハウル |
(首を横に振る) |
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……荒地の魔女が僕の家を探しているんだ。 |
ソフィー |
えっ、あっ……港で手下を見掛けたわ。 |
ハウル |
僕は本当は臆病者なんだ。このがらくたは、全部魔女よけの呪い(まじない)なんだよ。 |
|
怖くて怖くてたまらない…… |
ソフィー |
ハウルはどうして荒地の魔女に狙われてるの? |
ハウル |
面白そうな人だなーと思って、僕から近づいたんだ。それで逃げ出した。恐ろしい人だった…… |
ソフィー |
ふぅーん…… |
ハウル |
そしたら今度は戦争で王様に呼び出された。ジェンキンスにも、ペンドラゴンにも。 |
ソフィー |
ハウルって一体いくつ名前があるの? |
ハウル |
自由に生きるのに要るだけ。 |
ソフィー |
ふうん。 |
|
王様の話断れないの? |
ハウル |
あれ。魔法学校に入学するとき、誓いを立てさせられてる。 |
ソフィー |
……ねえハウル、王様に会いに行きなさいよ! |
ハウル |
えぇ!? |
ソフィー |
はっきり言ってやればいいの。くだらない戦争はやめなさい、私は手伝いません!って。 |
ハウル |
はあー……。ソフィーはあの人達を知らないんだ。 |
ソフィー |
だって王様でしょ?みんなのことを考えるのが、王様でしょ。 |
ハウル |
……そうか!ソフィーが代わりに行ってくれればいいんだ! |
ソフィー |
えぇ!? |
ハウル |
ペンドラゴンのお母さんってことでさ。息子は役立たずのろくでなしですって言ってくれればいいんだ! |
|
マダムサリマンも諦めてくれるかもしれない! |
ソフィー |
マダムサリマン? |
|
|
ハウル |
……その帽子かぶるの?せっかく魔法で服をきれいにしたのに。 |
ソフィー |
行ってくるね。 |
マルクル |
うん。 |
カルシファー |
いってらっしゃーい。 |
ソフィー |
あっ…… |
ハウル |
お守り。無事に行って帰れるように。 |
ソフィー |
……。 |
ハウル |
大丈夫、僕が姿を変えてついていくから。さあ、行きたまえ! |
ソフィー |
絶対うまくいかないって気がしてきた。 |
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