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  THE ANOTHER STORY -SIDE QUEEN- 1 

何もかもが自分の思い通りになればいいなんて、考えたことがなかった。

でもね、少しでいいの。すこしだけ、夢を見たいなって…思うことがある。
現世界の女王、至高の地位にある私が、コドモみたいなことを考えてちゃダメかしら?
こんな私は、あのひとの『女王』に相応しくない…?


聖地に在る女王の宮殿。その最奥の部屋では、今日も女王の執務が行われている。

「次に、この前の開拓惑星の件ですが……大神官からの通信も入っていますし、経過の方も良好です。
 もう一人立ちできるものと思われます」
「そうですか。ではその旨を皆に伝えて下さい、よく頑張ってくれましたと」
「承知しました」

てきぱきと動くロザリアの手が書類を整理していくのを、私は少し物思いにふけりながら見つめていた。

「……それから……。これはごく内密に、とのことなのですが。ある星から救援要請が出ていまして……」
「救援要請?」

ふと聞き直した私に、ロザリアは言いにくそうに言葉を綴る。

「実は、前女王から陛下へ世代交代する際に次元のほころびに掛かったらしく、惑星自体の気象バランスがわずかに狂ってしまっているそうです。
 通常ならまもなく回復するレベルですが、原因が原因ですし早急に処置すべきかと」

説得するような彼女の言葉を、私は繰り返した。

「まもなく回復する、と。その程度の“誤差”なのですね?」
「はい、しかし……」
「ならば考えるまでもありません。原因は何であれ一地域だけを特別視する訳にはいかないと、そう伝えなさい」
「……………はい」

納得しきれない表情の補佐官を見て、私は一瞬迷いを感じた。もしかして、ロザリアの方が正しいのかもしれない。私の判断が間違っているのかも……。

「今日の予定はこれだけでしたね。では退出するように」

しかし、私の口から出たのはそんな言葉だった。


どうしてなんだろう。
いつもいつも、ロザリアにまで肩肘を張った態度をとってしまう。
候補時代からずっと一緒の、私が女王に決まっても心配だからとあえて残ってくれた、たったひとりの親友なのに。
いつも冷静沈着で、有能で、自信にあふれているロザリア。彼女に優っているものなんてなにもない気がするのに、その彼女を差し置いて私が女王になってしまったのは……。

きっと、……私を買いかぶっているんだわ。私が女王に相応しいなんて、どうしても思えない。
あのひとの理想に近づきたいと思えば思うほど、遠くかけ離れている自分に気づく。
唯一逢うことのできる謁見の時も、じっと見つめるあのひとのアメジストの瞳が責めているような気がして、目を合わせることができなかった。
どうして私だったのか。もしかして、好きですと告げてしまった私だから、そしてそれを拒んだ自分だったから、力を贈り続けて下さったんだろうか。
そうかもしれない。濃紫の建物が並ぶエリューシオンの状況は、パスハさんにも誉められてはいなかった。バランスを欠いているとよく注意されていた。
皆はあまり知らないようだけれど、周りで思われているよりはずっと他人を気遣うひとだから。
私に気をつかってサクリアを贈って、そして……。

「……今日はもうすることもないわね。散歩にでも行こうかな」

その時、私はまだ理解していなかった。女王の重責を担うことへの不安よりも、あのひとに認めてもらえない恐怖が、自分の心を閉ざしていたことに。

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