「!!!」
そのとき、クラヴィスは前方に彼女の姿を見つけた。
「クラヴィス様!? どうして……」
驚くの瞳に、微かに透明な滴が残っている。
クラヴィスは思わずそれを言及しそうになったが、一つ静かに首を振り、尋ねた。
「………ジュリアスのところへ、行っていたのか」
「!」
「何も言わずともよい。話は付人に聞いた、このところ毎夜訪ねているらしいな」
「…………、……はい……」
頷いた言葉が、彼にはジュリアスとの仲の肯定に思えた。
「……そ、うか。私は私はおまえに……。」
今まで胸の内で繰り返してきた台詞が、何故か上手く言えない。
自分の意気地の無さがもどかしく、彼はやるせない気持ちで彼女を見つめるのみだった。
「クラヴィス様…わたし、やっとジュリアス様に…」
そんな彼を知ってか知らずか、の口が光の守護聖の名を紡ぐ。
「今日まで必死にお願いしたんです。間に合ってよかった……」
「……!頼む、何も言わずに私の話を聞いてくれ」
気が付くと、クラヴィスは彼女の肩をつかんで叫んでいた。
「おまえは私の天使だ。私は、おまえに会ってから自らの内にあった冷たい氷の塊が溶けていくのを感じた。
闇の守護聖として世の不幸や恐れを一身に背負っていると思っていた私が、幸せな天使の光を感じたのだ。
そしてそれがおまえから発していると知ったとき、私は、おまえを……心から愛していると悟った。
おまえが誰を愛していようとも、私はおまえだけを愛している」
「ク、ラ…ヴィス、様?」
突然の告白に、は目を見開いて彼を見上げた。
「……だが、これは私の勝手な感情だ。どう思ってもおまえの自由だし、縛られる必要は微塵も無い。
それだけは判ってほしい」
自分は恩着せがましい顔をしていないだろうか。恨みのこもった表情をしているのではないか。
そんなことを考えて気が気ではなかったが、クラヴィスはできうる限りの誠意をこめて言葉を綴った。
「………私が言いたいのはそれだけだ。引き止めてすまなかった」
「クラヴィス様!」
が何か言いたそうに彼を呼び止めた。
そのまま振り切って去ろうとした彼の腕を、力任せに押さえる。
「いやです! クラヴィス様、誤解しないでください。
私はジュリアス様に逢うためにあの方の所へ行っていたのではありません!」
「な、に?」
不意を突かれて、クラヴィスはよろめきそうになった。
「……しかし……では、…何のためだと言うのだ?」
「あなたと共に生きるために」
彼の動揺を吹き飛ばすように、はふわりと微笑った。
「愛する人に、愛していると言うために。
ディア様にも、ロザリアにも、そしてジュリアス様にもお許しを頂きました。私は愛するひとと生きますって」
「……それは……私…の、こと、か?」
かろうじて発した問いの答えは、いたって簡潔なものだった。
「他に誰がいるんですか?」
クラヴィスは呆気にとられたまま、二の句が継げずにいる。
ということは、彼女は女王の資格を放棄したというのか。…私のために?
私と二人で生きるために、あのジュリアスをも説得したと…?
「クラヴィス様が私を愛していると言ってくれたことは嬉しいです。
……でも、誤解したということは私を信じてくれなかったんですね。私はあなたを信じていたのに……」
わざとらしい悲痛な言葉に、クラヴィスは真面に反応した。
「わ、悪かった。信じていなかったわけではないのだ、。
ただ、おまえが私のものになるなど夢の中のことのような気がして……私が知らずのうちにおまえの自由な翼をたたませているのではないかと思ってな。
すまぬ、。許してほしい」
見たことのないほどうろたえる彼を見て、はくすりと笑い、
「私はあなたに縛られたいんです。
それに…、この日のために内緒にしていた私がいけなかったんですもの。謝らないでください」
「この日のため?」
「どうしても今日に間に合わせたかったんです、そんなことって怒られるかもしれないけれど。
今日は…あなたの生まれた日でしょう?」
「…!!」
クラヴィスは思わず彼女をその腕に強く抱きしめた。
「……おまえを愛したことは、私には至極当然のことに思える。
おまえのような者は他にはおるまい、そのおまえが私を選んでくれたことを誇りに思う。
魂が闇に没するまで……おまえと共に生きよう。おまえは私のすべてだ」
「クラヴィス様……」
頬に触れた手も、背中ですがりつく腕も、何もかもが暖かでこころよい感触に満ちてる。彼は今、無常の幸福にひたっていた。
護るべき者をこの手に抱いている、彼はそれ以外の何物をも望んではいなかった。
FIN. |