| がばっ、と慌てて体を起こした。心臓が、苦しいくらい早く鳴っている。
 広いベッドの上、一人で胸に手をやり、居るはずのない君を捜してそっと辺りを見回す。
 バカバカしいと思いつつ。
 
 君の夢を見た。
 笑顔が、首をかしげる様が、最後の場面が、あまりに鮮明だったから驚いただけ。
 鼻で笑って、眠り直そうと思っても、何故だか目を閉じられない。
 
 理不尽だ。
 何で僕がこんな目に遭わなくちゃならないんだ。
 たかが子供だ。無力で、ナマイキで、この僕の誘いを断った。
 どうせ今頃、ぬくぬくと眠っているんだろう。
 
  僕のことなど、夢にも見ないで。 
 「……シャーリー。」
 
 ただ名前を、呼んでみただけさ。
 胸の奥がギュッと締まる。
 
 あの子の声が聞こえる。
 嬉しそうな笑顔が目に浮かぶ。
 草原の中、チョコレートの滝とキャンディツリーを見上げて、
  きれいね、と。 工場の中、僕にトコトコ付いてきて、チョコをかじって、
  おいしい、と。 そう、言った。
 
 聞こえるはずがないのに。
 ここにはいないのに。
 ガラスのエレベーター、反動で僕にもたれかかり、
  ごめんなさい、と。 思わず支えた僕に、
  ありがとう、と。 そう言ったのに、どうして?
 
 あれから、ずっと、君の声が止まらない。
 響くたび、体の奥が熱くなる。
 言い返そうとするんだけど、言葉になりきらずに胸に焼き付く。
 
 目の前にいれば、何か言えるだろうか?
 君の最後の言葉、思い出したくはないけれど。
 もう一度、チャレンジする為には復習が重要だ。
 
 あの時、僕は何て言った?
 そして、君は何て言った?
 何が、いけなかった?
 
 君と一緒にいる為には、何が必要?
 僕に、足りない物は何?
 
 分かったら、もう一度君に会いに行くよ。
 
  でも分からないまま行くかもしれない。 もう少し分かりやすく説明してくれないかな?
 
 僕と一緒にいたければ、ただ、笑っていてくれればいい。
 
  そして、いつかは僕の夢を見て。   END. |