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  愛が生まれた日 1 

柔らかな光が、夢の狭間を遊泳している。
波間を漂うような心地よさが五感を包む。
暖かいまどろみに溶け込んでいた意識が、ふいに、なにかに惹かれたように形づき始めた。

「……トール………ヴィ…トー………」

だがそれは、けして不快ではなく。
庇護感と愛しさにあふれた、自分にとってもっとも大切なもの。
無意識下でそう思い、彼はゆるりと微笑んだ。


「……ヴィクトールさま。起きてください」

薄く目を開けると、期待した通りの風景がそこにあった。
白い天井を背景に、眠りを妨げたすまなさと起きてくれた嬉しさがほほえましく同居した少女がいる。
ヴィクトールはまた笑って、もう一度目を閉じた。

「ヴィクトール、さま? ヴィク……きゃっ!」

後ろに忍んだ手が、少女の身体をやすやすと捕らえる。
寝返りを打つ手で少女をベッドの上へ運んで、ヴィクトールはぱちりと目を覚ました。

「はっはは、人の安眠を邪魔した罰だ、

布団の上に“落とされた”は急いで起き上がり、頬をふくらませて彼をにらんだ。

「いじわる……せっかく遅れないように起こしてあげたのに」
「ああ、もうこんな時間か。少し寝過ごしてしまったようだな」

自分で呟いておいて、その言葉のくすぐったさに気付く。
軍人などという職業に就いている彼は、これまで分単位の規則正しい生活を送ってきた。
目覚ましなどかけずとも、毎日同じ時間に起きるのが当然だった。
しかも、ある事件が起きてから眠りは一層浅くなり、風の一吹きで目覚めてしまうこともたびたびだったのだ、この少女と出逢うまでは。

 

◇     ◇     ◇

 

女王候補であったが彼と結婚して、すでに一ヶ月が経過していた。
彼女、は。初めて会ったときから、ヴィクトールに『守ってやらなくては』と思わせる存在だった。
もう一人の候補と対照的に、頼りなさげな表情と自信に欠ける態度で試験に臨んだ彼女を、彼は一心にサポートした。
協力者たるもの中立の立場を、などと考えたのはごく初期だけで、 の有利になることなら手当たり次第に援助した。

彼女を女王にするために、という目的が苦痛になりだしたのは、一体いつのことだったろう。
使命感のためではなく、彼女自身のために何かをしてやりたいと。そう思う自分に気がついたとき、はまさに女王になろうとしていた。
彼に選択の余地はなかった。……いや、選択する勇気がなかった。
ヴィクトールにできたのはただ、愛する少女が高みに上らされるのを黙って見つめることだけ。

だが、自分が傷つけたはずの彼女は宣誓の場で言ったのだ、女王より宇宙より大事なものがある、と。
皆の前に立っただけで泣き出しそうな内気な少女が、それでも女王を見据えて自分への想いを訴えるのを見たとき、ヴィクトールは心中で何かが弾けるのを感じた。
厳粛な即位式のさなかを玉座へと走り、気がつくと、彼はを庇いながら女王に直言を申し入れていた。

自分も彼女を愛している、と……。

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