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 黄金色の花束を抱いて 3 

「待っていてください」

青年は少女を見た。

「……あなたにとって、それは一番辛い選択かもしれません。
 でも、私が愛しているのはあなたなんです。あなたと共に生きていくことが、私の幸せなんです。だから…、
 私の女王としての時間と、あなたの守護聖としての時間が終わるまで。待っていてくださいませんか」

青年はとっさに答えを返すことができなかった。これから何千年続くか判らない時間に対して、誰がそんなことを考えるだろうか。
目を見張って動けない彼に、少女はくすりと笑った。

「いつか、その日が来る。サクリアが衰えて、手放した遙かな昔に還る日が。
 だけど、たとえ今までと違う時間を生きることになっても、ふたり一緒なら恐くはないでしょう?」

気負うこともなく首を傾げる。
やっと驚きから解放された青年が何か言おうとした時、だが、少女の表情にふっと影が差した。

「……でも。もしかしたら、時間はあなたの心を変えてしまうかもしれません。
 その時はどうか、御自分の思うように生きてください。
 長い時間が人をどう変えるかは……あなたの方がよくご存じでしょうから。もしもあなたが
「待っている」

なおも続けようとした彼女を遮って、青年はふわりと微笑んだ。
自分はこの少女を理解しきれていなかったのだ、と、彼は思わずにいられなかった。
これがロザリアにはなかった資質なのか。いや、歴代の女王でさえ彼女の真似はできはすまい。
新世界の初代統治者。

「守護聖としてのこれからがどうあろうとも、おまえだけを愛している。
 来たるべき未来を楽しみに待とう、アンジェリーク。……おまえこそ、私を選んでくれるか?」
「クラヴィス様!!」

堰を切ったように声をあげ、少女は彼の胸に抱きついた。
先程までの気丈さなど消し飛んだ泣き顔で、彼の名を呼び続ける。
青年は小さな子供をあやすように、その頭に手を置いた。

「…大丈夫だ、アンジェリーク。おまえは立派な、そして幸福な女王になる。
 私も闇の力を疎ましく思うのはやめよう、守護聖であればこそおまえを守り助けることもできるのだからな。
 私はおまえを誇りに思い、おまえのために力を尽くす自分を好きにもなれるだろう、……アンジェリークよ」

女王としての辛い日々は始まったばかりだけれど、その先の希望を糧として生きていこうとする彼女と、彼女の創る世界。
それを護るのが自分なのだと。青年は今初めて、己の存在する理由を知った気がした。


「……陛下! どちらにいらっしゃるのですか、陛下

やがて、二人の上に現実が落ちてくる。
少女は瞳を閉じたまま、長身の守護聖を振り仰いだ。
その口唇に柔らかな温もりが満ちて……、
少女は毅然と姿勢を正して身体を退いた。

「私はこれから、世界を導かねばなりません。守護聖の皆も含めた全ての生命を、幸福へと導くのです。……クラヴィス、」

その表情はすでに、真摯で慈愛に彩られた女王のそれだった。

「そなたも…この女王のために尽力するように」

すっ、と差し出された掌を、青年はひざまづいて手に受けた。

「すべては、女王陛下の御心のままに」



永遠の暗闇を抜けた光が、世界を黄金色に輝かせていた。

 

FIN.

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