それから三日の間、私はずっと私室のベッドの上にいた。
真っ青な顔色と流れる冷汗を見て、ロザリアは即座に過労による衰弱と判断してくれたし、医者以外誰も目通りできないように取り計らってくれた。
もう何もかも投げ出してしまいたいと思うことさえはばかられる私にとって、それが一番ありがたかった。
自分をどうにか落ち着かせることができるまで、他の何事も考えたくなかったから。
少し気が静まると、私はあの時のことを反芻して時を過ごした。
なんだか、子供のようなことを言ってしまった気がする。『守護聖の資格』なんて、あるはずがないのに。
それでもあのときは、どうしようもないことを言い出したあのひとがすごく勝手に思えて。
私のそれまでの努力や我慢が、ぜんぶ無駄だったって言われたような気がして。
どうしても、黙ってはいられなかった。
「……ばかね。誰に認めてもらえなくたって、私は何とかやってるじゃない。
ジュリアス様だって努力していることだけは誉めてくださったわ。
これからもっと努力して、いろいろなことを経験して……私は私の思うような女王になればいいのよ」
独語して、私はひとりでくすくすと笑った。
大丈夫、きっともう大丈夫。謁見であのひとから目を逸らすこともない。
自分で判断して、理に適った答えを導くことができるはず。
「あら、陛下。今日は御気分がよろしいようですわね」
弾んだ声がして、ロザリアがマグカップを持って現れた。ベッドから起き上がって、今まで口をつける気にならなかったそれを受け取る。
「ええ。ずいぶん心配をかけてしまいましたね、もう大丈夫です」
「何よりですわ、陛下の姿がないと宮殿も灯が消えたようで」
自分のことのように嬉しそうに笑うロザリアを見て、私は彼女のあたたかないたわりを感じた。あまい飲み物と一緒に、それは傷を癒してゆく魔法のようだった。
「私が怠けている間、仕事が大変だったでしょう。今日から執務に就きます」
「そんな、もう少しゆっくりおやすみにならないといけませんわ。
無理は厳禁ですわよ、それでなくとも即位してからろくに休まれずに来たのですから。疲れがでたのですわ」
「ありがとう。でも、私でなくてはできない仕事がたまっているのでしょう?
窓の外に、ジュリアスの使いの者が右往左往しているのが見えましたよ」
あら、とロザリアは首を傾げた。
「そういえば、先ほどジュリアスから緊急の謁見の申し出がありましたわ。
陛下はまだおやすみですと申したのですが、とにかく一大事なのだからと。
……あのかたの一大事は、あまり信憑性があるようにも思えませんけれど」
小さなその呟きに、私たちは顔を見合わせて微笑った。
その笑いが崩れるのに、四半時の時間もかからなかった。
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