ガチャガチャ!バンッ!! 
 
「ソフィーッ!あーっっ、やっぱり!!」 
 
息せき切って飛び込んできたハウルを、食卓についていたマルクルとソフィーは目を丸くして見た。 
 
「どうしたのハウル?今日はサリマン先生と一緒に、王宮の晩餐会に行くんでしょ?」 
 
真っ白いマントを投げ捨て、つかつかと歩み寄ってくるハウルに、ソフィーが心配そうに訊ねる。 
 
「行ったさ!退屈だったからここを視てみた。水晶が傷むから遠視はいやなんだけど、サリマン先生の珠があったからちょっとだけ。そしたら…そしたら!ソフィーが嬉しそうにケーキ作ってるじゃないかっっ!」 
「…あ……えぇ、今日お誕生日だから。ハウルがいないしどうしようかなと思ったんだけど…卵も小麦粉もあるし、ホラ、この前拾いに行った栗を甘煮にしておいたから…」 
 
その言葉に、ハウルは両手で顔を覆いながら絶望的だというようによろめく。 
 
「僕がいない間に……僕抜きでパーティ?僕抜きで!?どうして僕には何にも言ってくれないのさ!!」 
「だって、今日の晩餐会は王子の婚約披露でしょ?行かなきゃお仕置きされるって、ハウルが言ってたんじゃない。」 
「これを知ってたらカエルにされたって行くもんか!…マルクル、カルシファー!!お前ら知ってたのか?知ってて黙ってたのか!?」 
 
一歩ごとに床に靴跡がくっきりと焼け付いている彼と後ずさりするマルクルの間に、ソフィーが割って入った。 
 
「やめてよハウル!マルクルが悪いんじゃないわ、内緒にしてて驚かそうって言ったのは私なの!」 
「…君が……?どうして?…僕には祝って欲しくなかったの?僕は…僕は君におめでとうを言いたくて…」 
 
彼が信じられないというような表情でじりじりと後退する。 
 
「……???おめでとう?………きゃ!!」 
 
ハウルの体から青い炎が勢いよく燃え上がり、ソフィーとハウルの回りを一瞬で取り囲む。 
 
「…おめでとうって…いちばんに、君に……言うのは僕だったのに!!僕がびっくりさせたかったのに!!抱えきれない位の花束に、ドレスに、毛皮に、チョコレート!僕があげるんだ、世界中の美しい物、全部!!」 
 
蒼い瞳に涙をいっぱい溜めて叫んだ彼に、しばらく考え込んでいたソフィーが顔を上げ、優しく微笑んで。 
炎の上がるハウルの体を、ためらうことなく抱き締めた。 
 
「ハウル…ありがと。世界でいちばんハウルが好きよ。」 
 
周りの空気がシュン、と音を立てて冷え、しがみつくように腕に力を込める彼が泣き声で呟く。 
 
「でも…もう時間がない…何にも出来ない……僕は役立たずだ…」 
 
また顔を覆ってしまった彼の背中を、あやすように優しく叩きながらソフィーが小さく囁いた。 
 
「大丈夫、プレゼントはいらないわ。今日は私の誕生日ではなくて あなたのお誕生日なんですもの。 私がいちばんに言うわ、お誕生日おめでとうハウル。」 
 
 
 
 だって、誕生日を祝ってもらうなんて何年もなかったから忘れていたんだ! 
 
言い訳をしながら魔法で部屋を片づけるハウルの前髪を柔らかい風が弄んでいく。 
ケーキを切り分けた後、マルクルに差し出されたリボンのついた包みを受け取り、咳払いを二つして。 
お茶を入れているソフィーに気付かれないように広げた新聞に隠れて、彼が小さな声で囁く。 
 
「…ありがとう。欲しがってた『竜の眼』、後で部屋に取りにおいで。」 
「ほんとう?青色の?…やったぁ!?」 
「しぃっ!…その代わり、ソフィーの誕生日聞いておいて。絶対!僕が聞いてたって言っちゃダメだからね!?」 
 
コクコクと頷くマルクルを見て、ハウルは楽しげに微笑んだ。 
FIN.  |