タイトル
   
(コンコン)
   
年配の店員 ソフィーさん、お店閉めました。
ソフィーさんも行けばいいのに。
ソフィー これ仕上げちゃう。楽しんできて。
年配の店員 じゃ、行ってきますね。行くわよ。
店員 あっ、待って。
店員 これおかしくなーい?
店員 ねえ見て、ハウルの城が来てる!
店員 えっ、ハウル!?
店員 どこどこ!?
店員 ほら、あんなに近くに!
年配の店員 やぁねえ。
店員 ハウル、街に来てるのかしら。
   
店員 ……逃げちゃった。
店員 隠れただけでしょ、軍隊がいっぱい来てるから。
店員 聞いた?隣町のマーサって子、ハウルに心臓取られちゃったんだってね!
店員 怖いねー。
店員 大丈夫、あんたは狙われないから!
一同 あははは、あはははは!
年配の店員 はやくして!
一同 あはははは……
   
(街に出て行くソフィー)
   
ソフィー はっ!
兵隊1 やあ、何かお探しかな?子ネズミちゃん。
ソフィー いえあの、ご心配なく。
兵隊1 ではお茶などいかがでしょう。お付き合い願えますか?
ソフィー 結構です、用事がありますので。
兵隊2 ほんとに子ネズミちゃんだぜ。
兵隊1 ねぇ、君いくつ?この街の子?
ソフィー 通してください!
兵隊1 ほぉら、お前の髭面のせいだぞ!
兵隊2 怒ったとこも可愛いじゃないか。
  
ハウル やぁ、ごめんごめん。探したよ。
兵隊1 なんだお前は!
ハウル この子の連れさ。君たち、ちょっと散歩してきてくれないか。
兵隊 あっ、えっ?おっ?あれっ、おい、お……
ハウル 許してあげなさい、気はいい連中です。
どちらへ?私が送って差し上げましょう。
ソフィー いえ、チェザーリの店へ行くだけですから。
ハウル 知らん顔して。追われてるんだ。歩いて。
  
ハウル ごめん、巻き込んじゃったな。
ソフィー あっ!
ハウル こっち!……このまま!
ソフィー ああっ!
  
ハウル 足を出して、歩き続けて。
ソフィー あっ、ああっ……
ハウル そう、怖がらないで。
上手だ。
  
ハウル 僕は奴らを引き付ける。あなたはちょっと待ってから出なさい。
ソフィー はい。
ハウル いい子だ。
ソフィー あっ……!
  
レティー はい、ありがとう。
レティーっていうチョコはないのかい?
俺もそっちが欲しいな。
レティー、散歩に行かないか?
レティー ……お姉ちゃんが!?
レティー、早く戻ってきてくれよ!
  
レティー お姉ちゃん!?
ソフィー レティー……。
レティー どうしたの!?ベランダに降りてきたって、天使にでもなっちゃったの!?
ソフィー あたし……、夢見てるみたいなの。
店長? レティー、オフィスを使いなよ。
レティー でも、仕事中ですから。ありがとう!
店長? いーや。
  
レティー えーっ、それ魔法使いじゃないの?
ソフィー とってもいいひとだった……。私を助けてくれたの。
レティー それでお姉ちゃん心を取られちゃったってわけ?
その魔法使いがハウルだったら、お姉ちゃん心臓を食べられちゃってるよ!?
ソフィー 大丈夫よ。ハウルは美人しか狙わないもの。
レティー またそんな。あのねぇ、世の中物騒になってるんだから!荒地の魔女までうろついてるって言うよ。
お姉ちゃん?
ソフィー ……ん?
レティー もう!
お菓子職人 レティー、マドレーヌがあがったよ。
レティー はーい、ちょっと待ってねー。
お菓子職人 いいよ。
ソフィー あたし、帰るね。レティーの元気な顔見たら安心したから。
  
仕入業者 やあレティー。
レティー ごくろうさまー。……ねえお姉ちゃん。ほんとに一生あのお店にいるつもりなの?
ソフィー お父さんが大事にしてたお店だし……、あたし長女だから。
レティー 違うの!帽子屋に本当になりたいのかってこと!
ソフィー そりゃあ……
仕入業者 レティー、またね。
レティー 今度お店に来てね。
仕入業者 ああ。
ソフィー あたし行くね。
レティー お姉ちゃん。自分のことは自分で決めなきゃダメよ!
ソフィー うん。
  
(店に帰ってくる)
  
ソフィー ……?
あの、お店はおしまいなんです。すみません、鍵をかけたつもりだったんですが……
荒地の魔女 安っぽい店……安っぽい帽子。あなたも十分、安っぽいわねえ。
ソフィー ……ここはしがない下町の帽子屋です!
どうぞ、お引き取り下さい!
荒地の魔女 荒地の魔女に張り合おうなんて、いい度胸ね。
ソフィー 荒地の魔女?……あっ!
荒地の魔女 その呪いは人には話せないからね。ハウルによろしくね、フフフフ……
  
ソフィー ……?
……んん……あっ!?
あっ、あ……
……ほんとに私なの!?
落ち着かなきゃ……んん、ああ〜……
……ああっ!
落ち着かなきゃ〜……慌てるとロクなことはないよ、ソフィー。
ああ……なんでもない、なんでもない……落ち着かなきゃ……あああ落ち着かなきゃ……ううう……
  
(ガチャッ)
ソフィーの母 ただいま〜!
店員 奥様!
店員 お帰りなさい!
ソフィーの母 どう、これ!キングズベリーで流行りはじめたのよ!
店員 わぁ、きれい!
店員 お似合いですよ。
ソフィーの母 これ絶対いけると思わない?ソフィー、ソフィー……あら?
店員 奥様、ソフィーさんは今日は下りてきていません。
ソフィーの母 まぁ、どうしたのかしら。
  
ソフィーの母 ソフィー、ソフィー。
(トントン)
ソフィーの母 ソフィー。
ソフィー 開けないで、ひどい風邪なの。移っちゃ大変よ。
ソフィーの母 すごい声ね。90歳のおばあさんみたい。
ソフィー 今日は一日寝てるわ。
ソフィーの母 そぅお?じゃあね。
ソフィー よいしょっと……
大丈夫よおばあちゃん、あなた元気そうだし、服も前より似合ってるわ。
階下の店員 (あははは、うふふふ……)
ソフィー でもここには居られないわね。
  
ソフィー あいた!年寄りって大変ね。
  
(食料を持って裏口から出て行く)
  
街の若者 おばあちゃん、手を貸そうか?
ソフィー 親切だけは頂くよ、ありがとさん。
藁運びの御者 構わねえけど、ばあちゃんどこ行くの?
ソフィー あんたの行くとこの、その先だよ。
  
藁運びの御者 やめときなよばあちゃん、この先には魔法使いしかうろついてないぜ!
ソフィー ありがとよー!
御者の家族 これから中折れ谷へ行くの?
藁運びの御者 末の妹がいるんだって。
  
ソフィー まだいくらも来てないね。歯だけは前のまんまで良かったよ。
ん?杖に良さそうだ。よっ……あいたたっ。
ちょっと太いかしらね。ん……うんん……!
ふう、ふう……頑固な枝ねえ……。ソフィーばあちゃんを甘く見ないで!
うんん……!
  
ソフィー かかしか。また魔女の手下かと思ったよ。
でもおまえ、なんで一人で立ってるの?
頭がカブね。あたし、小さい時からカブは嫌いなの。
逆さになってるよりましでしょ。元気でね。
  
ソフィー うぅ、寒い……。まだ街があんなとこにある。……んん?
ついてくるんじゃないよ!恩返しなんかしなくていいから!
あんたも魔法のなんかだろ、魔女とか呪いとかもうたくさん!
どこでも好きなとこに立ってなさい!
  
ソフィー はあ、はあ……
これはぴったりの杖だね。ありがとさん。
今夜泊まるうちも連れてきてくれると、いいんだけどねえ。
……年を取ると悪知恵がつくみたい。
  
ソフィー 大きな軍艦。
あぁ、年寄りがこんなに体が動かないなんて思わなかった。
……煙の匂いだ。山小屋でもあるのかね?
ふう、ふう……
  
ソフィー カブ頭、あれハウルの城じゃない!?
あんた、うちを連れてこいって、まさか……!
  
ソフィー まあ、これ。これでお城なの?
  
ソフィー そこが入口なの?
ちょっと待ちなさいよ、はあっ、はあっ……これ、ちょっと!
乗せるの乗せないの、どっちかにして……うわあっ!
肩掛けが……!
  
ソフィー カブ、中はあったかそうだからとにかく入らせてもらうわ。ありがと!
いくらハウルでもこんなおばあちゃんの心臓は食べないでしょ。
今度こそさよなら。あんたはカブだけどいいカブだったよ!
幸せにね!
  
ソフィー はぁ……。あいててて……よいしょ。
なんだろねえ、ただのボロ屋にしか見えないけど……
ま、年を取っていいことは、驚かなくなることね。
カルシファー ……こんがらがった呪いだね。
ソフィー んん!?
カルシファー その呪いは、簡単には解けないよ。
ソフィー 火が喋った!
カルシファー おまけに人には喋れなくしてあるね。
ソフィー あんたがハウル?
カルシファー 違うね。おいらは火の悪魔カルシファー!……っていうんだ。
ソフィー ならカルシファー、あんたあたしに掛けられた呪いを解けるの?
カルシファー 簡単さ、おいらをここに縛り付けている呪いを解いてくれれば、すぐあんたの呪いも解いてやるよ。
ソフィー 悪魔と取引をするってわけね。
あんたそれ約束できるの?
カルシファー 悪魔は約束はしないさ。
ソフィー ……他を当たるのね。
カルシファー おいら、可哀想な悪魔なんだ。契約に縛られて、ここでハウルにこき使われてるんだ!
この城だって、おいらが動かしてるんだぜ!
ソフィー そぅ……大変なのねぇ……
カルシファー ハウルと、おいらの契約の秘密を見破ってくたら呪いは解けるんだ。
そしたら、あんたの呪いも解いてやるよ!
ソフィー 分かったわ……取引ね……んん……
カルシファー ……ばあちゃん。ばあちゃん!
ソフィー グガガガ……
カルシファー ……大丈夫かなあ。
  
(ドンドンドンドン!)
ソフィー うん……んん……
……?……ぐがー、ぐがー
マルクル あれっ、誰だろう?
カルシファー 港町ー!
マルクル いつ入ったのかなあ。……待たれよ。
  
マルクル これは町長殿。
町長 日はすっかり昇りましたぞ。ジェンキンス殿はご在宅か。
マルクル 師匠は留守じゃ。わしが代わりに承りましょうぞ。
町長 国王陛下からの招請状です。いよいよ戦争ですぞ。
魔法使いも呪い(まじない)師も魔女ですら、皆国家に協力せよとの思し召しです。
必ず出頭するように。では。
ソフィー やだねぇ、戦争なんて。
マルクル 其許は何者じゃ。
ソフィー カルシファーが入れたんだよ。
カルシファー 俺じゃないよ、荒地から勝手に入ってきたんだよ。
マルクル 荒地から?うーむ……
まさか魔女じゃないでしょうね。
カルシファー 魔女なら入れるもんか。
……また、港町ー。
マルクル お客かな?……待たれよ。
何用かな?
女の子 母さんの代わりに来たの。
マルクル またいつもの呪い(まじない)じゃな?
女の子 うん。
マルクル 大人しくしておれよ。
ソフィー あれ……?荒地じゃない。
女の子 おばあちゃん、おばあちゃんも魔女?
ソフィー ん?そうさ、この国一こわーい魔女だよ?
女の子 うふふ。
マルクル この粉を撒けば船に良い風が吹く。
女の子 うん。
マルクル ご苦労。
困るんじゃ、デタラメを言いおって。
ソフィー あんたその変装やめた方がいいよ。
マルクル 変装じゃありません、魔法です!
カルシファー キングズベリーの扉ー!
マルクル 待たれよ。
侍従 魔法使いペンドラゴン氏のお住まいはこちらか。
マルクル 如何にも。
侍従 国王陛下の招請状をお持ち致しました。ペンドラゴン氏には必ず宮殿へ参上されるよう、お伝え願いたい。
マルクル ご苦労様でござる。
ソフィー まるで王様のいる都だね。
マルクル 引っ込まないと鼻がなくなりますよ。
もう、うろうろしないでください!
  
マルクル ……いい加減にしてください!怒りますよ!
ソフィー ここは魔法のうちなんだね。
マルクル もーう。
ソフィー この黒い所はどこに行くの?
マルクル ハウルさんしか知りません!僕は朝ごはんにします!
ソフィー ベーコンに卵もあるじゃない。
マルクル ハウルさんがいなければ、火は使えないんです!
ソフィー あたしがやってあげる。
マルクル 無理ですよ、カルシファーはハウルさんの言うことしか聞かないんです。
カルシファー そうだ。料理なんかやんないよ。
ソフィー あらあら、帽子がこんなとこに。
さぁカルシファー、お願いしますよ。
カルシファー やだね。おいらは悪魔だ。だーれの指図も受けないよー。
ソフィー 言うこと聞かないと、水を掛けちゃうよ。
それとも取引のことをハウルにばらそうか?
カルシファー うっ……こ、こんなばあちゃん入れるんじゃなかった!
ソフィー さあ、どうする!?
カルシファー う、うう……
ソフィー そうそう、いい子ねー。
カルシファー チェ、チェッ、ベーコンなんか焦げちまえ!
マルクル カルシファーが言うことを聞いた……
ソフィー お茶も欲しいね。ポットもあるの?
マルクル うん。
  

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