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  ひみつのきもち。 2 

「ところがマジもマジ、本マジだった訳や!」

ばんばん、と机をたたいて、青年は屈託なく笑った。

「なにせ、その日から俺は毎日まいにちアンジェを待ち続けたんやからな。
 ……次に会ったのは他の奴とのデート中やったけど」

思い出して急に不機嫌になる彼に、ティーカップを差し出しながら少女が苦笑する。

「もう、またそれを言う。女王を目指してたんだから仕方ないでしょ」
「せやけど……やっと会えた思たら、他の奴と一緒に歩いてたんやで!?
 しかも俺のアンジェの肩に手までまわしよって、ほんまぶん殴ったろかと思たわ!」
「あのねー、“俺のアンジェ”って、その時は何とも思ってなかったんだから」
「ほんまか?」

とたんに眉を下げて、青年は身を乗り出した。

「最初は俺のこと好きじゃなかったんか?アンジェ」

なさけない表情で、お茶を置いた手を握りしめてくる。
いつもの捨てられた仔犬のような瞳で見られて、アンジェリークはぐっと言葉に詰まった。

「そんな目で見ても……ダメですよ。甘やかしませんからね」

その言葉にだだをこねかけた青年は、ふと真顔になって立ち上がった。

「……わかった」

少し寂しそうに笑って、アンジェの体を抱きすくめる。

「困らせてごめんな。ほんまは、アンジェが俺を好きかどうかなんてどうでもええんや。
 俺が何よりアンジェを愛しとること、わかっとってくれたら。
 いちばん好きでいてくれなんて言わん……アンジェが俺を嫌いになるまで、そばにおってくれるだけで倖せやさかい」

卑怯だとアンジェリークはいつも思う。
このひとはいつも、なんてたやすく自分の心を捕らえてしまうんだろう。
初めて会ったあの時から。二人で生活を始めて久しい今に至るまで。

「……私の意見は、無視なんですね」
「あ?」

少女の真っ赤な顔が見えない彼は、怒りに似たその声におたついて身体を離そうとした。
それを掴んだ腕で引き寄せながら、アンジェリークは青年の胸に顔を押しつけて叫んだ。

「私がどれだけあなたを好きでも、あなたには関係ないんですか!?
 ずるいです、そんなの。自分は毎日好きだ好きだ言ってるくせにっ」
「???」

怒られてるんだか何だか分かってない彼から不意に手を離し、いたずらっぽく舌を出す。

「そんなんじゃ、いつまでたっても気付けませんよ?」

自分の方がよっぽどあなたを好きだと、ずいぶん昔から思っていることを。


「ア、アンジェ?……なんのことや、教えてんか〜」
「べーっだ、くやしいから教えない!」

じゃれあうふたりの肩越しに、霧雨がけぶって見えた。

FIN.

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