「ところがマジもマジ、本マジだった訳や!」
ばんばん、と机をたたいて、青年は屈託なく笑った。
「なにせ、その日から俺は毎日まいにちアンジェを待ち続けたんやからな。
……次に会ったのは他の奴とのデート中やったけど」
思い出して急に不機嫌になる彼に、ティーカップを差し出しながら少女が苦笑する。
「もう、またそれを言う。女王を目指してたんだから仕方ないでしょ」
「せやけど……やっと会えた思たら、他の奴と一緒に歩いてたんやで!?
しかも俺のアンジェの肩に手までまわしよって、ほんまぶん殴ったろかと思たわ!」
「あのねー、“俺のアンジェ”って、その時は何とも思ってなかったんだから」
「ほんまか?」
とたんに眉を下げて、青年は身を乗り出した。
「最初は俺のこと好きじゃなかったんか?アンジェ」
なさけない表情で、お茶を置いた手を握りしめてくる。
いつもの捨てられた仔犬のような瞳で見られて、アンジェリークはぐっと言葉に詰まった。
「そんな目で見ても……ダメですよ。甘やかしませんからね」
その言葉にだだをこねかけた青年は、ふと真顔になって立ち上がった。
「……わかった」
少し寂しそうに笑って、アンジェの体を抱きすくめる。
「困らせてごめんな。ほんまは、アンジェが俺を好きかどうかなんてどうでもええんや。
俺が何よりアンジェを愛しとること、わかっとってくれたら。
いちばん好きでいてくれなんて言わん……アンジェが俺を嫌いになるまで、そばにおってくれるだけで倖せやさかい」
卑怯だとアンジェリークはいつも思う。
このひとはいつも、なんてたやすく自分の心を捕らえてしまうんだろう。
初めて会ったあの時から。二人で生活を始めて久しい今に至るまで。
「……私の意見は、無視なんですね」
「あ?」
少女の真っ赤な顔が見えない彼は、怒りに似たその声におたついて身体を離そうとした。
それを掴んだ腕で引き寄せながら、アンジェリークは青年の胸に顔を押しつけて叫んだ。
「私がどれだけあなたを好きでも、あなたには関係ないんですか!?
ずるいです、そんなの。自分は毎日好きだ好きだ言ってるくせにっ」
「???」
怒られてるんだか何だか分かってない彼から不意に手を離し、いたずらっぽく舌を出す。
「そんなんじゃ、いつまでたっても気付けませんよ?」
自分の方がよっぽどあなたを好きだと、ずいぶん昔から思っていることを。
「ア、アンジェ?……なんのことや、教えてんか〜」
「べーっだ、くやしいから教えない!」
じゃれあうふたりの肩越しに、霧雨がけぶって見えた。
FIN.
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