「…………どういう……ことですか。ジュリアス、もう一度説明しなさい」
申し出をのんで謁見の間に出向いた私に目礼をし、ジュリアスはきっぱりと復唱した。
「王立研究院からの確かな情報です。宇宙におよぶサクリアが、異常な減退を示しています……それもただひとつだけ」
この場にいるのは、ジュリアス、ルヴァ、そしてロザリアと私だけ。
確信をともなった不安に、私は思わず掌を握りしめた。
「………………そ………」
「それは一体、…誰、なのですか?」
震える声をロザリアがさえぎったのは、偶然だったのだろうか。
「……陛下のご加護の厚いこの聖地でさえ、人心は安息を失い、憂いや疲労を訴えております。
すなわち、人々に安らぎをもたらす…闇の力が消失しかけているものと思われます」
すうっと意識が遠くなる。
予想はしていても、その言葉は私の心を凍てつかせるのに充分だった。
「これほど急速な衰退は異例ですが、ゼフェルとシーヴァの件を考慮しますと、宇宙のどこかで次代の闇の守護聖となるべき者が力を増しているという事も考えられます。」
続くジュリアスの話は、ほとんど私の耳に入ってはいなかった。
あのひとが…守護聖の任を、解かれる。もう傍には居られない……!?
「いずれにせよ、早急に手を打たねばなりません。陛下、御裁可を」
「……私……もしかして、私の…せい……」
思わず呟いた私にジュリアスが気付く前に、ロザリアが前に歩み出た。
「わかりました。その件に関しましては、あなたに一任いたします。とにかく、詳しい状況を調べて一刻も早く報告するよう」
「ただいまオスカーに調べさせております。……陛下、ひとつお聞かせ下さい。
次代の守護聖が見つからぬままに闇のサクリアが消失した場合、いかが致しますか」
ことさらにそう訊ねたのは、ジュリアスなりの気遣いだったのかもしれない。
サクリアが失せても、次の守護聖が現れなければ交代はままならない。よってそれまで前任者の解任を先送りすべきではないかと言っているのだ。
私ははっとして彼を見た。私の心情を見通しているのかもしれないその碧い瞳に、女王の姿がうつっていた。
「……いいえ。サクリアを持たない者を聖地にとどめるわけにはいきません。
歴代の例に則して、完全に消滅してしまう前にここを発つように伝えなさい」
「陛下!」
目を見張って振り向いたのは、ロザリアだった。
「陛下、お考え直しください。クラヴィスの力の減衰は一時的なものかもしれません」
「そう考える理由があるのですか」
「それは………」
口ごもって、ロザリアはちらと光の守護聖の方を見やった。
彼女の言いたいことは理解できた。が、だからといって前例のないことを確たる理由もなしに許可することはできない。
……私は、女王として生きてゆくことに決めたのだから。
「確かな理由が明らかになるまで、措置は変わりません。調査を急がせなさい」
無理矢理に言葉を押し出して、私は身を翻そうとした。
「陛下!!クラヴィスは……!」
「ロザリア! あなたは一体、私の何ですか!?」
キッとロザリアを睨み、私は憤りを彼女にぶつけた。ロザリアがひるむのが判る。
「あなたは、私の優秀な補佐官のはず。女王の決定に口を差し挟むことは許しません」
「……………」
きつい一言が、ロザリアを俯かせる。
「ジュリアスも同様です。私の決定に不服を唱える暇があったら、まず事実を明らかにすることに精励するように」
「……畏まりました」
自分でも暴言と思える台詞を吐き、私の中で女王への意識が姿を変えようとしたまさにその時、
「………………!!」
「!!?」
広間中に拡がる大きな声が、私の足を止めた。
|